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第66話 着陸準備

 キリシアの説明は、続いた。


「これで太陽系を移動中は、光速の五百分の一、六〇〇km/sまで出せたわ。それでも二千年かかるけど。あ、これちょうど火星の近くを通っているときね」


 3D映像は火星を間近にとらえたが、直ぐに消え去った。

 どれだけの速さだったかが、良く分かる。


 「じゃあちょっと先に進んだ場面を。これ、綺麗でしょ〜!」


 場面は切り替わり、真っ暗になった講堂全体に3Dの星の海が映し出された。一つ一つが個性ある輝きで、微妙に動く姿も含め、ずっと見ていても見飽きない。


「これは私が個人的に撮影保管した映像だから、初公開。宇宙船の前部が全方位型の展望室になっていて、空き時間にはよく独りで眺めていたなあ。だって、望遠鏡越しじゃない、本物の光が私に降り注いでいるの! 

 何百年、何万年、更には何億年の太古から放たれた光が、地球から見るより遥かに綺麗な宝石のように、一つ一つ異彩を放ち、私に話しかけて来る! 放射線も完全遮断だから、チェアに寝そべり、飽きもせずよく眺めていた。あの時私は、星達を共有できた。この輝きを自分のものにしただけでも、来た価値があったな」


「船の乗り心地は、どうだったの?」


 ハルが聞いた。


「まあそれなり、かな。設計データはこの学校にあるから、今度閲覧してみれば? プライベートスペースも、コンパクトだけどそれなりに考えられていて、不自由はしなかった。かゆい所に手が届くってやつ? 設計者がニッポン人と聞いて、みんな納得してたわ」


 皆から、軽い笑いが起きた。


「じゃあ巻き戻って太陽系を出るまで。観光案内みたいだけど、先ずは惑星達から」


 そう言うと、見慣れた火星の他に木星、土星、冥王星、海王星と順に映し出された。この時代、火星までは人の手が入っているが、木星には観測機しか降り立っていない。


「そしてここは太陽系の端、ヘリオポーズ」


 その映像は、特に変哲も無い宇宙の画像に思える。だが太陽の重力の影響が消える場所だ。 ひたすら続く闇で、虚無の世界のようだった。


「で、これが太陽を見た最後の姿。これは2次元の方が見やすいか」


 キリシアが背後のスクリーンン映像を切り替えると、そこには小さなドットがあり、やがて消えた。


「この後の通信も段々と途切れがちになったけど、幸いにして重大な問題は起きなかった」

「メンタルに異常はきたさなかったのですか?」


 コウが質問した。


「その点は、何度も地球で訓練を受けたんだ。最初は慣れなかった生徒も、最後は冷静な判断力を身につけられた。けれど現実として、他の隊では事故があった。君達を含め生徒には予め遺伝子スクリーニングされたけど、それも万全じゃないんだよね」


重力波乗り(グラビティ・サーフ)はどうだったんですか?」


 ワインハムが質問した。


「そう、やっぱり気になるよね。恒星の成れの果て、光すら閉じ込めるブラックホール。これを上手く使わないと、恒星間航行は永遠に無理だった。重力波乗り(グラビティ・サーフ)で光速の1/10の速さを確保し、船内時間も遅くなる。

 だから発見当初は、この場所を探しに探しまくったの。結果、大小さまざまなものが何箇所もあり、ハイウェイみたいに使用できることも分かった。ただ動的な移動もするから、どこにあるのか常にモニターが必要だった。私達の船フォルトナも、千羽鶴と同期して、通信が可能な限りコスモアトラスを更新していった。

 こうして詳細な地図情報を持ち、万全の備えで重力波乗り(グラビティ・サーフ)へ突入した様子が、これ。ただやっぱり最初は生きた心地がしなかったな。第十一部隊は飲み込まれちゃったし」


 その映像は、星々の海の中にぽっかりと開く、深淵の闇への突入だった。境界面では、星の光が曲がって見える。光すら逃げ出せない闇が支配する世界。映像は、その歪んだ空間の端をひたすら進む様子が映し出されている。


