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ジェイクと魔法のランプ

 

シャルジャ国はペルシャ湾に臨み、商業を中心とした産業が発達した、貿易の盛んな国だ。スークと呼ばれる市場はいつも人で賑わっていて、おのぼりさん気分の観光客なんかも多い。そんな警戒心の薄い奴らが、ジェイクにとって格好のカモだった。だから、その日もいつものように隙だらけのお嬢さんの財布を擦った。それだけの、ハズだった。



「なのに、何でこんなことになってるんだ?」



薄暗い地下牢の中で、ジェイクはそう呟く。

・上等なストールを着けていた、いかにもお育ちのよさげなお嬢ちゃんから財布を擦った。

・路地裏に逃げ込んだら、何故かそのお嬢ちゃんの護衛っぽい奴らから一撃を食らい、オネンネとなった。

そして、起きてみたら地下牢で手錠もなくこの有様だ。


・・・つーか、ここって


違和感を感じ辺りを見回すと、次いで足音が響く。驚いて音のした方を見ると、そこにいたのは背の低い女性?子供?とその護衛らしき大柄な男二人。おそらく自分が財布を擦ったのはどこかのお貴族サマかそれなりの身分のガキなのだろう。


生まれた場所がちょっと違うだけで、これか


まったく嫌になる。ムスリムの戒律厳しいこの国では、ある程度の年齢になると男はカンドゥーラと呼ばれる白い服、女性はチャドルと言われるマントのような衣を纏う。まぁ、それもまともな家に生まれていたらの話で、ジェイクのような生まれてすぐ路地裏に捨てられたような子供には関係のない話だった。

白けた気分で溜め息を吐くと、足音が牢の前で止まる。続いて威圧的な棒のようなものを床に打ち付けるような音が響いた。



「控えろ。姫の御前だ」



は?姫?!



それが本当ならエライことだ。ジェイクが慌てて居住まいを正すと、姫と呼ばれた人物はクスリと笑った。



「そのように畏まらんでも、よい。大体、姫といってもわらわは異端扱いされた上に排斥された第十三姫だ。でなければ、このように外に出ることなど叶わんだろう?」



「・・・」



自嘲気味にそう言って外したフードからは、この国には珍しい真っ白な肌と光の加減によっては白にも見える金髪、青い目がこちらを覗いていた。



「望んだわけではないが、この通りの姿形でな。めでたく貴族の元に払い下げられた。

ここなら堅苦しい王宮と違って、勉強でも研究でもやりたい放題だ」



確かにナリは異形だが、それでも整った顔立ちのせいか違和感よりも美しさの方が際立っている。人づてに聞いた、女神を思わせる美しい姿に圧倒されていると、彼女は何食わぬ顔で再びフードを身に纏った。



「さて、わらわの財布を盗もうとした少年、名は何という?」



「あ・・・」



「さっさと答えろ」



言い淀むジェイクの顔前に、後ろに仕えている男が杖らしき棒を突き立てて急かす。



「止めろ」



威圧的な態度に反骨精神だけが膨れ上がるジェイクに気づいてか、姫がそう窘めた。



「なぁ。わらわはお主と敵対したいわけではない。お主がランプに住まうその日まで、友好的な関係を気づきたいと思っているだけなのだ。

でなければ、100万人の願いを叶えるなどという偉業を果たすことなどできんだろう?」



・・・は?今、この姫さんはなんて言った?



「ランプ、って。・・・ナンノコトデショウ?」



追いつかない思考に、口から溢れ出た言葉はそれだけだった。呆けているジェイクと対照的に、姫は何でもないように笑う。



「実はな、この度わらわが試作しているランプがあるのじゃ。そこに、お主には入ってもらおうと思っての」



ドン引きな俺をよそに、あれよという間に俺は彼女の怪しげな研究とやらを手伝うことになった。




まず、初めに案内されたのはジェイクが入っていた牢の奥にある実験室だ。最初、壁だと思っていた奥の岩が動いて姫の『実験室』とやらが姿を現す。


・・・つぅか



「マジ、牢獄だな」



牢獄に軟禁されている異端のお姫サマ。そしてそれを監視している門番。颯爽と実験室の中に入っていく姫を前にそう思う。そんなジェイクの呟きを聞いていたのか、姫は笑った。



