詐く瞳と白銀の城
今回は『詐瞳高校』の校長先生とその周辺、『暗黒の巨人』たちの話です。
また、日本の唯一の戦力『自衛隊』との馴れ初めでもあります。
今日も学校がある。昨日の事件があったせいで自由登校にはなっているが、むしろあんなことがあっても登校できるっていうのは一体どういうことなんだよ…だけどうちの校長ならそれも納得だ。
彼為光生。俺たちの通う詐瞳高校の校長先生だ。
校長先生としては30代後半と恐ろしく若い。朝礼の話も短くまとまっていて、生徒たちからは『みんなの父さん』みたいな感じで親しまれている。
過去に何があったのかは知らないがとても人望が厚く、流離市のほとんどの人から信頼されている。
市長さんも多少の無茶ぶりならば「彼為君が言うなら仕方ないか…」と言って引き受けてくれるらしい。
今日も校長先生の「来たい人は来なさい」という一言で全校生徒の半分は学校に来ている。
「で、いつ授業は始まるんだよ…」
一限目が始まってから2時間以上経っている。学校に来た意味が無いじゃないか。まぁ授業も大して聞いてないんだけど…
そんなことを考えていると校内放送が始まった。
「先日の件で出勤していない教師が思ってたよりも多かったので今日は自由時間とします。羽目を外さないようにしてくださいね。」
校長先生の声で読み上げられたのはほんの短い文章だった。
思ってたよりもって…どのぐらい来ると思ってたんだよ…
「秀樹くん、この学校ホントに大丈夫かな…」
「アリエ…それはどういう意味だ…まぁ分からなくもないけど…」
やることが無いから俺はアリエと一緒に廊下を歩いている。
「秀樹、聞こえるか?」
「どうしたんだよヒーローマン、何か異変でも?」
「恐らくダークブレイバーはこの学校の生徒に紛れ込んでいる。いや、それ以外にも暗黒の巨人が潜伏している。」
「それはどういう根拠だ?例えば『集まっているところを見た』とか…」
「目には映っていないがお互いに感じ取れる。向こうも私の存在を感じ取っているだろう。」
「もうバレてんのかよ?」
「『誰か』までは分かっていない。バレているのは『いる』までだ。」
「じゃあその暗黒の巨人ってのは何人いるんだ?二人か?三人か?」
「ダークブレイバーとアナザーワンを含めて七人だ。」
「七人⁉そいつら全員ダークブレイバーみたいなやつなのかよ?」
ヤバい予感しかしない…これからどうなるんだよ…
「秀樹くん?さっきから何か変だよ?」
「何でもない。ちょっと休んでていいか?」
「分かった。じゃあ私は音楽室に行ってるね。」
一方その頃、とある亜空間にて。
「君たちだけでもよく集まってくれたね。歓迎するよ。」
「校長先生にご招待頂いたのですから来るに決まっています。」
「しっかし…よくこんな大胆なことするっスね。」
暗黒の巨人が三体、赤黒い空間に立って何かを話している。
その内の一体、校長先生と呼ばれた巨人が話を続ける。
「ダークブリザード、君の礼儀作法は素晴らしいよ。それに対してダークカーム…君はそのチャラチャラした口調を早く直しなさい。将来損をするよ。ダークブレイバー、君もそう思うだろう?」
どこからともなくダークブレイバーが姿を現す。
「この星に将来があればの話ですがね。その将来を滅ぼすのが我々の目的です。」
「フフフ…確かにそうだな。」
「で、今日登校させた目的は俺達を呼ぶだけじゃないっスよね?」
「口調はともかく勘はいいらしいね。その通り、あの巨人の正体を洗い出すためだ。今学校には全校生徒の半分、あの巨人を含めて約500人来ている。この学校のメインアリーナに何人入るかは知っているかな?」
「確か500人前後です。全校生徒が収まりきらないため同規模のサブアリーナを増設中だったと。」
「ダークブリザード!君は実に優秀だね。では今日怪獣を召喚したらどうなると思う?」
「現在学校にいる生徒はメインアリーナに避難、その後点呼をとります…なるほど、そういうことですか…」
「え?どういうこと?どういうことなんですか?」
