未来への伏線
久しぶりです!(テンプレ)
~空間の裂け目~
「やはり敗れたか…氷咲麗…俺という物語にお前はいらなかったみたいだな…」
「足止めを破る余裕ぐらいあったはずだ。彼女という重大な伏線を切り捨てたのは必然的行動ではない。君のあえての判断だ。」
「その決意はお前の行動が原因だ。まさか意識を温存しておくとはな…」
「戦士であり策士の君にそう褒められるとはね…時空魔王と暗黒破壊神、似た者同士個人で争うのはやめにしよう。僕は君を足止めから解き放つから君は僕に攻撃しない。今日はそうしよう。」
「とすると、あいつらは見殺しか?」
「君は彼らに手を出さない。そうだろう?まだ伏線回収には早すぎるからね。」
「フフフ…よく分かってるじゃないか。だが俺がそんな約束を守るとでも?」
赤黒い斬撃がデルゼビュートのバイザーアイを粉砕する。
「もう一つ付け足そう。氷咲麗にはそれ相応の処分をするつもりだ。」
~銀河山 麓の森~
「ぐっ…そんな…」
超音速の衝撃に貫かれ、ダークブリザードは大地に崩れ落ちた。
それと同時に二人の変身が解かれ、レイは地面に倒れ込む。
秀樹はすかさず駆け寄り、細剣状のオーパーツを回収した。
「氷咲…こいつをどこで手に入れた?」
彼女は黙ったままだ。オーパーツの出所を伝えることは情報の漏洩に繋がる。
そうなれば始末されるのは当然のこと。
「教えるわけないでしょ。」
無論、回答は得られない。それを見越して秀樹は第二の質問を用意していた。
「じゃあ質問を変える。こいつを使って何をしたかったんだ?」
彼女の行動には大きな違和感があった。それは、戦いの理由がハッキリしていないことだ。
「あなたを倒したかった。それを聞いてどうするの?」
「じゃあどうして俺を倒したいんだ?」
「アナザーワン様の命令だったから。それ以外の理由は無いわ。」
「じゃあどうして奴の命令に従うんだ?」
「私にこの力をくれたから。一体いつまでこの質問を続けるの?」
「なら最後の質問だ。こいつをもらったことに恩を感じるならそれは『大きな力で何かをしたい』っていうことだよな?その何かってのは一体何だ?」
「それはあなたを倒したい…いや、おかしいわ…私はあなたに対して個人的な敵意は抱いていなかった…」
精神干渉はアナザーワンの十八番。人間の心を誘導することなどいとも容易い。
心とは基本複雑ながら整合が保たれるものだ。しかしそこに外部から直接の影響があると一気に崩れる。
そこを上手く突き、矛盾に気付かせることによりほとんどの精神干渉、マインドコントロールは破ることができる。
「お前はアナザーワンに操られていた。簡単に言うとそういうことだ。って言ったものの俺自身よく分かっていない。あとはヒーローマンが説明してくれる。」
「私は結局解説役か…まぁそれはいいとして、力を欲しがっているわけでもない君をアナザーワンは精神干渉してまでダークブリザードに変身させた。その理由は何だと思う?」
「さかんに『選ばれた人間』と言っていた…つまり適性があったから?」
「その通りだ。秀樹が変身に使うオーバーブレスは変身者へのダメージを軽減、カットするための物でもある。しかし君たちはそれをつけていない。その代わりオーパーツの方にちょっとした工夫がされている。いわゆるドーピング、戦闘時のダメージを軽減するように体質を変える機能が備わっているんだ。しかしそれは強力な毒素でもあるため、死に至ることも珍しくは無い。その毒に対しての耐性が君の言った『適性』にあたる。大体は理解してくれたかな?」
「要するに、適性を持つ人間が私しか見つからなかったけど変身させる上手い交渉材料が無かったから精神干渉という強硬手段を選んだ。っていうところかしら?」
「その言葉を口にできたということは完全にマインドコントロールを振りほどいたということ…なら今度こそ答えてくれるはずだ。秀樹、君の番だ。」
ヒーローマンがそう言うと秀樹は先ほど口にした言葉をもう一度繰り返した。
「こいつをどこで手に入れた?」
「それは…」
レイの口から答えが出る瞬間、ある気配を察して一度その言葉を押し込めた。
「あら、石堀さん。どこに行ってたのかしら?探したのよ?」
「探してたのはこっちだよ!みんな心配してたんだよ!もう二人と会えないんじゃないかって…」
「分かったわよ。一緒に帰りましょう。」
レイがアリエに優しく微笑む。
『そういう風にも笑えたんだな…初めて見た…いつも冷たい感じだったのに…』
『氷を融かしてくれたから私はこう笑うことができる。あなたのおかげよ。』
『やめろよ照れるだろ。で、さっきの続きは』
『ああ。まだ答える途中だったわね…私にオーパーツを渡したのは…』
その言葉の途中で念話は途切れる。しばらくの沈黙を挟んでレイが口にしたのは意外なことだった。
『思い出せない…ハッキリと覚えているはずなのに…』
