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第78話 ようこそ、我が星へ

 NAGSSで観た時あたりから再生を再開すると、黒卵(ブラッグエッグ)の内部が映し出されていた。


 真っ黒で素っ気ない卵のような表面とは裏腹に、明かりを点けて浮かび上がった内部は、文明の粋を凝らした数々の装飾で彩られ、沢山の彫刻や絵画や芸術品が、飾られている。

 恐らく、各時代を代表する至高の品が遺されたのだろう。美的感覚は人間と似ていたようで、どの品を見ても、その素晴らしさが伝わってきた。

 

 ノア達も最初は見とれて、各々好きな品を鑑賞していた。そのうち三人は、中央部に何もない台座の存在に気付く。他の芸術品とは異なりシンプルなデザインで、それが一層、存在を不自然に際立たせている。


『どうする? 何かの起動装置かな?』

『じゃ、僕が行ってみるよ』

『気をつけてね』


 そう言ってノアが、台座に上った。初めは、何も起きずに戸惑う。


 だがしばらくすると、天井から白い光が照らされ、『ようこそ、我が星へ』と声がした。映し出された姿は、パーシャだった。三人は驚いてはいたが、予め異星人の存在を予期していただけあり、取り乱しはしなかった。


『君達をスキャンして、このような形と通信手段にしてみた。気に入ってもらえたかね?』


 パーシャが発する言葉は明瞭な英語だ。ノア達の着陸後から監視して言語体系を理解できた結果ならば、あまりにも高度過ぎる。


『ええ。初めまして。我々は四.二光年先にある太陽系の惑星、地球から来ました。僕の名前は沙槝場ノア。彼はロード・ミーハIV世、彼女はキリシア・アーデナント』


 ノアは下りて来たパーシャの前に歩み寄り、三人を代表して答えた。


『ここから近い恒星系の一つだな。君たちの言葉では、”地球”というのか。良く来てくれた。歓迎するよ。今は居ぬ主からの言伝だ』


 そう言って、パーシャは空間に文字画像を映し出した。

 手紙のようだ。パーシャが読み始める。


《ようこそ、我が惑星ミシャブへ。


  恐らく君達も、我々と同様の幾多の成功と失敗を繰り返し、この地まで辿り着いのだと思う。初めての旅か幾度目かの旅かは存ぜぬが、この星へ辿り着いた努力を湛えよう。

  

  我々は既に死滅した存在だが、魂は素子体に伝達してある。


  彼ら素子体は、この星の歴史全てを凝縮し体現した、生命を越えた生命体だ。まずはここにある遺跡から我々の星の全てを学び、君達に役立てて欲しい。


  我々が滅びた今、既に文明と呼べる物はこの惑星に無い筈だ。だから好きにして良い。我々の遺物が君達の新たな礎になるのなら、それほど嬉しい事はない。恥ずべき歴史もあるが、全てが我々だと思い、楽しんでくれたまえ。君達の発展を祈る》


 パーシャがそう言い終えると、中央に3D映像がついて、この星の歴史が上映された。説明音声は自動翻訳されており、理解しやすい。



 地球の歴史と、歩みは良く似ていた。


 惑星形成後、様々な生物が生まれては消えゆく中、ある生物が文明を作り上げた。


 無論、人間ではない。シーハと思われるその異形の生物は、六本足の生物から四本足と二本の腕に進化したようだ。他の動物に比べて武器を持たないシーハは、代わりとして自由になった二本の腕を器用に使い、種々の道具を創り上げ、地域を支配するようになった。


 村が大きくなり街となり、更に国家へと発展した様が映し出される。大きな戦争もあった。海への進出も小さな小舟だったのが、やがて大きな船を完成させた。大海原へと出た生命体が次に目指した目標が全ての大陸制覇であるのは、どこでも同じだ。


 ただシーハの性格は攻撃的で、敵を倒す為の武器も次々に開発されていった。街一つを消すほどの、恐るべき大量虐殺兵器もあった。時の独裁者らしき面々や、ヒステリックな群衆達の残虐行為も映っている。


 不幸で愚かな争いが、際限なく繰り返される。

 悲劇を忘れぬ為か、それら愚行も多数記録されていた。


 そして第二期となる覇権生物が登場した。これが素子体の創造主、カルツだろう。見た目は、最初の覇権生物シーハと変わらぬ姿だ。


 門外漢のシュンからは見分けがつかないが、やがて惑星全土で文明主がこの種に入れ替わった。シーハとは異なる何らかの行動や能力が、彼らを新たな覇権生物たらしめたのだろう。


