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第74話 ノアは怖い

 突然、雲の中心部で閃光が激しく乱舞し始めた。


 縮みかけた雲が、まるで生まれ変わるかのように激しく動き、不規則に隆起していく。普段見る積乱雲より何倍もある大きさに、二人は声も出せず、恐怖と畏怖の念を抱いた。やがてその中心部は何かを形作り始め、遂には半径50kmほどの人間の頭部が現れた。


 それはタイリュー山やイェドで見た時と同じ、紛れも無い沙槝場ノアだ。


 緊急通信が入り、モニターが切り替わる。先ほどの冷静沈着さは微塵も無く、ブラウン少将も背後に居る兵士達も、慌てふためいていた。


「す、すまない、失敗したようだ。エネルギー出力低下は認められたが、直ぐに無効化されてしまったよ。参ったな。やむを得ない。遠隔操作は解除する。君達だけでも、急いで退避してくれたまえ」


 ピカッ! ドドドーーン!!


 ブラウン少将もがそう伝えたや否や、激しい落雷が艦隊を包み込み、次々と誘爆していった。周辺には、核爆発のようなキノコ雲が幾つも現れ、モニターは雑音だけになった。キノコ雲が消えた後、取り囲んでいたNAGAF艦隊および飛行機団の影は跡形も無かった。



「逃げるわよ!」


 ハルはそう言って、機体の操縦モードを自動から手動に切り替えた。

 大きく旋回するつもりだ。


「待って!!」


 シュンが静止した。ノアの形状をした雲は、周りを見渡している。二人の機体を認めると、ドラゴンのような大きい牙を持つ口に変化し、こちら目指し突進して来た。


「全速力で前進する!」


 シュンの、意外な言葉だった。


「本気?」


 ハルの問いかけには返事をせず、シュンは半ばハルからひったくるように操縦桿を奪い全速前進をし始めた。


「これには、雲状のバリアーが貼られている分、酸性雨や雷には強い。今こいつを破壊しないと、宇宙基地どころか地球全てが、奴の支配下になる」


 マッハ三の猛スピードで、オオトビイカは雲の中へと突っ込んだ。雲の中は一寸先は闇のカオスで、先ほど破壊された機体の一部も、まだ舞い上がっている。乱気流で機体も安定せず、操縦難度は高い。だがシュンは、必死に操縦桿を掴み、揺るぎない意思で直進する。


「もうちょっと、強引なんだから」


 ブツブツ文句を言いながらも、ハルはシュンのサポートに徹した。


「バリア強度、85%。やはり強酸性だから、腐食の浸食は止められないわ。予定破損時刻、約一時間」

「大丈夫、中心まで行ける」


 まるで何かに憑かれたように、シュンは真っすぐ前だけを見ていた。濁った雲の中をきわどい速度で飛び続けると、急に清浄な空間に突き当たり、風が止んだ。


「きた!台風の目よ!」

「そう、みたいだね……」


 そしてその中心には、超巨大化した沙槝場ノアが、こちらを見ていた。


「く、雲だよね……」


 不安そうなハルをよそに、現実は冷酷だ。


『やあ、お二人さん。遠路はるばるようこそ!』


「やっぱり喋ったーーー!!!」


 二人の絶叫は、ハーモニーとなる。


『驚く事はないよ。僕は素子体と同化した覇権生物なのだから。動いて喋るのは当たり前さ』


 ハルは恐怖に震え、足をガクガクさせていた。

 シュンはキッと睨み返し、「これからどうするつもりだ!」と叫んだ。


『どうする、か』


 沙槝場ノアは苦笑いしながら、話を続けた。


『幸い時間はたっぷりあるから、数万年かけて考えるよ。当座は、浄化だね。進化論は知ってるだろう?残念ながら、人間はその正解を知らなかった。頂点は一体で十分さ。覇権を奪われた生物には、退場してもらうのが自然の摂理だよ』


 ノアは軽く息を吹き込むと、オオトビイカ目がけて、息を吐き出した。その勢いある風は、機体を錐揉み落下させるほどだが、シュンが何とか持ち直して、再び対峙する。


『君達こそ、どうするんだい?僕がある限り、この地球では無力だよ』


 次は手を太陽にかざすと、ノアの腕はプリズムに変形し、高熱線が照射された。幸いにして機体を掠めただけだったが、オオトビイカの動きがにぶる。


「バリア状態45%まで低下!」


 ハルは叫んだ。


「どうするの?やっぱり逃げた方が良いんじゃない?」


 ハルは及び腰だが、シュンはまだまだやる気だった。


「皆の為にも! ノア目がけて、二人でイメージブラスターを撃とう!」

「了解、分かったわ」


 シュンは操縦を自動モードに切り替え、再び席に戻る。スコープの先にあるのは、真っ白く巨大なノアだ。恐怖に震えながらも、照準をあわせた。


「いける?」

「うん」

「じゃあ、発射3秒前」

「2」

「1」

「ゼロ、発射ぁーー!!」


 再び二つの光が重なり、七色のレーザーがノアの頭を貫いた。

 巨大なノアの頭部の一部は吹き飛び、動作が心無しか遅くなった。


「やったか?」


 だがそれは束の間の安堵であった。

 ひしゃげた頭部は直ぐに元通りとなり、再びノアはオオトビイカに、強風を吹き付けた。機体はバランスを失って再び下降したものの、シュンは必至に操縦桿を握り持ち直した。


 すると突然、モニターに交信が入った。


「ハル、シュン、やっと来たんです!」


 ヤンシャとパーシャだ。目視できる直ぐ側まで、やってきている。


「既にここまで巨大化したとは……最終形態か」


 父であるパーシャは、何かを決心しているようだった。

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