「宇宙船の外壁の金属は月や火星から採れた金属も含めた特殊加工で、強度は持ちこたえられた。一番最初の重力波乗り(グラビティ・サーフ)では、私とミーハが担当した。

 少しのズレでブラックホールへ墮ち込む恐怖、生きてて一番ゾクゾクして緊張もしたな。ただ恐怖を克服した先に、新たな光は見えるの。大航海時代や開拓民時代の先人達のように」


 しばらく、重力波乗り(グラビティ・サーフ)の映像が流される。


「けれどこれを使っても、地球時間で数十年以上の時間がかかった。コールドスリープも併用したけれど、流石に四.二光年は長いわね。だから私達の身体には、遺伝子改変プログラムがなされ、老化耐性なの。理論上、普通の二.五倍は生きられる。ただその代わり、生殖機能は削除されたわ。

 ホルモンバランスの破綻を防ぐ為と説明を受けて、博士から申し訳ないと何度も謝られたの。今にして思えば私達が、人類に取って代わられたく無かったのかも知れない」


 講堂内がざわついた。


「それは私達も受けるのでしょうか?」


 不安そうな声で、ターニャが聞いた。


「どうなんだろう? 必要ない気もするけれど。きっと所長やもっと偉い人達が決めるのよ。あ、今なら『ジン』か。そもそも、今度の航行目的が私達と違う可能性もあるし」


 キリシアの表情はあっけらかんとして、大事と思ってなさそうだ。


「どんな手術だったんですか?」

「結構簡単。遺伝子編集機能が組み込まれたエキソームウイルスの注射。高熱や嘔吐の副作用があった子も居たけれど、その後特に問題にはならなかったな。女の子の日も無くなったから、かえってすっきりしたかもね」


「時間も足りないから、ここからは惑星にたどり着いたところにするわ。実際、超高速移動だから、他の観測衛星より間近に観察できた対象物って意外に少ないのよ」


 そう言うとキリシアは場面を変えた。

 3D映像は、接近する惑星プロキシマbを映し出した。


「これかなりのスローで流しているけど、初めて観た時は、とにかく感激で涙が出た。ただ周回軌道に乗るため何度も減速スイングバイをし続けて、やっと衛星になれた。この他にも色んな出来事があった。全て話し始めたら千一夜かかるから、止めておくわ。

 とにかくこの景色が、今までの苦労を全て吹き飛ばしてくれた。この時は全員コールドスリープを解除して、本当にお祭り騒ぎだった。当然地球にも通信したけれど、どうせ返信はしばらく後だし、気にしていなかったな」


 映像は心から喜ぶ七人の姿が映し出された。

 実物大だから、本当に壇上にいるようだ。


 コールドスリープから目が覚めて喜ぶキリシアも映し出された。

 他のメンバーも、歓喜の大声を上げたり、うれし泣きをしている。

 冷静沈着なノアも、この時ばかりは違った一面を見せていた。


 パーティーが終わった後、一時停止してキリシアが話を始めた。


 「ただ次に大きな問題が持ち上がった。『この星に下り立つか?』さっきサイトーが言った通り。当然過ぎて認識していないだけで、今こうして立てるのは重力のおかげでしょ。四つの力が統一して記述されたけど、一番弱い力である重力は、蟻地獄のように厄介なの。

 無視もできないから、付かず離れずの関係でやらないと、いけない。はまれば抜け出せなくなる。もちろん惑星プロキシマbに下り立つ為に、大気圏突入可能な小型シャトルも搭載していた。でもどんな星なのか、誰にも分からない。知的生命体も当然いるかもしれない。

 まずは惑星の周回軌道に乗って、観察を開始した。一周は一二〇分ほど、軍事衛星並みに五cmレベルの解像度だったので、十分観察できた。

 それでまず分かったのは、文明の存在痕跡。そして、既に滅亡していた事実。地上の映像解析から、あちこちに住居や人工の建造物らしき物があった」

読んでいただき本当にありがとうございます。最近ボイジャーが太陽系を出たから、太陽圏外の情報が入るのは、もう少し後になるのですかね。数年後が楽しみです。

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