第2話 はじめての戦い
〈ラフレシア・ガーデン〉
-ツクバネの街近郊-
▼民家
『サブロウ!早く起きなさい!朝ご飯はもうできてるわよ!』
「ふあぁぁぁぁ〜」
もう朝かよ。まだ全然寝足りないぞ。それに…...いてっ、いててててっ!体のあちこちが痛ぇ。くそっ。全部あいつのせいだ。あんな全力で走ったせいだ。いてててっ。寝返りすらうてねぇ。いずれ魔王となる俺がこんな無様な姿になるなんて…...こうなったらこのままもう一回寝ちまおうか。
「ほら!」
「うわっ!?」
布団をかぶった瞬間、お腹のあたりに何かがのしかかってきた。この重みは……
「早く起きなよ」
「……」
あの忌々しい声が聞こえる。モンスターのくせに昨日俺のことを散々バカにしたあげく、俺のアジトまでついてきやがったあいつだ。そしてとうとう俺の部屋にまで侵入してきたこいつはなぜか俺のベッドの上に丸くなって寝やがった。なんて図々し奴だ。こんな奴はすぐにでも外に追い出したかったが体が限界に来て結局俺も睡魔に襲われちまったわけだ。
「起きなよ」
「……」
腹をグリグリするな。どうして家主である俺がこんな居候野郎の指図を受けないといけないんだ。こいつがなんと言おうと俺は絶対にここから出ないからな。
「ピョンピョン」
「……」
今度は飛び跳ね始めやがった。体に響くからやめろ。くそっ。こうなったら無視だ無視。
「意地でも起きないつもりか」
「……」
「…...早く起きないとまたお腹に頭突きしちゃうぞ」
「起きればいいんだろ」
「そうそう。素直でよろしい」
くっそう…...こいつだけは一生許さねぇ。
「サブロウ!なんだ、起きてるんじゃない。珍しいこともあるもんだね」
「起きたくて起きたんじゃねぇよ。この凶悪なモンスターに無理やり起こされたんだよ!」
「モンスター?」
「こいつだよこいつ!どこからどう見てもモンスターだろ!」
「あぁその子。その子はあんたの友達なんだろ」
「はぁ!?友達だぁ!?」
いつからそんな話になった。確か昨日は帰ってそのままベッドに入ったはず。こいつだってすぐに寝てただろ。母ちゃんとまともに話す時間なんてなかったはずだ。なのにどうしてこうもあっさりと受け入れられてんだ。
「私はうれしいよ。あんたにこんな可愛い友達ができて」
「だから友達じゃねぇって!」
「あんたがいつも一人でよく分からないことを言ってる時は本当に心配したけど、これで安心だよ。友達とは仲良くしなさいよ」
全く聞く耳持たねぇじゃねぇか。なに今にも泣きそうにしてんだよ。自分の息子がモンスターと友達になってうれしいとか頭おかしいだろ。
「とにかく、早く朝ご飯食べに来なさいよ」
「は〜い」
「どうしてお前が返事してんだよ」
「ほら行くよ」
「こら!勝手に動き回るなって、いててててっ」
家ん中こいつにうろちょろされたら迷惑だからな。こうなったら俺がどうにか外に追い出さねぇと。それにしても体が……
「昨日ちょっと走っただけなのに筋肉痛とは情けないねぇ。それでも魔王になるなんて言えるの」
「うるせぇな!そもそもお前が全ての元凶だろ」
「はいはい。それより早く朝ごはん食べようよ。僕もうお腹ぺこぺこだよ」
「モンスターならモンスターらしくその辺の草でも食ってろよ」
「う〜ん。雑草はあまりおいしくないからな。僕はこう見えてグルメなんだよね」
なにがグルメだ。どこの世界に人の家でご馳走になるモンスターがいるんだよ。お前なんか残飯で十分だ。
「はい。野菜と牛乳。それとパンもあるからね」
「わ〜い」
「俺と同じ飯じゃねぇか!どうしてモンスターのこいつと俺の飯が同じなんだよ」
「別にいいじゃん。ムシャムシャ。おいしい〜」
うそつけ。人間でもあるまいし。モンスターにまともな味覚なんてついてねぇだろ。
「ところで君ってサブロウって名前なの」
「サブロウって呼ぶな!俺の名は、ディアボロス=シグマ=ハデス3世だ!」
「なるほどなるほど。サブロウだから3世ってわけだったのね。納得したよ」
