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第67話 初上陸

 惑星プロキシマbの3D動画が、壇上に映し出された。

 キリシアは一部を拡大させて、地表にある建造物の存在を示した。


「後でも出て来るけど、自動観測機で都市部跡を撮影したのが、これ」


 映し出されたのは蔦に覆われ廃墟と化した建物であった。

 イェドにあるような、高層ビルは何処にもない。


「君達にもどんな用途だったか、何となく分かるかな? 特徴的だったのは、植物の緑が濃かった。標本解析したら理由も判明して、葉緑体の数が地球より数倍多く含まれていたんだ。

 ケンタウリは太陽より弱い恒星。実際に上陸すると、昼間でもぼんやりした明るさだったの。だから光合成を効率よくするために、葉緑体が進化したみたい。

 あと印象的なのは、ガラス張りの建物が多かったな。実際に廃墟に行って調べたら放射線を防ぎ、可視光だけを透す特殊ガラスが大半。おそらく最大限に採光する為の工夫だったと思う」


「地上で作動していた建築物は無かったのですか?」


 シュンが質問した。


「数万年以上壊れず存在する建物は、殆どなかったわね。これは地球も同じでしょう。原子力を使ったエネルギーはともかく、部品等の劣化があるから、機能維持は本当に難しい。ただ一つの例外は、黒卵(ブラックエッグ)。これは後で見せるわ」


「人工衛星は無かったのですか?」


 コウが質問する。


「ええ、当然それも解析対象。デブリは存在したの。ただ稼働中の物は一つもなかった。それと、直ぐに分かったのは、夜。文明は火から始まる。

 地球の夜景、綺麗よね〜 私も夜景を観ると、癒されるわ。夜間の行動範囲を広げる為に、光は必需品。だけれど、この惑星では全くの闇だった。だから、誰もが知的生命体の非存を疑わなかった」


「他に判断材料は無かったのですか?」


 ハルの質問だった。


「そうね、巨大生物の有無かな。キングコングやゴジラ並みの生物がいたら、私達は無力だし。ただ幸いにして、衛星画像でそのような生物は恐竜レベルでも確認されなかった。

 これまでの情報を勘案して、文明が死滅した惑星と判断して、地球にその旨を報告した。でも解析を地球時間で十日間ほど続けて、奇妙な現象に気付いたの。それは、雲」


 3Dには、惑星の雲の様子が早送りで映し出された。流れるような大気が複雑な紋様をとる。その様子に、一同、何か気付いたようだ。お互いヒソヒソ声で何か喋り始めた。


「気付いた? ここだけ雲がずっとかかっている。まるで宇宙から何かを隠すように。当然、何かあると思うのが自然よね。衛星画像から判断すると、高度が高い砂漠だった。ちょうど着陸に都合のいい台地も、ずっと広がっている。それも今から思えば、私達客人を招き寄せるために、彼らが仕組んだのだと思う。

 だからまず雲がない場所に自動小型船をおろし、簡易滑走路を作り上げた。それは無事終了して、いよいよ上陸の開始よ」


 キリシアはそう言うと再び講堂を暗くして、壇上の3Dホログラム装置を作動させた。大画面に、ノアが映し出される。シュンとハルに取って、忘れたくても忘れられない顔だ。


「私が記録係、説明係はノアよ」


 先ほどの写真と違い、動くノアは活発で明るい少年であった。

 身長は170cmほどで、ミーハやキリシアより背は高くない。


『西暦三九一四年一一月一〇日。地球時刻で4時38分。今から我々は惑星に向けて出発する。数多の星に下り立ったが、地球と類似した惑星に着陸を試みるのは今回が初めてだ。願わくば、人類の礎になる事を願います』


