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世界の下層より  作者: plus 勇気
1/5

拾う者達

闇に落ちる影。大小の影。


重い物や軽い物が重力に負けて落ちていく。


淡々と落ちていく。


それらは雨の様に下に降りそそいでいる。


ガコン!ガシャン!と大きな音を立てて。


カサカサ…パラパラ…と小さい音を立てて。


飲み込んでいく闇の先からは、染み出た油や薬品の臭い、腐敗臭が漂ってくる。


落とされているのは、どれも腐り朽ちた物ばかりだった。


それらがどんどん上に積みあがる。


形を成したのは汚らしい廃棄物の山だ。


魔物すら避けて通る瘴気を発している。




ここでは有りとあらゆる物が捨てられていた――




ここでは有りとあらゆることが許されていた――




まるで死者の掃き溜めの様な場所だった…。

        

        ・

        ・

        ・ 

        ・

        ・


ひとしきり降り続いた廃棄物は、しばらくすると止み始めた。


待っていたかのように、薄っすらと頼りない魔光石が3つ灯る。


ボロボロで大きめの服を着た少年達だった。


サイズが体に合っていないため、腕や裾を捲くり上げている。


瘴気対策のために口や鼻を布で覆っていた。


廃棄物が落下している間、どこかに身を潜めていたのだろう。


少年達は辺りを警戒しながら、コソコソと落下物の物色し始めた。



「あーダメだ!今日もロクな物がねぇ!下級ポーションぐらいないのかよ!」


黒髪の少年がクズ鉄を蹴りながら呟く。


眼光が鋭く、体形はヒョロっとしている。


「おい…。静かにやれ…見つかるぞ…」


「奴に見つかったら…面倒なことになる…」


金髪の少年が声を殺しながら注意する。身長は低いが、知性を感じさせる雰囲気がある。


「そうだよ冬馬。頼むから静かにしてくれよ…。見つかったら逃げ切る自信がないからね…僕…」


最初の男の子と同じ黒髪の少年が言った。賢そうだが、どことなく自信が感じられない。


もやしっ子という印象だ。



彼らが警戒しているのは、スクラップ帯を管理しているガーフィールドという人物だった。


命までは奪ってこないが、大ケガをする魔法を平気で放ってくるイカれた老人だ。


仲間が土の魔法を足に受け、全治3カ月のケガを負わされたこともある。



「レオ情けねぇぞ、それでも男かよ!」


「見つかったら金玉蹴り上げて、そこら中を跳ね回らせてやるぐらい言えよ!」


「そうだけどさ…。僕はジュリーみたいにはなりたくないよ…」


レオは悲惨な仲間の姿を思い出し、顔色を悪くしながら言った。


「ジュリーの奴は横着したのさ…」


とニコラが呟く。


「そういうこと。アイツはすぐ手を抜くからな」


同調する冬馬。


「俺らが決めた手順通りにやってたら絶対に大丈夫!」


「まあ見つかってもケツの穴に火の魔法をぶち込んでやるよ。へへ」


冬馬は得意げだ。



「冬馬、油断はしない方がいい…」


「奴はジジイの咎人とはいえ、元上級機巧士だ…」


「まともにやりあっても、勝ち目はない…。見つからない方が無難だ…」


「そんなことより早く手を動かせ…次が降ってきちまう…」


ニコラは冬馬を諫める。




ニコラは仲間からとても信頼ある少年だった。


過酷な下層でも生きてこれたのは、ニコラの判断力のおかげといっても過言ではない。


みんなそのことを理解していたので自然と彼の意見に従っていた。


粗忽な冬馬も例外ではない。




「はい、はい。分かりましたよーっと」


素直に従う冬馬。


ガチャガチャと大きな音を立てながら物色を再開した。



「冬馬…、逃げ切る自信がないから…静かにしてくれよ…」


レオは小さい声で呟いたが冬馬には届かなかった。




ここいら一帯の廃棄物は落ちてくる間隔が決まっている。


彼らはその隙を狙って、廃棄物の中から金目の物を探しているのだ。


誰が始めたかは分からないが、名もない階層の少年達はみなこうして生計を立てていた。






くだらない会話を続けながら物色を続ける三人――







「なんか最近の廃棄物しょぼいなー。上層は不景気なのかね…」


冬馬は“上”を仰ぎ見た。


頭上には広がるのは漆黒の闇ばかり。


なんとなくつられて他の二人も頭上を見上げてしまう。


月や星のない真っ暗な空の様だった。


しかし、彼らは何も感じない。


それが彼らの当たり前だからだ。


ここは世界の底の底。


世界の最下層なのだ。

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