「勝手に納得してんじゃねぇ!俺のことはハデス様と呼べ」
「えぇ〜。そんな恥ずかしい名前じゃなくってさ、サブロウの方が断然呼びやすいしかわいいじゃん。サブロウって」
どいつもこいつも同じこと言いやがって。よりにもよって一番知られたくねぇ奴に知られちまった……
「ねぇサブロウ、ドレッシングとって」
「だからサブロウって呼ぶんじゃねぇ!」
「こらサブロウ。朝から大声出すんじゃないよ」
「はははっ。サブロウ怒られてるよ」
こいつ…...殴ってやりてぇ。そもそもラビットのくせにドレッシングなんていらねぇだろ。
「喋ってばかりいないで早く食べちゃいなさいよ」
「……俺はもう食べ終わったよ」
「まだ野菜が残ってるじゃない」
「サブロウって野菜食べられないの。かっこわる〜」
「う、うるせぇな。魔王となる俺にはこんなもん必要ねぇんだよ」
「つべこべ言わない。もう大人なんだからちゃんと食べないとダメでしょ」
「そうだそうだ」
「…...俺はもう行く」
「ちょっとサブロウ!」
「逃げるな」
ギャーギャーうるさい奴が増えやがって。これ以上こいつらに構ってられるか。俺には成し遂げねばならない野望があるんだ。一秒たりとも無駄にできねぇ。
「待ってよサブロウ」
「ついてくんじゃねぇよ」
どうしてこいつはいつも俺についてくるんだ。うっとうしくてしょうがねぇ。
「俺は今からモンスター狩りするんだよ。邪魔するんじゃねぇ」
「モンスター狩りって言ってもどうせまた〈ホワイト・ラビット〉ばっかりなんだろ」
「うるせぇな。そんなの俺の勝手だろ」
「そんな低レベル、低レアリティのモンスターいくら倒しても大して経験値はもらえないだろうに」
「しょうがねぇだろう。この辺には〈ホワイト・ラビット〉しか出ねぇんだから」
「本当?実は他のモンスターに勝てないだけだったりして」
「そんなわけねぇだろ。俺様のようないずれ魔王になる男にかかればどんなモンスターがかかってこようが余裕に決まってんだろ」
「ヘェ〜」
「なんだよ」
表情からは全く分からないが、どう考えても何か妙な事企んでやがる。俺には分かる。これからこいつがとんでもないことをしでかすに決まってる。
「だったら経験値を効率よくゲットするためにもっと高レベルのモンスターと戦ってみようか」
「どう意味だ」
「言葉通りの意味だよ。僕が君をいい狩り場に連れてってあげるよ」
***
〈ラフレシア・ガーデン〉
-ユウガオの森-
「おい。どこまで行くんだよ」
「もうちょっと」
俺をいい狩り場に連れて行くと言ってからかなり長い時間が経ってこんな森の中まで来ちまった。俺もここまで来るのは初めてだ。ヒルガオ平原とは対照的に多くの木々に囲まれたこの場所は気味が悪くなるくらいジメジメとしていて薄暗い。いかにも魔物が出てきそうな場所だ……ってまさか、こいつ俺を油断させておいてこのまま自分の巣穴に誘導してるんじゃないだろうな。
「この辺でいいかな」
かなり森の奥まで進んできたところでようやく止まったと思えば、そこは特になんの変哲も無い場所だった。どうしてこんな何もない場所にまで連れてきたんだ。モンスターなんて一匹もいねぇじゃねぇか。
「ここに何があるって言うんだよ」
「まぁまぁ。少し待ってよ」
「待てって言われてもな……」
「アッ、アンナトコロニモンスターガ」
「なに!?モンスターだと!?どこだ!」
ようやく俺の出番というわけだな。こんな森の奥に住みついてるってことは相当レベルが高いに違いない。ここで一気にレベル上げするチャンスだぜ。さぁ、どこからでもかかってきやがれ。
「……って、どこにもモンスターなんていないじゃねぇか」
木の陰にでも隠れてんのか。それとも透明なモンスターとかなのか。
「フシュウ〜。ブルルルルル」
「おい。なんか言ったか」
「僕は何も。それより後ろ振り向いたほうがいいんじゃない」
後ろ?なんだよ急に。後ろに何があるっていうんだ……
「ヴィヒーン!!!」
「ぎゃー!!!」
