表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/81

第75話 反素子体

「遅れて済まない。実は我々が家宝として持っていたあの雲水晶(クラウド・クリスタル)には、反素子体を含むのだ」

「反素子体?」

「Anti-elementと言う。我々を創ったカルツ等が、開発と同時に合成したのだよ。恐らく彼らは、素子体の暴走を予測していたのだ。何にでもブレーキは必要だからな」

「じゃあノアを止められるの?」

「理論上は。だがここまで巨大化していると、かなりのエネルギーが必要になる。我々も途中雲水晶(クラウド・クリスタル)を増幅させて来たが、まだ足りない。済まないが、君達のエネルギーを、分けてもらえないだろうか?」

「はい」

「もちろん」

「ありがとう。私達の不手際だから気が引けるが、君達の星のことでもあるからな」


 パーシャとヤンシャを乗せた雲は、シュン達を載せた機体を護るように前方へ移動した。ノアは鬱陶しいハエを追い払うかのように、パーシャ達を吹飛ばそうとする。だがパーシャが張り巡らす虹色のシールドが、彼の攻撃を遮った。


 以前も見た結晶の輝きが、シュン達からも確認出来る。

 モニターが再び繋がり、パーシャが二人に伝えた。


「あの結晶目がけて、二人のレーザーを撃ち込むのだ。直ぐに!」

「了解!」


 再び二人はレーザー発射の準備に取りかかり、照準をあわせた。脳波を利用する発射の為、度重なる使用は確実にシュンとハルへ負担を強いている。だが今の状況では、そんな弱音を吐く訳にはいかなかった。とにかくあの化け物を倒さないと、人類はここで滅亡だ。二人は気力を振り絞った。


「照準確認!」

「こちらも準備完了!」

「発射!!」


 今までの光より数倍の強度で放たれたレーザーは、ヤンシャとパーシャが持つ結晶を透過し、さらに数百倍の輝きとなってノアに襲いかかった。


 グォオオーーーーー!!!

 

 ノアがうめき声をあげる。苦しそうだ。


「いけそう?」

「いい感じかも!」


 二人が感じたように、さっきの軽い後頭部の損傷よりも、遥かにダメージを与えている。ノアを形作る雲は、全て溶けそうな勢いであった。これなら、十分効果がありそうだ。


「え、ヤンシャ?」


 ハルが驚きの声を上げたので、シュンも前方をみた。


 あの結晶は、レーザー増幅強度に耐えられなかったのか、破砕していた。そしてそれに伴い、ヤンシャとパーシャも静かに消えかかっていた。


「ヤンシャ、パーシャ、どうしたの?」

「あの結晶は、私達の命。最初から、こうするつもりだったの」

「さらばじゃ、若者よ。未来を頼む」

「ヤンシャ!」


 ハルの叫びも空しく、二人の雲は消え去った。

 結晶の破片かキラキラした小さな輝きが、空へと吸い込まれて行く。


*   *   *   *   *


 ガガーーン! 


 急に機体が横転し、二人はひっくり返る。かなり崩壊したが、ノアの攻撃は未だ続いていた。最後のあがきか。これで終わりとは、いかないようだ。


「イタた……」


 幸い、シュンは腕を強く打っただけで済んだ。多少の打ち身はあるけれど、大怪我はしていない。オートバランサーで再び水平に保たれた後に立ち上がったが、気がつくと側にいたハルがいなかった。

 

「うーーん……」


 ?!


 不安なシュンの予感が的中したかのように、向こうのシートでうめき声が聞こえる。シュンは慌てて駆けつけると、ハルは頭から血を流していた。急いで救急処置道具を取り出し止血する。しばらくすると、ハルは何とか意識を取り戻した。


「失敗しちゃったね、めんごめんご」


 痛々しい笑顔だった。


「ハル? ハル!」


 無理した作り笑いは長続きせず、直ぐに意識を失うハルに、シュンは泣きそうになった。頭を負傷しているから、下手に揺らすと危険だ。とりあえずハルだけ脱出ポッドに乗せて固定した。


 ゴゴゴゴゴォオオオオーーーー!!


 感傷に浸る間もなく、ノアは容赦なく二次攻撃を繰り出してくる。再び機体はひっくり返りそうになるが、シュンは何とか体勢を立て直した。


 もう武器は、シュンが持つイメージブラスターしか残っていない。シュンの力も尽きそうで、あと一発が限界だろう。


『残りは君達だけだ。我が数万年の生の為に、生贄になってくれ』


 さっきまでノアであった存在は、醜く崩れながらも、まだ生きながらえている。幾重もの触手が伸び、シュン達の機体をプリズムで焼き切ろうとしていた。


「うぉーーーー!!」


 シュンは覚悟を決め操縦桿を握り、正面へと突進した。

 ハルがいない今、もう自分しか頼るものはない。


 父さん、母さん、カエデ……

 ユキ、井口、関本、本川……

 イチイチやNAGSSのみんな……


 シュンは皆の顔を思い出しながら、ノアへ突っ込んでいった。

 迷いは、もうなかった。


 意外な行動に戸惑ったのか、幾つかの触手がからまって、オオトビイカへ狙いを定められない。その間隙を突き、シュンは中心部に狙いを定め、ありったけの思念を込めて撃ち放った。


 ウギャォオオーーー!!


 今までのどの攻撃より鋭く大きな青い閃光が、ノアに襲いかかる。

 最後になるであろう悪魔の断末魔の叫び声が、地中海一帯に響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