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第52話 本当に潜入出来るのか?

 出て来たのは二人、典型的なアジア系民族。

 情報通りニッポン人に見えるが、判別は難しい。


 少年と少女っぽいが、大抵のアジア系は年齢不詳に見えるし、ミステリアスだ。ただどちらも顔が青ざめていて、すぐに話を出来る状況じゃない、ってことは分かる。


 オウェ〜〜ッ、ゲホゲホ


 我慢していた二人はたまらず壊れた機体の壁に寄りかかり、嘔吐した。着陸時の衝撃ですっかり歪んだそれは、もう空へ跳べない。


 ひとしきり終わって立ち上がると、二人はもう一度中へ入り、荷物を持って来た。戻って来ても、未だ揺れで不安定なのか、周りの状況が分からないのか、眼の焦点が定まらない。


「何がオペレーション・ドロシーよ! 死ぬかと思った! あのクソ所長、ホント相変わらずいい加減な作戦立てやがって!」


 やっと悪態をつくくらいに回復したハルは、まだ気持ち悪いらしく、再び体を二つ折りにしてしゃがんでしまった。シュンは何とか立ち上がっているものの、こちらも未だダメそうだ。ただ幸い、外傷はない。


「ハロー! NAGの子? ニッポン人? 英語、できる?」


 頃合いを見計らい、心配しつつも、キャサリンは二人に話しかけた。


「ええ、二人ともニッポン人だけど、英語はできるわ」


 少女、ハルは振り返りもせず答えた。シュンもうなずく。


「ようこそアメリ連合国へ! 私はキャサリン、キャシーと呼んでね!」

「私はハル、こっちはシュンよ」

「ハル、シュン、よろしく」

「あ、はい」


 よろよろと立ち上がったハルにハグするキャサリンを見て、シュンはドキッとした。こんな綺麗な女性にハグされる経験なんてない。心の準備をしなくては。だがシュンには握手を求められただけで、肩すかしを食らう。


「ちなみにお二人のお年は?」

「16です」

「ふうん、じゃ見た目通りか」


 キャサリンは見たところ二十代だが、砂漠暮らしが長いせいか、金髪の手入れはほどほど、白い肌は荒れ気味で赤みがかかっている。二人より一回り以上大きく、アメリ人らしい魅力的なボディでがっしりとしているものの、綺麗でも人懐こさを感じる笑顔は二人を安心させた。


 キリシアやNAGSSのカトリーヌと、似ている。

 この人なら、地球上の何処でも住めそうだ。


「酔いは大丈夫?落ち着いたらトレーラーに乗って出発するわ」


 目の前にあるその筐体はバカでかく、同時にこの国の巨大さを現していた。


 ハルは、さっさと乗り込んだ。だが「う、ちょっと待って」と、再び下りた。


 シュンが「どうしたの?」とハルに聞くと、ひそひそ声で「ちょっと汚すぎ……」と言う。


 「どれ?」とシュンが中に入ると、確かに凄まじい散乱ぶりだ。


 銃やランチャーが無造作に置かれているのが、この国らしい。加えて彼女の洋服や下着も所構わず放ったらかしで、目のやり場に困る。ハルは触るのも嫌がり、仕方なくシュンがしっかり掃除して、やっと二人も乗り込んだ。


「そっか、独り暮らし長くてね、ごめんごめん」


 悪びれる風も無く、キャサリンはトレーラーの居室に入るとコーヒーを煎れ、二人に渡した。学校から飛び立って何日経ったのか知らないが、とにもかくにも、目的地に到着した。これからが大変だが、まずは仕事前にひと休みだ。コーヒーの香りが久しぶりで、喉が潤った。


「どう? メヒコ産だから、味も濃いでしょ?」

「うん、美味しい」


 ハルの機嫌は、少し直ったようだ。


「連絡受けてるけど、フォーチュン市への潜入で良いんだよね?」

「ええ、そうよ」

「んじゃまず、目的地はここ」


 中央にある机にはめ込まれている液晶モニターに、付近の地図が映し出された。自分達の居場所が、白く印されている。砂漠のど真ん中だ。目標の街まで二百キロといった所か。


「数時間で着くけど、問題はセキュリティ。あそこは世界で一番厳重で、入る手段が無いのよねえ」

「もう手筈は整えてある、って聞いてますけど?」

「そりゃ考えてたけど、どれも欠点があって。何でも噂じゃ、あそこのお偉いさんは変態趣味なんだって。だから美少年をあてがおうと思ったんだけど……」


 キャサリンの眼が怪しく光り、シュンを捕らえた。


「え、それどういう意味っすか?」

「まあ、アジア系は趣味じゃ無さそうだから、ボツ」

「ふう」


 いきなり訪れた危機が瞬時に去り、シュンは安堵する。


「ま、まさか私?」


 恐怖におののくハルに、キャサリンは意地悪な顔をして「どう? あなた十分魅力的だから、一発よ?」と言う。

 

 ブルブルブルと震え上がるハルに、キャサリンは笑い返した。


「だーいじょぶだって、どうせ後が続かないからね。そもそも噂だし。君達は見た目通りのニッポン人だから、日本舞踊の楽団として潜り込むのも、どう? 珍しがられるわよ? 踊りは上手? 何か楽器できる?」


 これも無理と、二人共勢い良く頭を横に振る。これならユキにでも、習っておけば良かった。ハルは踊りや歌は好きなはずだが、”察しろ”と言わんばかりに、シュンを睨む。


「そっか、ざーんねん」

「他にアイディアは?」


 ハルは少しイラついていた。シュンも、この杜撰な作戦に嫌気がさし始めて来た。


「うーん、この街、外壁から中には中規模国家と同レベルの設備が整ってんだ。だから連合国の中でも自治レベルは最大、はっきり言って治外法権。そんな地上の楽園みたいな街だけど、新規入居は、ほぼ不可能なんだ。遺伝子レベルを三代まで遡っての調査があって、最近の合格者はなし。しかも全住民のID管理やセキュリティは、最高レベルで完璧。だから、よそ者は確実に入れないし、入ってからもバレるのは、時間の問題。一応、こっちも仕事したよ? 下水道から潜り込むとか、ガス点検とか何度シミュレートしても、駄目」


「じゃあ、侵入不可能ってこと?」

「まあね」


 ハルがヒソヒソ声で、シュンに日本語で話しかけた。


「ちょっと、話が違うんじゃないの?」

「僕に言われても……」


 確かに、話が違う。シュンも所長に問い合わせたくなるが、ここからは繋がらない。キャサリンはその様子を知って知らずか、運転席の方に何やら探しに行って、戻って来た。


「まあ、そんな迷える子羊達の為に、これを作っておいたのだ!」


 そう言って二人にカードが手渡された。既にそれぞれの写真入りだ。


「ジャーーン!お姉さんはこう見えて、フォーチュンの住民と、知り合いなのだよ。これが、街の入構パス。君達のも登録済み! 幾ら閉鎖都市でも、友人の付き合いぐらいは、オッケーなんだ。パスポートとかの細かい書類は偽造だけど、多分いけるっしょ」


 簡単じゃん、あの説明何? と心が顔に漏れているハルに、シュンは何も言えなかった。

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