な、なんだよこいつ!?モ、モンスターなのか?姿形はホース族に似てるが、それ以外は明らかに別物だ。まず何より全身が禍々しい漆黒によって覆われてる上に体から瘴気みたいな毒々しい霧を出してやがる。しかも頭やら背中には頑丈そうな鎧みたいのが装備してある。こいつ、どう見てもやばすぎだろ。
「落ち着きなって。将来の魔王が聞いてあきれるよ」
「うっせぇ!そんなことよりなんだよこいつ。ホース族か。それともポニー族か。こんなの見たことねぇぞ」
「そういう時は名前を確認すればいいじゃないか。常識だろ」
「い、言われなくても分かってるよ」
名前は……〈ブルータル・エクス〉。レベルは……15!?なんだよこのレベルは。俺より高いレベルのモンスターなんて初めて見たぜ。しかも倍以上違うやつなんて、こんなモンスターがこんなすぐ近くにいるなんて聞いてねぇぞ。
「もしかしてびびった?」
「び、びびってなんかねぇよ。ちょっと驚いただけだっつうの」
「ならそろそろ構えた方がいいんじゃない。あちらさんもこれ以上は待ってくれないみたいだよ」
「なにっ……」
「来るよ」
「待て待て!まだ準備が、ぎゃあぁぁぁぁ!!!ぐふぉっ!」
モンスターの猛烈な突進攻撃をまともに食らった俺は3メートル以上も吹っ飛ばされたあげく背中から木に激突した。その瞬間今まで経験したことのないような痛みが全身を駆け巡る。ステータス画面を確認すれば体力が3割以上も削られていた。
「ハハハハハハハ!」
すでに戦場と化しているはずの森の中に場違いな笑い声が響く。あの野郎…...何が楽しいのか俺の方を見ながらピョンピョンと飛び跳ねてる。完全に俺をおちょくってる。
「笑ってんじゃねぇよ!こっちは死ぬところだったんだぞ」
「油断するからだよ」
「しょうがねぇだろ。こんなに強い奴が出てくるなんて聞いてねぇよ。しかもどうして突然現れたんだ」
「どうしてだろうね〜。でもいいじゃん。倒せばたくさん経験値がもらえるんだから」
「俺が倒されたら元も子もねぇだろ」
「ほら、喋ってる暇なんてないんじゃない。次が来るよ」
まじかよ。まだ痛みも残ってるっていうのに。こんな状態でまたあの攻撃を受けたら本当に死んじまうぞ。
「突進攻撃は当たるギリギリでよけるんだよ」
モンスターのくせにこの俺にアドバイスなんかしてんじゃねぇ。そんなこと百も承知だっつうの。何も難しいことはねぇ。ただかわせばいいんだろ。
「うわっ!」
「やるじゃん」
目にも止まらない勢いで突進してきたところを俺は間一髪でかわすことに成功した。だがモンスターの攻撃はそれで終わりじゃなかった。俺に攻撃をかわされたことに腹でもたてたのか、図太い唸り声をあげながら俺に向かって突撃してきやがった。しかもその勢いはだんだんと増している。
「うおっ!」
「うまいうまい。逃げるのだけは三流じゃないんだね」
「うるせぇ!」
「だけど逃げてばかりじゃ倒せないよ」
「こんなのどうしろって言うんだよ。俺よりレベルが高いんだぞ。ぎゃっ!」
「戦いの優劣はなにもレベルが全てってわけじゃないんだよ。戦い方の工夫次第でいくらでもその差は埋められるのさ」
「げっ!」
「ねぇ聞いてる?僕、今結構いいこと言ったんだけど」
「そんな余裕あるか!」
俺がこうも必死にモンスターの攻撃をかわしてるってのに、あいつはなにを呑気に喋ってんだ。本当にムカつく野郎だ。
「まいっか。とにかく僕が何を言いたいかというと、これから君に戦い方を伝授しよう」
「はぁっ!?モンスターとの戦い方をどうしてモンスターに教わらないといけないんだ!」
「感謝の言葉はいらないよ。僕たち友達だろ」
「何が友達だ。どこの世界にモンスターに襲われてるのを笑いながら眺めてるだけの友達がいるんだ!」
「いやぁ、案外そういう奴はたくさんいるんだよ。友達だと思ってた奴が平気で嘘ついたり、人の気持ちも考えずに自分勝手したり。他人が作ったものを我が物顔で自慢したり、とかね」
なんだよいきなり。神妙な態度になりやがって。モンスターのくせに意外と苦労してんだな。
