絶対零度の決戦 後編『紅蓮の刃』
ロッソグリンガーの名前の由来…
ロッソ(イタリア語で赤)+クリンガー(ドイツ語で刃)っていう安易な発想でよかったんでしょうか…
~銀河山 麓の森~
「クソッ!どうすればいいんだよ!」
ヒーローマンがいない今秀樹はどうすることもできない。
ダークブリザードとアブソリオンから生身の人間が逃げ切ることは不可能だ。
仮に逃げ切れたとしても待っているのは右も左も分からない吹雪の雪山。
「無様ね…アブソリオン、トドメを刺しなさい。」
レイの命令によってアブソリオンの鋭く凶悪な爪が振り下ろされる。
絶体絶命のその時、紫の稲妻がその攻撃を弾き飛ばした。
「やっぱりダークブリザードか…秀樹君だったっけ?一回宿に戻ると良い。友人が君の帰りを待っているよ。」
青いバンダナを頭に巻いた青年が秀樹に話しかける。
秀樹は彼が何者かをまだ認識していない。
「誰でしょうか…どこかで会いました?」
「この姿は初めてだったね…僕はいくつもの人間体を持っている。これはその一つ…本来の姿は…」
凄まじい光と甲高い高音と共に人のシルエットは形を失い、巨大な影へと変貌する。
灰色の体に頭を覆うようなバイザーアイ。陽炎のように揺らめく輪郭。
「デルゼビュート⁉」
「ヒーローマンのことは僕に任せてくれ!すぐ近くにワームホールを作ったからそれで帰るといい!」
「ヒーローマンとの付き合いはお前の方が長いからな…分かった!ありがとう!」
秀樹は空間にできた亀裂の中に飛び込んだ。
すると激流に流されるような感覚と共に光の中を突き進み、気付いたときには既に旅館の前へたどり着いていた。
「ワープってこんな感じなんだな…初めて知った。」
宿に戻った秀樹を一番最初に見つけたのはコウジだった。
「あ!秀樹!どこ行ってたんだよ!アリエが心配して探しに行ったぞ!」
秀樹はその言葉にゾッとした。この雪山で今巨人同士の戦闘が行われている。
それに巻き込まれながら生きて帰ることは不可能だ。
「悪いなコウジ!用事を思い出した!」
秀樹は吹雪の中微かに見える青い光を頼りに暗闇を走り抜けた。
「秀樹!用事ってなんだよ!」
~銀河山 麓の森~
「氷咲麗…だっけ?そろそろ僕の人格が保てなくなる。命の保証もできない。降参するなら今の内だよ。」
「降参なんて…するわけないでしょ!」
大気を氷結させ巨大な氷柱を落とすがデルゼビュートの稲妻で吹き飛ばされてしまう。
「タイムリミット…だよ…」
デルゼビュートがその言葉を放った直後、空を割るような笑い声がダークブリザードの横を通り過ぎた。
辺り一帯の時空間が歪み始め、空から落ちた紫色の稲妻がダークブリザードを襲う。
「ずいぶんと暴れてるじゃないか…デルゼビュート!」
その稲妻を漆黒の亀裂が遮り、壮絶な爆風が森林を時空間の歪みごと吹き飛ばす。
「アナザーワン様!」
「お前は下がっていろ。敵う相手ではない。」
突如現れた黒い右腕はブリザードに忠告すると、赤黒いオーラを纏いデルゼビュートを念動力で吹き飛ばした。
しかし次の瞬間、紫の閃光がアナザーワンを掠める。
倒れたデルゼビュートに追撃を加えようと近づくが、逆に稲妻の反撃を喰らってしまう。
「さすがはデルゼビュート…右腕だけでは押し切れないな…だがッ!」
赤い亀裂と紫の稲妻が螺旋を描きながら衝突し、時空の歪みが爆風となって森を覆いつくす。
~銀河山 森の入り口~
「アリエは大丈夫かな…電話にも出ないし…」
デルゼビュートの能力により時空が歪み、秀樹は森の中へ入ることができない。
秀樹は既に一度それを体験している。入ったところで戻ってくるのが関の山だと理解していた。
「変身すればこの迷路を突破できなくもないけど…俺一人だと危険って言ってたしな…そもそもまだ一時間経っていない…」
秀樹がどうしようかと考えているときだった。
凄まじい爆裂音が空間の歪みを通り越して彼の元に届く。
「ッ!今の爆発は…アリエが危ない!」
彼女の危機を本能的に察した秀樹はオーパーツを短剣の状態に戻し、自分の体に突き刺す。
「ぐっ…ダメか…いや!これしかない!」
彼は何度もオーパーツを腕に突き刺し、雪を血で赤く染める。
しかしその行動に意味などなく、変身することはなかった。
「一時間…時間…時…時空…そうか!」
秀樹は自分の携帯電話を取り出し、現在時刻を確認した。
そしてそれを森の中へ投げ込む。
「やっぱり…突破口はあった!」
ホーム画面の時計の表示がルーレットのように変化している。
