拾う者達
闇に落ちる影。大小の影。
重い物や軽い物が重力に負けて落ちていく。
淡々と落ちていく。
それらは雨の様に下に降りそそいでいる。
ガコン!ガシャン!と大きな音を立てて。
カサカサ…パラパラ…と小さい音を立てて。
飲み込んでいく闇の先からは、染み出た油や薬品の臭い、腐敗臭が漂ってくる。
落とされているのは、どれも腐り朽ちた物ばかりだった。
それらがどんどん上に積みあがる。
形を成したのは汚らしい廃棄物の山だ。
魔物すら避けて通る瘴気を発している。
ここでは有りとあらゆる物が捨てられていた――
ここでは有りとあらゆることが許されていた――
まるで死者の掃き溜めの様な場所だった…。
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ひとしきり降り続いた廃棄物は、しばらくすると止み始めた。
待っていたかのように、薄っすらと頼りない魔光石が3つ灯る。
ボロボロで大きめの服を着た少年達だった。
サイズが体に合っていないため、腕や裾を捲くり上げている。
瘴気対策のために口や鼻を布で覆っていた。
廃棄物が落下している間、どこかに身を潜めていたのだろう。
少年達は辺りを警戒しながら、コソコソと落下物の物色し始めた。
「あーダメだ!今日もロクな物がねぇ!下級ポーションぐらいないのかよ!」
黒髪の少年がクズ鉄を蹴りながら呟く。
眼光が鋭く、体形はヒョロっとしている。
「おい…。静かにやれ…見つかるぞ…」
「奴に見つかったら…面倒なことになる…」
金髪の少年が声を殺しながら注意する。身長は低いが、知性を感じさせる雰囲気がある。
「そうだよ冬馬。頼むから静かにしてくれよ…。見つかったら逃げ切る自信がないからね…僕…」
最初の男の子と同じ黒髪の少年が言った。賢そうだが、どことなく自信が感じられない。
もやしっ子という印象だ。
彼らが警戒しているのは、スクラップ帯を管理しているガーフィールドという人物だった。
命までは奪ってこないが、大ケガをする魔法を平気で放ってくるイカれた老人だ。
仲間が土の魔法を足に受け、全治3カ月のケガを負わされたこともある。
「レオ情けねぇぞ、それでも男かよ!」
「見つかったら金玉蹴り上げて、そこら中を跳ね回らせてやるぐらい言えよ!」
「そうだけどさ…。僕はジュリーみたいにはなりたくないよ…」
レオは悲惨な仲間の姿を思い出し、顔色を悪くしながら言った。
「ジュリーの奴は横着したのさ…」
とニコラが呟く。
「そういうこと。アイツはすぐ手を抜くからな」
同調する冬馬。
「俺らが決めた手順通りにやってたら絶対に大丈夫!」
「まあ見つかってもケツの穴に火の魔法をぶち込んでやるよ。へへ」
冬馬は得意げだ。
「冬馬、油断はしない方がいい…」
「奴はジジイの咎人とはいえ、元上級機巧士だ…」
「まともにやりあっても、勝ち目はない…。見つからない方が無難だ…」
「そんなことより早く手を動かせ…次が降ってきちまう…」
ニコラは冬馬を諫める。
ニコラは仲間からとても信頼ある少年だった。
過酷な下層でも生きてこれたのは、ニコラの判断力のおかげといっても過言ではない。
みんなそのことを理解していたので自然と彼の意見に従っていた。
粗忽な冬馬も例外ではない。
「はい、はい。分かりましたよーっと」
素直に従う冬馬。
ガチャガチャと大きな音を立てながら物色を再開した。
「冬馬…、逃げ切る自信がないから…静かにしてくれよ…」
レオは小さい声で呟いたが冬馬には届かなかった。
ここいら一帯の廃棄物は落ちてくる間隔が決まっている。
彼らはその隙を狙って、廃棄物の中から金目の物を探しているのだ。
誰が始めたかは分からないが、名もない階層の少年達はみなこうして生計を立てていた。
くだらない会話を続けながら物色を続ける三人――
「なんか最近の廃棄物しょぼいなー。上層は不景気なのかね…」
冬馬は“上”を仰ぎ見た。
頭上には広がるのは漆黒の闇ばかり。
なんとなくつられて他の二人も頭上を見上げてしまう。
月や星のない真っ暗な空の様だった。
しかし、彼らは何も感じない。
それが彼らの当たり前だからだ。
ここは世界の底の底。
世界の最下層なのだ。