「って、そんな話してる場合か!危ねっ!」
「だけどよくかわすね。回避率が高いのかな?」
「そんなことより早くこいつをなんとかする方法を教えろ!」
「あれ〜、モンスターには頼らないんじゃなかったっけ〜」
「ふざけてんじゃねぇ!こっちは今にも殺されそうなんだ!」
はぁ……はぁ……はぁ…...それに俺の体力もそろそろ限界が……やばい。もうこれ以上走れねぇ。
「冗談だって。それじゃあ真剣にやろうか」
最初から真剣にやれってんだ。そうすれば絶対にこんなに疲れずに済んだだろ。
「そうだね。まず確認するけど〈ブルータル・エクス〉はレベルが15、確かに君よりレベルは高いけど、そこまで恐れるほどのステータス差はない」
「本当かよ」
「エクス族の特徴は分かると思うけど、何よりもその高い素早さだね。それ以外はそんなに大したことない」
「この速さが厄介なんだろ。いくら逃げても追いつかれそうなんだよ」
「そう言う君もなかなか素早いじゃないか。そのおかげであいつも相当疲れてるはずだよ。げんに追ってくるスピードも最初に比べてかなり下がってる。僕は感心したよ。三流のくせにやるじゃん」
「うるせぇ!さっさと対策を教えろ!」
確かに今は大人しくなってるかもしれんが、うかうかもしてられねぇだろ。やるなら間違いなく今がチャンスだ。
「焦らない焦らない。僕はもうその解決方法を教えたじゃないか」
「俺にどうしろって言うんだよ!」
「だ・か・ら。素早さ勝負じゃなくて、力勝負に持ち込めばいいってこと」
「力勝負って…...あの攻撃を受け止めろってか!?」
「がんば」
「ムリムリムリムリムリムリムリムリ!!!あんなのを真正面から受けたら普通に即死だろ!」
「そんなことないって。ほら挑戦あるのみ。僕を信じろって。友達だろ。キリッ」
「絶対に信用できねぇ奴の目だろ、それ!」
実際にはいつもと同じ平然とした顔をしてるが、明らかにやばいことを企んでやがる。確か朝にも同じようなことがあったな。そもそもこいつの悪巧みのせいでこんな危機的状況に陥ってるんだ。まったくもって信用ならねぇ。
「本当に大丈夫だって。なにせ僕の突進を何回も受け止めてきた男じゃないか」
「……」
「魔王になるんだろ。もしその気持ちが本物ならきっとできる。僕はそう思うよ」
「…...くそっ。やるしかねぇのか」
できることならこいつの口車なんかに乗りたくねぇが、このまま言い争っていてもラチがあかねぇ。こんなことしてる間にもあのモンスターの体力が回復しちまう。こうなったら俺様の隠された力を発揮するしかないみたいだな。
「かかってきやがれ!我が名は、ディアボロス=シグマ=ハデス3世!いずれ魔王になる男だ。どんな攻撃だろうと受け止めてやるぜ!」
俺ならできる。常日頃から鍛え上げてきたこの体があれば、絶対に勝てるはず……「ぎゃはっ!」……がねぇ。
「あれ〜。結構飛んだね」
もう無理。そもそも冷静に考えればこんなのに力勝負だって勝てるわけがねぇだろ。
「大丈夫?生きてる?」
「これが大丈夫に見えるか。無理に決まってんだろ。体が痛すぎて死にそうだ」
「大袈裟だな〜」
「めちゃくちゃ痛いんだよ!お前もくらってみろ!」
「嫌だよ。僕、痛いのと怖いのは嫌いなんだ」
「ちくしょう……」
もうどうしようもないのか。俺にはあいつを倒すことができないのか。
「おっと、楽しく話してる場合じゃなかったね。向こうもまだまだ攻撃したりないみたいだよ」
俺を吹っ飛ばした後もあの獰猛なモンスターは猛り狂ったような雄叫びをあげながら俺めがけて突進する気でいるようだ。どう考えても俺を殺すまで追いかけ続けるつもりでいるに違いない。逃げても無駄。立ち向かっても無駄。これ以上どうすりゃいいんだ。俺はこのまま座して死を待つしかないのか……
「聞いてる?サブロウ」
違う。そんなこと絶対にありえねぇ。たとえ死ぬとしてもこのまま無様な姿で死んでたまるか。俺の全力はこんなもんじゃねぇ!