「そうか?わらわは気に入っているぞ。四六時中誰かに監視されているような王宮の中よりずっとよい。ここまで嫌がらせをしに来るような物好きもおらんしな」



「まぁ、衣食住と安全が保証されてるだけぬるま湯なんじゃねぇ・・・です、か」



「それもそうだな」



快活に笑う姫様にその時湧き上がったのは、苛立ち以外の何者でもなかった。




それからは、姫様のパシリとして働く日々が始まった。

まず、実験に使う薬草やら器具やらを買いに行くのはジェイクの役目だった。



「とりあえず、おぬしが入るランプを選んでもらおうかの。本当は、おぬしに出くわしたあの日に買う予定だったのだが、財布を擦られたせいで叶わんかったのじゃ」



「・・・はぁ」



そう言われてしまえば断ることなどできない。あまりにも人を舐めきったこの口調から、一瞬そのまま逃亡してしまおうかと思ったが、その意を感じ取ったのか、姫は悪戯な笑顔を向けた。



「勿論、ザイードもつけるがの。くれぐれも、逃げようなどと思うなよ」



こちらの思惑など手の内らしい。悔しさに歯がみするジェイドを余所に、ザイードと呼ばれた男が黙礼した。



***


「イミ、分かんねぇ。何なんだ、あの姫さん」



「おい。口を慎め」



あれよあれよという間に展開した事態についていけず、思わずぼやけばザイードとかいう厳ついオッサンにそう嗜められる。



「そうは言ってもな。あんたらだって、好きで遣えてるわけ?」



「無論だ。あの方程の錬金術師はそういない」



「うへぇ」



目が、マジだ。

肩を竦めて歩くと、つい昨日までは普通に思えていたざわめきが他人事のように飛び込んでくる。



「あれ。ジェイク」



聞き覚えのある声に振り向くと、見知った顔があった。

彼女は、情報屋で蛇遣いのシーラだ。顔を合わせることこそ久しぶりだが、情報屋の彼女はジェイクの近況を聞いているのか、不思議そうな顔を向ける。



「久しぶりだな。っていうかお前、なんか捕まったって聞いたけ、ど・・・」



そう言いながら顔が固まったのは、後ろにいるザイードが原因だろう。その証拠に、後ろからは軽い咳払いのような声が聞こえた。



「なぁなぁ。お前、何でこんなの連れてるの?」



「ノーコメント」



シーラは興味津々に聞いてくるが、生憎彼女にくれてやる情報などない。

その意を以て彼女を見るが、シーラは既にザイードの服の検分を始めていた。



「けっこういい布使ってるじゃん。でもこれって・・・」



一体なんだというのか。シーラは検分を終えると、楽しそうにジェイクを見る。



「なぁ、ジェイク。情報交換しねぇ?

