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第54話 作戦会議

「奴らは、本気だ」


 夜、ハルの失踪に気付いた三人は、深刻な面持ちでテーブルに向かい合っていた。ハウザーの言葉が、重く響く。


「何処にいるか、分からないんですか?」 


 シュンは、気が気ではなかった。神隠しのようにこつ然と消えたハルの身に何かあったらと、心配だけが先走りする。ここで喋っていても、何も進まないと、焦る自分がいた。


「シュン君、彼女も覚悟は決めている筈だ。悪いが君も含め、これは訓練では無い。実戦なんだ。必要以上の援護は出来ない」


 ハウザーの冷酷な一言に、シュンは心臓が凍り付く思いだった。


 所長に言われて来たものの、本当に生命が脅かされるとは、今の今まで実感していなかった。こうなると、自分が代わりにやるしかない。最低でも、M.O.W.の場所を突き止め、所長達に伝えなければ。焦る、シュンである。


 キャサリンは、シュンの落ち込んだ顔を見ながらも、冷静な判断を取り戻そうと、話を始めた。


「まずこのフォーチュン市について、説明させて。この街は、今から二百五十年以上前に、砂漠のど真ん中に作られた人口都市。初めは、どこからともなく人々が集まってきた。既に土地は二束三文で売り払われていたから、周りの住民は誰も気に止めなかった」

「そうだったんですか」


 そんな経緯があるなんて、シュンは知らなかった。


「ただ彼らは二年であっという間に、五十万エーカー、十万人規模の自己完結した都市を創り上げた。水道やガス電気、交通インフラも含めて、全て。エネルギーも油田があるし、全ての金属合成工場を持っている。この伯父さん、最初に創り上げた技術者の子孫なの」


「私の家系は、代々が水道技師でね。湖から引き込んで作った浄水場から、各家庭へ流れる水道の配管を、担当したんだ。今は殆どが全自動ロボでメンテナンスされているけれど、原図のコピーは家宝として持っている。この街を創ったのは、ビリオネア達だった。中心人物達の写真がこれだ」

 

 キャサリンが見せる写真の中央には、紛れも無く如月ユージ瓜二つの人物がいた。


「え!」


 一度ならず二度目となるユージの登場に、シュンは再び驚いた。


「そう。彼ロード・ミーハは天才科学者のビリオネアだった。今の彼も、クローンなんだ。この写真を見るだけで、彼が中心と分かるだろ。先祖の記録からも、彼が都市計画の立案者とあった。それで、話は十二年前になる。郊外に、鉱山とダムの新規開発計画が発表された。どうやらAI『ジョージ』の進言らしい。問題は、完成した後だ。不思議にも、工事の監督や設計者達が、忽然と消えたんだ。我々技術者は、横と楯の関係が強くてな、大体は顔馴染みなんだ」


 だんだんと不穏な空気を感じとるシュンであった。


「我々も仕事をしに他の地域へ良く出張するから、出張中かと最初は気にしなかった。ランクに関係なく、好きでやる仕事だがね。だが暫くしても、誰も帰って来ず、少し変だなと、思い始めていた。そして一ヶ月前。俺は、庭に菜園を作ろうと、土を掘り返していたんだ。まあ趣味みたいなもんで、西部開拓民を気取り、庭に畑を作ろうと思った訳だ。まず最初に石を除き土をならそうと思って鍬をいれたら、固い物にぶつかった。掘り返すと、箱だ。旧式の鍵でロックされていたが、幸いに開いた。中にあったのは、これだ」


 それは、設計図らしき紙だった。下にはサインがしてある。


「この署名は、おれの友人であるトマスのだ。見間違える筈が無い。手紙もある」


『親愛なるハウザー


 この手紙を何時読むのか、君が読まずに終わるか、自分には分からない。

 だが事実を知った自分としては、誰かに託さねばならない。


 ずっと考えてきたが、一番信用出来る君に託したい。

 相手に感づかれないように。君にもこの箱の件は伝えない。

 だから知られずに終わるかも知れないが、私は万に一つの可能性に賭ける。


 この街は、文字通り世界を滅ぼせる。この設計図は門外不出の資料だ。


 この池の下に作られたこれが作動する時、この街が終わるかも知れない。

 いや、下手をすると世界が終わるかも知れない。

 一縷の希望を君に託す。神のご加護がありますように。

                               トマスより』


 ハウザーはテーブルに紙を広げた。


「この赤く◯の付けられたダム、人工貯蔵池を見てくれ」


 そう言って、街の中央南にある池を指差した。


「これは、川から工業用の水路に引き込んだ池だ。この設計図を見れば分かるが、池の二百メートル下にも、配管が通っている。しかも水が対流するように作られているのだ」

「なぜ?」

「コンピューターの冷却用ね」

「その通り。恐らく巨大なコンピューターや機械を冷やす為に引き込んだのだろう。彼はこれを伝えたかったらしい。M.O.W.があるなら、ここだ」


 シュンは、ノアの作ったM.O.W.にあった鉱山地底湖のダムを思い出した。


「どうやって行けるの?」


「一週間ほど前、現地を偵察して来た。幸いにも、現在あの貯水池は水量調節期で、水が少ない。そして池周辺を調べると、ちょうど水面近くに入り口が一つあった」


 ハウザーは、写真を見せた。


「それよ!」

「メンテナンス用の入り口が、偶々露出しているのかも知れない。危険は伴うがハルがいなくなった現在、事態は急を要する。決行は今夜だ」

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