「あれれ〜。もしかしてもう諦めちゃった?」
「…...そんなわけねぇだろ!俺様は魔王になる男だぞ。こんなところで終わってたまるか!」
「そうでなくっちゃ。だから次はちゃんと受け止めなよ」
「またさっきと同じなのか!?」
「大丈夫。次は僕もサポートするから」
「お前に何ができるんだよ」
「ふふふ。僕を見くびっては困るよ」
な、なんだこのこいつから溢れる絶対的な自信は。妙なオーラすら見えてくる勢いだぜ。こいつには散々裏切られてきたってのに、それすら全て帳消しにできちまうんじゃないかってくらいだ。マジで何をする気だ。
「ほら、向かってくるよ。ちゃんと構えて」
「わ、分かってるっての」
まだ何の準備もできてねぇってのに。本当に大丈夫かよ。
「もっと腰を落として!重心を下に!」
「分かってるわ!っていうか来てるぞ!どうすんだ!」
「大丈夫だって。え〜っと…...ちょっと待ってね……」
「おいおいおいおいおいおいおい!来てる来てる来てる!」
「これがこうで……よし、いける!」
「ぐふぁっ!」
「あっ……」
いよいよマジで意識が遠のいてきやがった。もう痛みすら感じねぇ。俺の体力は…...真っ赤じゃねぇか。一割も残ってないなこりゃ。死ぬのか、俺。
「えっと……大丈夫?」
「大丈夫じゃねぇわ!」
「意外と元気だね」
「元気じゃねぇ!もう死にそうなんだよ!ていうかなんだよ『あっ』って!」
「いや〜、少しタイミングがずれちゃって。ごめんピョン」
「ふざけんじゃねぇ!どうしてくれるんだ!俺の体力がもう真っ赤だよ!次食らったら確実に死ぬんだぞ!」
「別にそんなカリカリしなくてもいいじゃん。死んでもどうせ復活して……あっ……」
「なんだよ。死んでも復活できるから大丈夫ってか」
「いや……」
「いいよなモンスターは。どんだけ死んだところで何回でも湧いてくるんだからよ。だけどな、俺たち人間は一度死んだら全部終わりなんだよ。じっちゃんも…...死んだら何もかも失うんだよ!俺は絶対に死なねぇからな。俺には魔王になってこの世界を支配するっていう野望があるんだ。それを実現するまで絶対に死なねぇ」
「……」
なんだよ急に黙って。珍しくしおらしくなってるじゃねぇか。こいつもようやく改心しか。
「今のは僕が悪かった。確かに僕もそういうのは嫌いだよ。ソンビみたいで気持ち悪いからね」
「モンスターに謝られたって嬉しかねぇよ」
「まぁそう言わずに。お詫びとしてあいつを倒せるよう全面的に協力するよ」
「それってつまり……さっきまでは適当だったってことじゃねぇか!」
「さて、なんのことやら」
こいつ。さっきまでの態度はどこに行ったんだ。
「ほらほら。次の攻撃がもう来てるよ。構えて」
「……この攻撃を受けたら、俺、死ぬのか」
「そうネガティブにならない。僕がついてるんだから」
「全部お前のせいでこんなにダメージを受けたんだからな!」
「今度は絶対に大丈夫だって。いくよ!」
「なんだ!?」
俺のやや後ろ側から気合の入った掛け声が聞こえたと思えば、突然俺の周りを赤みがかった薄い光が包み込んだ。驚いたことに体の疲れが徐々に和らいでいく。それになんだか力がみなぎってくるような。
「受け止めろ!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