今のお前の状況を教える代わりに、俺はそのオッサンに有益な情報を教えてやるよ」



「はぁ?」



って言われてもなぁ



「承知した」






ジェイクの驚いた顔をよそに、シーラは「そうこなくちゃ」としたり顔だ。



「因みに、この者は姫の財布を奪おうとして捕らえられ、今は姫の下僕として遣えている」



「オイ」



勝手に人を下僕にするな、と言外に訴えれば、ザイードからは冷たい視線が飛んできた。



「ああ。下僕は烏滸がましいな。奴隷か」



「テメェ・・・」



すました顔のザイードを睨み付けるジェイクの横で、シーラはひたすら笑っていた。



「ハラいてぇ」



そう言って笑いを抑えた後で、彼女はジェイクを見る。



「ここでするのもアレな話だし、ウチへどうぞ」



「感謝する」



「げ」



シーラの提案に、ジェイクは口元をひきつらせた。



***



シーラの家はスークから少し歩いた外れの場所にある。昼間でも薄暗く湿ったその場所には、好き好んで訪れる人間も少なかった。



「まさか、こんな場所に住む人間がいるとはな」



ザイードのオッサンはそんなことを言いながら、歩を進める。一方ジェイクの足取りは重かった。



「どうした?まさか、逃げようなどと思ってはおらぬだろうな」



あらぬ疑いをかけるザイードに、シーラが笑う。



「勘弁してやれよ、オッサン。そいつ、ウチの蛇達がダメなんだよ」



「・・・蛇?」



「そっ。人間なんかよりよっぽど信用できるし、カワイーのになぁ」



そんなことを言いながら、シーラのこめかみから蛇を出す。



「ヒッ」



 肩を竦めるジェイクを余所に、ザイードは家に入っていった。





「で?有益な情報とは何だ」



 部屋に入るなり、矢継ぎ早にザイードが問う。シーラはそんなザイードに目もくれず、悠長に蛇に餌をやっていた。



「せっかちだなぁ。モテねぇよ、オッサン」



 そんなことを言いながらうんざりしたようにこちらにやってくる。



「まぁ、座んなよ」



 そう言ってジェイク達を粗末な絨毯の上に座るよう促した。

 言われた通りに座ると、シーラは水差しから水を注いで二人の前に置く。



「痛み入る」



 そうは言うが、ザイードは手を着けようとはしなかった。



「流石。教育されてんねぇ」



 それだけ言って、シーラは肩を竦める。



「でもま、そのうちその努力も無駄になるかもよ?」



「どういうことだ?」



「近々、オスマン帝国が攻めてくるんだってよ」



「何?」



 オスマン帝国は海の向こう、ヨーロッパの国々を荒らし回っているという過激な奴らだ。元々はアナトリア(小アジア)片隅にあった小さな国だったという。

 その情報を聞いて、ザイードの眉がピクリと動いたのが分かった。



「王にお知らせせねば」



 そう言うなり、ザイードは立ち上がる。



「女。オスマン帝国が攻めてくる日取りは分かるか?」



「さぁ?そこまでは」



「そうか。邪魔したな。行くぞ、少年」



 そうザイードに急かされ、落ち着かない気分のままジェイクも立つ。



「おう。またな」



 シーラはどうにも読めない表情で笑っていた。

 まぁ、彼女は国など関係ない謂わば流浪の民だ。根城にしているのがたまたまこの場所であるだけで、国同士の諍いなどには興味もないし関わる気もないのだろう。その気になれば、いつでも亡命できる。つい先日まで自分もその立場だったことを思い出し、ジェイクは溜め息を吐く。