 一番の違いとして、彼らは全世代の轍を踏まないよう感情を抑え、合理的に行動していた。映像で見る限り、カルツに代替わりしてから、野蛮で残虐な行為や怒りや哀しみの行為を表す映像は一気に減った。


 戦争行為も、相手を殺す行為ではなくなっていた。


 だんだん経済を主眼とする映像が増え、貨幣制度に依存した富の乱高下が減りはじめた。仕組みは分からないが、技術が飽和点に達し、富の配分が公平に行き渡り始めたようだ。ランクシステムと似た制度かもしれない。


 ただカルツの人口動態らしきグラフから、シーハより明らかに人口が少ない事が分かる。前世代との入れ替わりは急激では無く、緩やかに低下後、シーハ達も一定数存在していた。


『真の覇権生物の個体数は、前世代の覇権生物の十分の一以下になる』


 パロマー理論の通りだ。


 二期覇権生物による支配が完全であるのか、前世代はもはや生存のみが目的と化していた。どこか呆けた表情で暮らす、シーハ達の街があった。カルツとは住む場所も違うらしい。


 シーハ達も暴力行為が減り、飼いならされているようだ。単に生きる行為だけが存在目的のように見えた。一方で新たな覇権生物カルツは、宇宙への開発を相乗的速度で急激に進めていた。


 それは、何かに取り憑かれたようでもあった。

 環境悪化が原因のようだが、別の理由があったのかも知れない。

 言葉が完全に翻訳されておらず、詳細は分からなかった。


 続いて、素子体が誕生する様子が映し出される。


 どこかの研究室のようだ。映像の様子や説明から判断する限り、最初はあくまでカルツの補助を目的として創られたらしい。


 しかし創造主の意に反し、環境に応じて形態を自由に変え、他の生命体とシンクロして行動を共にできる素子体の優位性が世界を覆い尽くすまでに、時間はかからなかった。


 やがて宇宙開発と共に多数の素子体が発射された。それは植物が種をはじき出すようで、多数のロケットが宇宙へと発射される様は壮観だった。


 だがこの文明にも、終焉が訪れる。


 それは前世代から受け継がれた環境悪化と、生命力の限界だった。

 治癒不可能な伝染病に冒され、町一つ消滅した事件もあった。


 残された素子体の存在も生物の寿命を縮めた。素子体は半永久的なエネルギー循環で活動し続けるが、栄養分として他の生物を摂取しなければならないカルツ達は、その点で不利であった。


 ただ素子体は意志や独創性を持たず、文明維持には適さない。素子体は積極的に何かする行為はなく、あくまでカルツの意思を反映して動く補助的な役割だ。それがカルツの絶滅に繋がるのは、皮肉な結果でもある。


 カルツの衰退と滅亡が免れなくなった時、彼らは最後の墓標として黒卵(ブラックエッグ)を創ったようだ。まるでピラミッドのように、沢山の素子体やロボットを用いて建築される様子が映し出されている。



 そして最後のカルツらしき生物が、自前で撮影した映像も残されていた。その姿はとても高貴で気高く、美しかった。だが同時に、憐憫の情を禁じ得なかった。


『私が、最後のカルツだ。最後と言って良いのか、分からないがね。クローンや素子体融合で生き延びる術も、未だあるにはある。冷凍保存されたカルツが、どこかで再生されるかもしれない』


 彼か彼女か分からないカルツは感傷的になったのか、少し一息ついて話を続けた。


『だが全てやり尽し全てを見た今、惑星の為にも我々の名誉の為にも、役目を終えるべきと決めた。最後の一人となった寂しさを誰とも共有出来ないのが、残念だ。だがこの映像を遺せる栄誉で、良しとしよう。


 いつかこの映像を観るあなたへ、伝えたい。

 我々は最善を尽くし、滅びた。

 どの惑星の生命も、我々と同じ道を辿るのかは分からない。

 過ちも成功も、生きる限り常にあるものだ。

 精一杯、今を生きて欲しい』


 やや強ばった笑顔で必死に喋る姿が、シュンの心に沁み込んだ。

 シュンが観たのは、そこまでだった。

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