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三枚の封筒

寝室のタンスの引き出しを開けると、出てきたのは三枚の封筒だった。全てに宛名も差出人はなく、厚みはどれも少しずつ違っていた。傾けてみると一つは何も入っておらず、一つにはお金の束が、一つには二つ折りの便箋が入っていた。

光ちゃんへ。

元気ですか。今何をしていますか。

お腹はすいていませんか。

お母さんは元気です。

でも光ちゃんがいなくてさみしいです。

光ちゃんがいたらといつも考えます。

ちなみにお父さんも元気です。

光ちゃんのぶんまでお母さんをからかって遊んでいます。

最近は髪の毛がうすくなっていないかをチェックさせています。気にしたらもっとうすくなりそうなのにね。

よかったら光ちゃんからもお父さんに言ってあげてね。

一枚目に目を通したところで男は便箋をゆっくりと封筒にしまい、他の封筒とともに元に戻した。そして自分が今何をしようとしていたのかを一瞬考え、札束の入った封筒だけを懐にしまった。

男には結婚を控えた娘がいた。いつも仕事から帰る頃には眠っていた娘が、いつの間にか立派な大人になっていた。

お父さんは私が結婚したらどうする、と幼かった娘はよく自分をからかったことが思い出された。

何故盗みになど入ってしまったのだろう。考えると薬で抑えたはずの咳が再発した。

そうだ、結婚式に出るためだ。

男は癌に冒されていたが手術費がどうしても工面出来ず、見知らぬ家の中を物色することを考えてしまった。

電話が鳴った。鳴り止まない。ピー。

鳴り止んだのを機に男はそろそろとベランダの窓から家を後にした。

これだけあればどうにかなる。

住宅街の路地を曲がったところで、前をよく見ないで走り出したものだから反対車線からきた車と接触した。

キーンと強い耳鳴りがする。電話が鳴っているのか。ぼやけた視界の中、男が懐に手に入れると、娘の写真が自らの血で濡れていた。

車の運転手が何か叫んでいる。

男は意識を失った。

翌日地方の新聞の一面に男の名前が小さく載った。

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