思い出せない。レイ自身も自分を疑った。つい数秒前まで、誰が自分にオーパーツを渡したのか。人物はもちろん場所や時間帯までも記憶していた。今もそれを『記憶していた』ということは覚えている。その内容だけが不自然に切り取られていた。
『氷咲…思い出せないってのはつまり…アナザーワンに記憶を消された…って感じか?』
『たぶん…口封じってことだと思うわ。いつの間に…』
アナザーワンの記憶操作能力。完全復活を遂げていない彼がこの戦局を優位に、都合よく進めるにあたってこの力はとても重要になる。
こちらは精神干渉の一部ではあるものの、マインドコントロールとは違い記憶を『消す』という方法が存在する。忘れさせるわけではなく消し去る。思い出すことは決して無い。この能力によって歴史ごと消された星も少なくはない。
記憶操作で過去を、マインドコントロールで今を、そしてそれらを駆使して未来を、全てを改竄する。それこそがアナザーワンの真の力である。
『とにかく、思い出せないんだったら仕方ない。まだ近くにアナザーワンがいるってことだ。まずは無事に帰ろう。』
~旅館 一里塚~
『不自然だ…道中一度たりとも、記憶を消されてからはアナザーワンの片鱗を感じない…』
『そうね…逆に闇のエネルギーがほとんど存在しないわ…』
しつこいようだがアナザーワンは用心深く、決して誰も完全には信用しない。
ましてや自分が与えた力を持つ者が敵側に回るとすれば、念には念を入れ確実な形で始末しようとするはずである。
「二人ともどうしたの?」
「いや、何でもない。早く部屋に帰ろう。アリエたちはあっちだろ?」
秀樹は話を誤魔化すために一度レイと別れた。
~アリエたちの部屋へ向かう廊下~
「だけど大変だったね…怪獣に加えて巨人があんなに出てくるだなんて…」
「そうね…」
二人がそんな話をしながら廊下を歩いていると、突然建物中が停電してしまう。
そして次の瞬間、
「お前にはしばらく戦闘不能になってもらう。悪く思うな。」
漆黒の右腕がレイの腹部を貫いた。
「ぐっ…がはッ!?」
レイは突然の一撃に痛みを感じる暇も無く、血を吐き出した。
「思ってたよりも吐血量が少ないな…」
アナザーワンは腕を横に振りぬき、脇腹までをえぐり切る。
「こんなものか…」
停電状態が戻り、アリエは腹をえぐられたレイを見て悲鳴を上げ、それは秀樹たちへも届いた。
~秀樹たちの部屋~
「今の声は⁉アリエに何かあったのか⁉」
「恐らくそうだ…この建物自体に大規模な異常は無かったはずだ…だとすれば危険は彼女たちのすぐそばに迫っているということだ!」
秀樹は部屋を飛び出し、声のした方向へ走り出す。
廊下の角を曲がるとその目には直視できないほど凄惨な光景が映った。
大量に流れた血は壁まで赤い模様を描き、腹部を半分以上えぐられたレイが倒れている。
あまりにも残酷な状況は野次馬を寄せ付けず、近くにいた全員は返り血を浴びたまま立ち尽くしている。
レイに駆け寄り脈と呼吸を確認するが、ピクリとも動かない。
その体は生きているとは思えないほど冷たく、体温の余熱も生命の残滓も尽きかけようとしていた。
「これは…一体誰がやったんだ…まさか…」
「ああ。アナザーワンの仕業だ。恐らくダークブリザードのオーパーツを回収するためだろう。それと口封じだ。記憶消去はあくまでもその場しのぎ、私としたことが迂闊だった…人間体を持っていることは予想していたが…まさかここまで人が多い場所で…インビジブルフィールドを使ったのか?」
ヒーローマンが考えを巡らせている中、アリエが秀樹に気付き話しかける。
「ねぇ…何が起こったの?私には分からない…突然氷咲さんが…」
「誰か近付かなかったか?氷咲に近付いたやつはいなかったか?」
「誰も近づいてない…話してたら…」
秀樹は近くにいた全員に話を聞いたが誰もが「突然のことだった」「誰も近づいていない」と、同じことを繰り返した。
アナザーワンの残酷性、邪悪性に戦慄する中、新たな影は既に動き始めていた。
~シャドーゾーン~
「ダークブリザードはアナザーワン様が直接始末したみたいですね…彼女の後継はあなたに任せましょう。ただし、彼女のように自ら前線に出ることはしないように。あくまでも最後の手段です。」
「分かったっスよ。大丈夫です。夏が終わるまでは適当な怪獣を送り込んで、文化祭辺りで決着をつけるつもりっスよ。」
レイの後継として選ばれた少年、彼の名は凪波渚。ダークカームのオーパーツを使い、そのスピードは暗黒の巨人でもトップクラスである。
またレイとは違い、自ら力を望みオーパーツとの相性も彼女を圧倒的に上回る。
「安心してください。いくらロッソグリンガーとはいえ、ボクを上回ることはないですよ。」
今回の話はサブタイトルの通り真相の伏線が多く含まれています!
まぁそのほとんどは終盤にならないと分からないんですが…