 あ


 と、同時に思い出したのは、姫に頼まれていたお遣いだ。



「そういやオッサン。俺達、ランプを買いに来たんじゃねぇの?」



「そんなもの後でいい」



「ランプ?」



 険しい表情を崩さずに言うオッサンに内心溜め息を吐くと、シーラは何かを思い出したように部屋の片隅にある、がらくた入れをあさる。



「ランプならここにあるから持って行っていいけど、お前ら、そんなのどうすんの?」



「姫の研究に使う」



「ふーん。何の研究?」



「この少年をランプの中に閉じ込め、100万人の願いを叶える為の研究だ」



 ザイードがそこまで言ったところで、再びシーラの甲高い笑い声が響いた。



「マジかよ。そりゃあいいや。頑張れよ、ジェイク」



 ・・・



「早く行くぞ」



 明らかに面白がっているシーラを睨めつけていると、ザイードにそう急かされる。

 緊張感のないシーラに見送られながらも、ジェイク達はその場を後にした。



***


その日から、街には物騒な空気が流れ始めた。といっても、ジェイクの待遇はそのままだし、何が変わったというわけではない。

強いて言うなら、この屋敷を囲む厳つい男の数が増えたくらいか。



「姫さーん、買って来たぜ」



「うむ。確かに」



そう言って薬草を受け取るなり、彼女はその葉を一枚ちぎり口に入れる。

いやいや。



「・・・姫さん、それトリカブト」



「それくらい知っておる。案ずるな、この程度の毒でわらわは害せぬ」



「げー」



もう大分慣れてきたとはいえ、この姫の奇っ怪な行動には度々驚かされる。



「舌の痺れを楽しんでいるだけだ。慣れたらクセになるぞ。

お主もどうだ?」



「いや、遠慮します」



「そうか。勿体ない」



楽しそうに言うと、姫はトリカブトを抱えて奥の実験道具が散らばる机に向かった。



「おお、そうだ。ジェイクよ、手が空いているのならそこらの実験器具を洗っておいてもらえるか?」



「へーへー」



 この姫との軽口混じりの会話も、すっかり慣れっこになった。そして、案外この姫の隣は居心地がいい。

そういえば・・・。



「そういや姫さん。アンタ、錬金術師なんだって?」



「ん?ああ、そうだな」



「じゃ、金とか作れるんだ」



「一応は作れるな」



 それだけ言うと、姫は呆れたように肩を竦める。



「言っておくが、そんなものを作ってもいたずらに経済の混乱を招くだけだ。

 王家の者として、そんなことはできぬ」



「・・・その王家って、何。いちいち肩書きに縛られて、都合が悪くなったらポイ捨てじゃん。アンタがそうやって守るほどのモン?」



 苛立ってそれだけ口にすると、姫は呆れたように肩を竦める。



「いちいち感情的になるな。大体、王家とは民を統べるためだけに生かされている存在で、それ以外には何の意味も持たん。勿論、そのために然るべき権力も持っているが、役割を忘れて権力を振りかざすだけの王家はいずれ滅ぶ。