それが秀樹の狙いだ。変身したのは大体6:00ごろで今は6:40。森の中に入って時計の表示が6:00~7:00ではない瞬間にオーパーツを使えば変身が可能。
秀樹は森へ足を進め、携帯電話を拾う。
「プラス25分を大体2秒でループしてるのか…記憶が飛ばないのはそれを認識してるからだってヒーローマンが言ってたな…変身できないのはあと20分だからちょうど五分の一…」
画面に集中し、ガンマンが獲物を打ち抜くように素早く正確に、コンマ一秒の狂いも無くオーパーツを突き刺した。
「今行くぞ…アリエ!」
~銀河山 麓の森~
飛行能力を駆使し、森を突破した秀樹はデルゼビュートとダークブリザードたち、そして黒い右腕を目撃する。
「右腕…?デルゼビュートが押されてるってことはまさかあれが!」
「ヒーローマン…いや、今は早星秀樹と呼んだ方が正しいか…こいつがわざわざ助けてやったのにまた戻ってくるとは…馬鹿にも程がある…」
アナザーワンは秀樹の目の前に瞬間移動し、その首を締め上げる。
「俺が今使っているのは親指と小指だけだ。だがそれでも骨の軋む音が聞こえるだろう?お前は俺に決して敵わない。太陽が西に沈み雨が上に向かって降ろうが決してだ。悪いことは言わない。今すぐ失せろ!」
秀樹ほどの男でも恐怖というものは当たり前のように感じるものだ。特に強大な力に対する恐怖は人一倍に感じてしまう。
だからといって彼はそれに負けるような人間ではない。既に一度恐怖を克服しかけている。
「勝てる勝てないなんて関係ない…俺はお前みたいな…力をそういうことにしか使えないやつが大嫌いだ!戦うことを許されておきながら…何も守ろうとしない…それがどうしても許せない!」
秀樹はアナザーワンの腕を掴み、メキメキと握り潰す。
「何⁉こいつ…既にここまで…」
腕を投げ飛ばすと、両手の爪に赤黒いエネルギーを纏いダークブリザードへ向かって走り出す。
「アブソリオン!吹き飛ばしなさい!」
青白い破壊光線が秀樹を穿つが片手でそれを弾き飛ばし、強力な一撃がアブソリオンを切り裂いた。
「ブリザード!そいつは既にロッソグリンガーの条件を満たしている!俺の力を少しだけ渡す!それで対抗しろ!」
「そうはさせないよ?」
デルゼビュートが起き上がり、アナザーワンを時空の裂け目へ引きずり込んだ。
「何のつもりだ?」
「足止めだよ。せいぜい40秒しか止められないけどロッソグリンガーなら十分な時間だ。」
遥か彼方から赤い光が秀樹めがけて飛来し、彼の姿を変えてゆく。
黒かったアーマーは銀色に変化し、凶悪な風貌はやがて光の戦士へ変身する。
「どうだ秀樹、ロッソグリンガーの感想は?」
「なっ⁉ヒーローマン?いつの間に帰ってきたんだよ?」
「ロッソグリンガーは元々私の力をベースに作られている。当然、私側にもロッソグリンガーの因子は含まれており、それと共鳴して君の元へ送られたんだ。」
「思ってたより元気そうじゃねえかよ…」
「本来の力…光の力で変身したからだ。既にダメージは完治している。」
「確かに…いつもより清々しい気分ではあるな…」
切り裂かれたアブソリオンが立ち上がり、ヒーローマンへ突進する。
「左手首の刃を使うんだ!すれ違いざまに切断しろ!」
大地が震えるほどの足音が凄まじいスピードで迫ってくる中、秀樹は精神を集中させ剣術の居合のようにその胴体を一刀両断、真っ二つに切断した。
「凄いな…一瞬時間が止まったかと…」
「それがロッソグリンガーの能力『マキシマムブースト』だ。一瞬だけ思考含めた全ての速度を超加速させることができる。」
アブソリオンは白い粉塵となって爆散し、その煙幕の中からダークブリザードが飛び出した。
長大な氷の剣を振るい、ヒーローマンに強力な一撃を叩き込む。
しかし衝突の寸前で氷は融解、蒸発してしまう。
「左手の刃を飛ばすんだ!念力で自由にコントロールできる!」
秀樹は左腕を素早く振りぬき、勢いよく刃を射出する。
するとそれがブーメランの要領で弧を描き、ブリザードの背中を切り裂いた。
「トドメだ秀樹!キックのラッシュを叩き込め!」
マキシマムブーストを発動し、全てが静止した中で猛烈な蹴りの連打をブリザードに浴びせる。
ミサイルよりも多く重く、密度の高い連撃がほぼ一瞬の内に何百発も叩き込まれる。
能力が途切れた瞬間、735発の衝撃がブリザードの体を貫いた。
「これがロッソグリンガー…ヒーローマンの本来の力…」
ロッソグリンガーのイメージは超高速です。
仮面ライダーカブトもモチーフではありますね。
これって伏字が必要なんでしょうか…