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ボツ案③ 『坊主めくり全国大会決勝』


「俺のターンドロー!柿本人麻呂!!」


坊主めくり全国大会決勝戦。会場は異様な熱気に包まれていた。決勝まで残った二人は共に強者。一人はI.Q180の頭脳により全ての確率を計算し尽くした隙の無いプレイングをする武藤(たけとう)。それに対して前回大会の覇者である海原(かいばら)は防御を無視した豪快な攻めと圧倒的な引きの運に任せた派手なプレイングをする。


ゲームは終盤。山札(デッキ)に残るのは二枚。武藤には分かっていた。山札に残されているのは姫が一枚と坊主──蝉丸が一枚である。つまり次のターンで武藤が姫を引けば勝利し、蟬丸を引けば敗北する。


計算され尽くしたプレイングを行う武藤だが、ゲームである以上そこには運が付きまとう。武藤には残り二枚で勝負が決まる状況では毎回なぜか蝉丸を引いて敗北するという悪いジンクスがあった。


「フハハハハハ!きさま程度のガラクタに姫のカードが引き当てられるか!きさまには蟬丸がお似合いだ!」


勝利を確信した海原の高笑いが会場に響く。確かに今までの武藤なら間違いなく敗北していただろう。しかし、武藤の口元には不敵な笑みが浮かんでいた


「海原。見せてやるよ!俺の修行の成果を!」


最後は運によって決まる。ならその運を自らの力で引き寄せてやればいい!



昨年の大会で海原に敗れてから一年。武藤は己の信条である計算を捨て、全ての時間をカードと向き合う事に費やしてきた。


敗北の原因である蝉丸とは、そもどんな人物なのか。何を考え、何を成し、何を思ったのか。調べては引き。調べては引く。来る日も来る日も蝉丸の事を考えて過ごした。カードと共に食事をし、風呂に入り、恋バナをした。


そして、大会の前には蟬丸が住んでいたと言われる滋賀県大津市の逢坂山にも足を運んだ。カードを手に蟬丸が詠んだ歌を口ずさむ。


これやこの行くも帰るも別れては

知るも知らぬもあふ坂の関


出会いと別れを繰り返す旅人を眺めながら詠んだ歌。まるで、人生の分かれ道のようなその光景を眺めながら蟬丸は何を思ったのか。その場所で考えに浸っていると、まるで隣で蟬丸が微笑んでいるような錯覚を覚えた。



暫しこの一年の思い出に流れていた思考が会場の騒めきに引き戻される。


残されたカードに手を伸ばす。

自然と心は凪いでいた。

何を恐れる事がある。

俺は一人で戦ってはいない。

ここにこの一年苦楽を共にしてきた友がいる。


その時、声が聞こえた気がした。


《儂を信じろ、友よ!》


蝉丸!ああ分かってる!


「俺のターン!運命のドロー!!」


高々と掲げられたカードに照明が反射する。そこにいたのは──





「次のニュースです。昨日行われた『坊主めくり全国大会決勝』では。海原選手が三連覇を果たし賞金100万円を手にしました。なお、決勝戦の対戦相手であった武藤選手が『俺には蟬丸の声が聞こえた。負けるはずがない』などと意味不明の大声を発し警備員に捕らえられる一幕もあり、会場は一時騒然となりました」


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