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もうすぐ誕生日

100万円あったらどうしようか。


僕の手を握る小さな手に聞くと、短く唸り声をあげた。小さな手の主は少し考える素振りをした後、

「わかんない」と素っ気なく答えた。

「そもそもさ」(最近の口癖だ。彼女の母からうつったとみられる)

「100万円ってどれくらいなの?」

当然の疑問である。僕は、自分の4ヶ月分のお給料くらいだと答えたがピンと来なかったらしい。まあ、無理もない。


それからしばらく歩いて目的地の玩具店についた。土曜の午後にしては空いている店内の、迷路のような棚の森を、彼女は目的地に向かって迷いなくスイスイと進んでいく。


彼女は、現在放映されている女児向けアニメーションのコーナーの前に陣取ると、見たことも無いような真剣な表情のままむっつりと黙り込んでしまった。


彼女に付き合ってというわけではないが、自分もグッズの棚を物色していると(実は僕もその作品のファンなのだ)


「100万円ってさ」

彼女がぽそりと言う。僕が『うん』と『え?』が混じったような間抜けな返事をすると、

「これ、ぜんぶ買えるの?」おもちゃから目を離さずに彼女は言葉を続けた。

この棚いっぱいのおもちゃたちのことを言ってるのだろう。

僕はざっと暗算をしてから、買えるのはここからここくらいまでかな。と、全身を使って指し示した。


ふうん、とそれが予想よりも多いのか少ないのかよく分からない反応をすると、彼女はまたおもちゃの検分に戻ってしまった。

もっと多いと思った?僕が聞くと、「ぜんぶ買えるのかと思った」おもちゃを見つめたまま彼女は言った。


案外少ないよね、と僕が笑う。(「あんがいって何?」『思ったよりも』ってこと。)

それから、100万円の少なさについて二人で議論しながら店を出た。


買うの決まった?僕が聞くと彼女は「プリンセスパジャマにする」と答える。暗闇で光る、パジャマを兼ねた変身グッズだ。


誰の色にするの?僕が聞くと彼女はまた例の真剣な表情を見せた。アニメには4人のプリンセスがいて、それぞれに色が設定されているのだ。


川沿いの道を、欲しいパジャマの色について二人で悩みながら歩く。夕焼けが彼女と僕を染めている。


いくつになるんだっけ?僕が、もう何回聞いたか分からないお決まりの質問をすると彼女は律儀に、空いてる方の手に繋いでる方の人差し指を添えて『6』を作り「6さいだよ」と答えてくれた。



何を買っても、いつかきっとガラクタになってしまうのだろうけれど。声には出さずに呟く。

二人で歩いたこの時を、覚えていてくれたらそれだけで嬉しい。まだ真剣な顔で悩んでいる彼女の、その小さな手を強く握りなおした。

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