俺はモンスターの突進を真正面から受け止めた。今まで散々吹っ飛ばされてきたってのに、嘘みたいだ。これでこいつの動きを止めることに成功したってわけだ。
「今だ!ナイフで攻撃するだ!」
待ちに待ったこの瞬間。動きが完全に止まったモンスターなら攻撃したい放題だぜ。ついに俺様の魔剣がその力を見せつける時だ。
「食らえっ!」
「ヒギィーン!」
俺の魔剣がモンスターの体を深くえぐった。しかもその瞬間、刃から妙な光が放たれたように見えた。
「今がチャンスだよ。そいつは当分まともに動けないはずだ」
あいつの言う通り、痛みに悶えながらその場を動けないでいるようだった。あいつが俺の魔剣に何か仕込んだのか?余計なことしやがって。だがこれで確実に攻撃を当てることができる。
「これまでの恨みを全部ぶつけてやるぜ!破滅の暗焔惨殺剣!」
俺が振りかぶった瞬間、魔剣の刀身が光り輝くと同時に赤く発色した。それが剣の切れ味を上昇させたということはなんとなく察した。そして気づいた時にはモンスターは跡形もなく四散していた。
「やった……のか」
「そうそう。おめでとう」
「ふふ…..まぁ、これくらい俺様にかかれば余裕だぜ」
「顔がにやけてるよ」
「うるせぇ」
別にこんなことで喜ぶ俺じゃねぇ…...なんたって俺の最終的なゴールはこの世界を支配する魔王となることなんだからな。モンスター一匹倒したところで……ふふっ。
「それより、経験値はどれくらいもらえたんだい」
「そうだ!」
ステータス画面を確認して…...すげぇ!レベルが上がってやがる!レベルが上がるなんて何年振りだ。
「あいつ、めちゃくちゃ経験値もらえるじゃねぇか。〈ホワイト・ラビット〉とは大違いだ」
「それは良かった。じゃあ今日はもう疲れたし、家に帰ろっか」
「ていうかお前は何もやってねぇだろ」
「そんなことないよ。僕のアドバイスあってこその成功だろ。それに戦闘中だってサポートしてあげたじゃないか。これだけしてむしろ僕に報酬が何もないのがびっくりなくらいだよ」
「そう言えばさっきのは一体なんだったんだよ」
「さっきのって?」
「とぼけんじゃねぇよ。あのモンスターを受け止めた時といい、俺が攻撃した時といい、妙な光が湧いたじゃねぇか」
「あぁ。あれは僕が使った強化魔法だよ」
「お、お前、魔法が使えんのか!?」
魔法が使えるのは勇者みたいな限られた人間だけだったはずだ。俺ですら使えないってのに。そもそもモンスターのこいつに使えるはずがないだろ。
「絶対に嘘だろ!」
「嘘じゃないよ。げんに君の能力を強化してあげただろ」
「確かに…...なら俺にもその魔法を教えろよ」
「う〜ん。魔法を扱うには専用のスキルが必要だからなぁ。今の君には無理かもね」
「そうなのかよ」
どうしてモンスターのこいつに使えて俺にはできないんだ。どう考えてもおかしいだろ。
「まぁ細かい説明はまた帰ってからするとして早く家に帰ろ。僕、お腹がすいてしょうがないよ」
「…...ったく、しょうがねぇな」
なんだか安心したら妙に疲れが…...あれだけ強力なモンスターと死闘を繰り広げたんだ。少しぐらい休憩も必要か。やべぇな…...俺もさすがに疲れが出てきて……
「お疲れ様」
みなさんこんにちは。
少し日数が空いてしまいましたが、これからはこのくらいの投稿ペースでいきたいと思ってます。
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