「ダークカーム、落ち着きなさい。質問を挟まずに一から説明した方が良いかな。要するに怪獣を召喚してこの学校に向かわせれば、生徒たちを守るためにあの巨人が姿を現す。その時メインアリーナに居なかった生徒が正体ということだよ。分かってくれたかな?」
「だけど今日休んでいる生徒なんて何人もいますよ?」
「今日休む生徒は予め学校に連絡をするように伝えてあるはずだ。」
頭の悪い質問ばかりをするダークカームに校長はキレ気味で答える。
「バカな部下を持つと大変ですね。」
ダークブレイバーが同情気味に言った。
「で、その暗黒の巨人はどうやって炙り出すんだよ…」
「戦闘後に足元へ急ぐしか今の所思いつかない…長い戦いになりそうだ…」
お先真っ暗とは正にこのことだ。暗黒の巨人の内何人かが卒業しちゃったらどうするんだ…
「流離一丁目天の橋通りに怪獣が現れました!校内にいる生徒はメインアリーナに避難してください!」
突然校内アナウンスが流れた。これはどうするべきなのか…
「なぁ、これはヒーローとして戦いに行くべきなのか?」
「ああ。君の覚悟ができていれば今すぐ行こう!」
指輪をオーパーツに、腕時計をオーバーブレスに戻して手首の部分に刃を突き刺す。
その瞬間全身に力がみなぎってヒーローマンの姿へと変身した。
「全速力でいくぞ!」
凄まじいスピードで飛行し、怪獣の元へと向かう。
「空も飛べるのかよ…引き出しが多すぎないか?」
「そうか?あ、いたぞ!」
プリミティブとは全く違うシルエットの怪獣が学校の方へと向かっている。
ミラーボールのような銀色の甲羅で全身を覆っており、ティラノサウルスタイプのプリミティブに対してこちらは二本足で立ったアンキロサウルスのようなフォルムだ。
両腕は肘から先が鋭利な刃物のようになっており、頭部は二つのピースが組み合わさったように、上顎と下顎の装甲で完全に塞がれている。
「装甲怪獣アルギュロス…体表を覆う装甲によって殆どの攻撃が通用しない強敵だ!」
「大丈夫だ!この世に壊れないものは無い!」
空中で姿勢を変え、そのスピードのまま跳び蹴りを放つ。
しかし全く効果が無い。
「いってぇ~!なんだよこいつ!硬いにも程があるぞ!」
がむしゃらに殴り続けるが、全くダメージが無い。むしろこっちの拳が砕けそうだ。
するとどこからともなくプロペラの回転音が聞こえてきた。無線の音も聞こえる。
「こちら一号機、目標を肉眼で確認。どうぞ。」
「こちら二号機、同じく目標を肉眼で確認。住民の避難完了次第作戦開始とする。」
怪獣対自衛隊!素晴らしい構図じゃないか!というか無線まで盗聴できるって聴力どうなってるんだよ…
「戦車部隊は怪獣の脚部を、対戦ヘリ部隊は巨人の胸部を目標とする。」
え?俺も狙われるのかよ!聞いてないぞ!
「秀樹!ミサイルは手の甲で弾かずに手の平で握り潰すんだ!」
「住民の避難を確認。これより作戦を開始する。」
戦車から数え切れないほどの砲弾がアルギュロスの脚に向かって放たれる。
それと同時に俺に対しても大量のミサイルが放たれた。
「いくぞ秀樹!」
「ああ!ヒーローマン!」
ミサイルの弾幕を鷲掴みにして握り潰す。ヒーローマンの体とはいえこれはさすがに堪える。
「巨人の動きが鈍っている。作戦を第二段階に移行。」
空から何かが落ちてくる音が聞こえた。
「まさか…」
俺目がけて沢山の爆弾が落ちてくる。ヒーローマンとはいえこれだけの空爆に耐えられるのか?
「秀樹!緊急離脱だ!」
変身解除と同時に学校の屋上に瞬間移動し、空爆を回避する。
さっきまでいた場所では大きな爆炎が上がっていた。
「あれでアルギュロスは倒せるのか?」
「いや、恐らく無理だろう。アルギュロスの防御力は異常だ。」
ヒーローマンの言った通り、爆炎の中から無傷のアルギュロスが姿を現した。
思ってたよりも人間臭い暗黒の巨人。今名前が判明しているのは『ダークブレイバー』『ダークブリザード』『ダークカーム』『アナザーワン』の四体。校長先生が変身する巨人の名前はまだ秘密です。