「あ、ちなみにまだAN暦は普及してなかったから、西暦にしてるの。今年が四〇一一年ね」


 映像は続く。


『相変わらず堅苦しいなあ』


 傍らには、如月ユージとそっくりなミーハが笑っていた。


『だって記録映像よ。人類初なんだし』


 幼さが残るキリシアの声が、ミーハを諭す。


『何度も練習してるし、気楽に行こうぜ!』


 映像のミーハも、明るく笑う快活な少年だ。

 フォーチューン市で会った憤怒と焦燥の塊だった面影は、微塵もない。


『マモナク、発射シマス。シートベルトヲ着用シテクダサイ』


 人工音声が鳴り響く。


『ジュウ、キュウ、……イチ、ゼロ!』


 勢い良く射出されたシャトルは宇宙へ跳び出した。青白く霞がかる大気は地球そっくりで、地球への大気圏突入映像と言われても信じそうだ。


 やがて軌道に乗ったシャトルは降下を始め、大気圏へと突入した。モニタは動作しているが、激しい摩擦熱で前方の耐熱ガラスから視界が消えた。


『このタイミング!』

『行っけぇ〜!!』


 ノアは思いっきりレバーを引き、機体を水平に少し近づけた。映像が段々と戻り始めると、真っ青な空を飛行する様子が映し出された。


『位置は?』

『東経百七十八度、北緯三十四度、予定通り』


『バーナーの燃料、残量80%、計器センサー類、特に異常なし』

『よし、目的地までこのまま飛行、滑走路予定地を確認次第、着陸を目指す』

『そろそろ、あの雲の下が見える筈よ』


 暫く飛行する一行達は、目の前に広がる景色に驚愕した。


『何これ?墓標?』

『少なくとも文明生物の遺物だな』


 そこにあったのは、光を吸い込むように真っ黒で巨大なドームだった。大きな卵のようで、継ぎ目も装飾もなく雲の下で大きく横たわっている。カメラを動かし雲の様子も撮影されたが、至って普通で一見すると地球の雲と同じだ。


『滑走路予定地、確認。センサーからのデータから岩盤の強度も許容範囲内』

『よし、着陸する』


 機体は再び減速・降下し、着陸態勢をとった。機体のセンサーと自動操縦で簡易滑走路に誘導され、無事何事も無く着陸した。着地最初の衝撃は予想通り激しかったが、これも地球の飛行機と同じような着陸だ。


『西暦三九一四年一一月一〇日。地球時刻で6時15分。

 大気圏突入から一時間三十七分、惑星プロキシマbに着陸成功する。

 記念すべき時を、我々は心から祝いたい。


 コロンブスやマゼラン達のように、人間が新たな惑星に辿り着いたのだ。

 だがアメリカ大陸がそうであったように、先住者達の痕跡も確認している。

 我々に何が出来るのか、今後の経緯を記録し続ける予定である。


 機体には特に異常なし。当初の目的通り。

 上空からも分かる雲の真下には、人工物が存在した。黒くて丸い卵のようだ。

 今後、その形状から<ブラッグエッグ(黒卵)>と呼ぶ。


 着陸地点からの距離は約二〇〇㎞。まだ目視で確認はできない。

 現在我々は、重力の負荷に耐えられず、立脚不能。


 重力は予測理論値通り地球の1.8倍だった。

 まずは数日間かけて、筋力の回復に努める。


 この惑星の生態系に、十分な注意をしなければならない。空気の組成分や生物の解析および情報収集の為に、観測機を飛ばし、データを収集する。


 我々は今から地球時間で三週間ほど安静にして肉体の回復を待つ。その間、観測機を飛ばし、各種データの収集および解析を行う予定だ』


「重力からの回復にどれくらいかかったのですか?」

 ワグパが質問したので、画像は一時停止された。


「そうね。骨に関しては、特殊製剤のおかげで骨密度が維持されるの。


 ただ筋肉は常に負荷が必要だから船内でも運動していたけど、回復はかなりの労力ね。運動器具の使用で何とか促進出来るけれど、やはり一週間から十日は最低かかる。ロボット補助具を使えば、もう少し早く歩けたけれどね。幸いにしてその間、特に問題は無かった。ただ順応する為に、いくつかの準備は必要になる」


 場面が切り替わる。


「この間に観測機を飛ばして、各所を観察したの。これはその映像。色々あった」

読んでいただき、本当にありがとうございます。本物の風景がどうなのか興味がありますが、今は想像だけの世界です。

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