 どこにいても私は王家の人間だ。だから、この研究を民のために生かす義務がある」



 それだけ告げると、何でもないような顔でジェイクを見た。しかし、ジェイクには到底納得できる内容ではない。



「だったら、何で俺が今まで自分を虐げてきたような連中の願いを叶えなきゃいけないんだよ。おかしいだろ」



「なんだ。今更自分を哀れんでいるのか?まったく下らぬ。第一、誰の願いを叶えるかはお前自身の眼で決めればよいだろう?」



 そう言って、姫はジェイクの頭を撫でる。



「こう言っては何だが、王宮でも自覚なきまま他者を蔑むものなど腐るほどいる。わらわとて、この異形の姿を悪し様に罵られたことなど数えきれぬほどある。

 だが、そんな悪意に屈してこちらまで墜ちる必要などどこにもない。それは、わらわを愛し、慈しんでくれた数少なきものへの冒涜だ」



「何だよ、ソレ」



 わけの分からぬ敗北感と共にジェイクが呟くと、何かに気づいたように姫は考え込む。



「どうした?」



「いや。いざ、オスマン帝国が攻め込んできた時、錬金術の秘術を奪われるわけには行かぬと思ってな」



「あー・・・」



 確かに、碌なことにならなさそうだ。

 だが、あくまでも自分には関係ないしどうでもいい。意固地になった思考のまま適当に同意をすると、姫は何か閃いたらしく、楽しそうに笑う。



「そうだ。お主がランプに入った暁、一つ目の願いはこれにしよう」



「はぁ?」



悪辣ともとれる笑顔を浮かべてそんなことを言われても、正直嫌な予感しかしない。

そんなジェイクをよそに、姫は奥の戸棚から冊子となったの紙の束を持ってきた。



「なんだ、これ・・・」



「見ての通り、金の精製に関する錬金術の配合法だ」



「へぇ」



 そんなことを言われても、字など読めないジェイクには無用の代物だった。



「なんだ、反応が薄いな」



「んなこと言われても。俺達下々の者は、学なんてないんでね」



 珍しい研究所よりも、一匹の鶏の方がよほど価値がある。ジェイクが身を置いていたのはそういう世界だ。高尚な王族から見れば、さぞかし低俗な生き物だろう。


 姫さん、やっぱりアンタは別の世界の人間だよ


 その意から肩を竦めると姫は馬鹿にするでもなく「それもそうか」と納得したように呟いた。



「まぁ、そう悲観するな。この書を然るべきところに持って行けばシャワルマもクナーファも食べ放題だぞ」



 滅多にありつけないごちそうの名に、一瞬よだれが出そうになる。が、問題はそこではない。



「まぁ。金に関する精製法ときたら、そうなるんじゃねぇ?で、それが何なの?」



「いいか?まず、この研究のカギとなるページを選ぶ。ここと、ここと・・・。ああ、ここもか」



 ・・・


 呆気にとられるジェイクの前で姫はページをおもむろに破いていく。

 そのまま、彼女はそれをビリビリに破いてランプの点火部分に入れ、火を着けた。



「・・・何やってるわけ」



 頭のいい人間の考えることはよく分からない。その意を以てランプを見ていると、黒い煙が出てきて瞬く間に紙が消し炭と化した。



「あーあ。高いんだろ、紙って」



 半ば呆れの感情と共に姫を見ると、彼女は何を思ったのか、突如、弾かれたようにしてジェイクを見た。



「・・・姫さん?」



「いかん」



いつもとは違う彼女の驚きように姫を見ると、彼女はそう呟き、普段作った薬をコレクションしている棚から小瓶を取り出す。

そして次の瞬間、扉の外から何か争っている音が聞こえた。



「こっちへ来い」



 姫がそう言ってジェイクを物陰に押し込んだのと、扉を開けて武装した兵士達が乗り込んできたのはほぼ同時だった。



「うわっ?!なんだ、ここ」



「油断するな。あれだけの奴らが守っていたんだ。絶対にここには何かある」



 そう言って、男達は部屋を荒らしながら次第にこちらに近づいてくる。



「チッ。意外に早かったな」



 悔しそうにそう呟くと、姫はジェイクに先程の小瓶を差し出した。



「何」



「説明している時間はない。早くこれを呑め」



「は」



 反論を唱えるより早く、姫はジェイクに小瓶の中身を飲ませる。

 次の瞬間、体が焼けるような錯覚があった。



「ランプの精となったジェイクに願う。わらわが長年研究した金の精製法はランプの中だ。それを奴らの手から守り通せ。

 ・・・じゃあな。達者でいろ」



 その言葉と共に、姫は身を翻し物陰から兵士達の前に出て行く。


 ふざ、けんなよ・・・


 最期の最期まで、人に対する希望を捨てず、善意を信じた愚かな姫君。そんな少女の悲鳴を薄れ行く意識の中で聞きながら、ジェイクはそのまま闇に飲まれた。





―誰の願いを叶えるかは、お前自身の眼で決めればよいだろう?


 とある町の片隅で、私の祖父は骨董品店を営んでいた。『いた』というのは、その祖父は一ヶ月前にこの世を去り、孫の一人であるである私が遺言によりこの店を継ぐことになったからである。

 遺言の内容は「この店のどこかにある骨董品のランプを探し出した者に、この店の権利と土地を譲る」というもの。まったく以て意味の分からない遺言だが、先日その遺言に基づきさがしもの大会が行われ、何の因果か私がそれを見つけてしまった。

 幼い頃、かわいがってもらった祖父には悪いが、私は骨董品にそれほど興味はない。

 就職活動にあぶれた身としては、この店を継ぐことになって助かると言えば助かるが、何の知識もないまま店を開け、というのもなかなか酷なことだ。


 

「どうしろって言うのよ」



 思わずそう呟きランプをこすると、いきなりランプから煙が出てくる。


 え?壊れちゃった?!


 大慌てで目をこすると、煙の中から人影が見えた。徐々にはっきりしてくるその輪郭は、どうやら少年のものらしいと知る。



「ドーモ、ご主人様。俺はランプの精でジェイクっていいマス。以後、お見知りおきを」



 まるでアラビアンナイトの世界から出てきたような服装の少年に、私は目を瞬かせることしかできなかった。


                       END


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