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世界の下層より  作者: plus 勇気
3/5

運命の始まり

ヤバい!



ヤバい!



ヤバい!




少年達は走りながら何度も心の中で叫んでいた。




頭の中は…潰される!…ということだけで埋め尽くされている。




足元は暗闇でほとんど見えていない。




蹴躓きながら走っていた。




この辺りの廃棄物は一定の間隔で落下してくるが、上層でたびたび不法投棄する者がいるために油断ならなかった。


現に子供の多くが落下物により命を落としていた。


またこの焦り様には、上層の間人マジンの習慣にも関係していた。


間人は廃棄を行う際に重量物から順に捨てる。


そのことを冬馬達は知らないのだが、


大きい衝撃が落下の合図であることを経験から理解していた。



三人は一心不乱に走っていた。



弱気なレオもこの時ばかりは我を忘れて走った。




最初に異変に気づいたのはニコラだった。


「ハァ、ハァ、!?、あ、あれ…。おい!冬馬!」


ニコラは走る速度を緩めながら冬馬に話しかけた。


冬馬は隣を走っていた。


「ハァ、ハァ、ハァ、話しかけんな!走らないと死ぬぞ!ハァ、ハァ」


体力の限界が近いのか自然と速度が落ちていた。


「音がしないぞ…。ハァ、ハァ」


ニコラは走るのを完全に止めて、耳を澄まし後方を照らした。


レオが顔を青白くさせながらも必死で走ってくる姿と息遣いが聞こえる。


辺りは静かだった。




…落下の衝撃音がない?…




「ハァ、ハァ、んなわけ、?!」


「あれ?ほんとだ…ハァ、ハァ」


冬馬も気が付いたようだった。


「どうなってんだ…ハァ、ハァ」


冬馬も完全に足を止めて、息を整え始めた。



遅れてやってくたレオの荒い息遣いが段々と近づいてくる。



「落ちてきたよな?」


冬馬はニコラに尋ねた。


「ああ、そのはずだ…。きちんと確認は出来なかったが、あの衝撃は間違いなく落下物だろうな…」


彼らは物心つく前からこの仕事をしている。落下の衝撃を間違うはずはなかった。



もう一度、二人は聞き耳を立てる。



やはり落下の衝撃音はしない…。



もしかして単発か…?



稀に単体で廃棄物が落ちてくることは確かにあった。



辺りが静寂に包まれていることもあり、二人は徐々に落ち着きを取り戻していく。



「なんだ単発かよ!本気でビビったー!死んだと思ったぜ!」


冬馬は大げさに肩をなで下ろした。


「そうだな…」


いつも冷静なニコラも今回は珍しく焦ったようだった




ようやく追いついたレオは、体力の限界が過ぎたらしくバタリと倒れ込んだ。




「戻って続きをやろうぜ!さっきのゴブリンが気になる!」


声を上げる冬馬。やはり切り替えが早い。




レオはとても苦しそうに息を整えている。




近づくニコラ。


「焦るな冬馬…。ちょっと待て…」


「レオ動けるか…?」


レオを気遣い声をかけた。


「ハァ、ハァ、ハァ、だ、大丈夫。歩くぐらいなら出来るよ。ハァ、ハァ」


レオはヨロヨロと立ち上がろうとした。


顔色が悪い。





少し考え込むニコラ。





「なあ、レオの体調が悪そうだ…、今日は引き上げないか…?」


ニコラはレオに手を貸しながら冬馬へ言った。


もともと体力のないレオだったが、最近は食うや食わずが続いている。


全力疾走で体調が悪くなるのも無理からぬことだった。


「ガーフィールドも単発の衝撃を確認しに来るかもしれない…」


「今、見つかったらレオは絶対に逃げ切れないだろ?…」


「一端、戻ろう…。また日を改めればいい…」


ニコラは冬馬を諭すように言った。





冬馬の表情が曇る。


収穫がなければ食料の調達が出来ないからだ。


ゴブリンの爪や牙は低価格ではあるが闇市で金に換えることが出来た。


そう思うとさっきのゴブリンはとても惜しい。





…定刻の落下にはまだ時間がある…


…俺の足なら見つかっても逃げられるはずだ…


心の中で思った。





「分かった…。レオはもう動けそうにないしな…」


「だけど、俺一人でさっきのゴブリンを確認に行かせてくれないか?」


「みんな腹を空かせて待ってるし、どうしたって金は必要だろ?」


「確認したらすぐに帰るからさ!」


「頼む!」




懇願する冬馬。




廃棄物拾いは3人1組で行うことは仲間達で決めたルールだった。


それはガーフィールド対策でもあったが、同時にマフィアやギャングに鉢合わせした場合の自衛のためでもあった。


【浄化の層】で一人行動することはとても危険な行為なのだ。


奴らの中には気分で人殺しをする者までいる。




少しの間。




「分かった…、無茶するなよ…」とニコラは言った。


ニコラは仲間たちが飢えているのを知っていた。やはり背に腹は代えられない。


そしてポケットから爆弾岩のカケラを手渡した。



「源爺からくすねた物だ…。万が一の時に使ってくれ…」


「使い方は分かるな…?」



「ああ!大丈夫だ!」


冬馬は爆弾岩のカケラを受け取ると大事にポケットにしまった。


表情が輝いている。


ニコラが自分を頼りにしてくれたことが嬉しかったのだ。





「いつもの空間穴デジョンホールの手前で待っている…」


ニコラは冬馬の目をしっかり見て伝えた。




「冬馬…。足引っ張てごめん…。」


息の整ったレオが言った。


ニコラに肩を貸してもらっているが顔色が悪い。


どうやら低血糖症を引き起こしているようだ。


「でも無茶しちゃダメだからね…。命あってこそだよ…」


力無く微笑むレオ。




「ああ。分かってる!ちょっと見てくるだけだから心配すんな!」


「今日は久しぶりにみんなで飯を食おう!」


冬馬はレオの罪悪感を薄めるために、ポンとレオの肩を小突いた。


そしてクルッと方向転換すると。


「んじゃ!行ってくる!」


それだけ言うと、暗闇を照らしながら来た方向へ歩き出した。




冬馬の姿は次第に暗闇に飲み込まれていく…。




残された二人はその後ろ姿を心配そうに見つめた。

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