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第50話 オペレーション・ドロシー

 ヤンシャの助言通り、新たに乗った気流は猛烈なスピードで二人が乗る雲型飛行機(舞いクラゲ)を運び、見る見るうちにアメリ大陸が現れた。


 上手い具合に夜だったから、見つかりにくい。宝石のように街の灯りが煌びやかにキラキラ輝く様は、イェドに劣らず壮観である。地震と核戦争で壊滅的なイェドの海岸部に比べ、アメリ大陸の街は良く保存されており、幾何学的に家が並んでいた。


「お二人とも、調子はどうだい?」


 モニターが自動でつくと、管制官とチェスター所長、サイトー先生の姿が映し出される。時差の違いか、少し眠そうだ。


「大丈夫です。でもこれ、どうやって着陸するんですか?」

「うむ、それを今から伝えようと思う。この通信が、最後になる。心して聞いて頂きたい」

「はい」


 二人の顔もがぜん引き締まり、モニターを注視する。


「それで、だ。改めて言うが目的地の都市はフォーチュン市、現在地から、西南に約2,500km先に位置する。壁で囲まれた要塞型都市として建設されており、セキュリティは完璧だ。一般人は立ち入れない。郊外で待機する協力者の手引きに従って、潜入してくれ」

「はい」

「分かってるわ」

「問題は、着陸法だ。レーダーや衛星で、都市周囲も万全の体勢で観測されている。だから通常着陸では、発見の危険が常に伴う。どうやって見つからずに着陸できるか? われわれは議論を交わして一つの結論に至った。幸いにして、地上まで届く雲が一つだけある。知ってるか?」


「もしかして……」


 何か気付いたのか、ハルは不吉そうな顔をし始めた。

 シュンは、素直に黙って聞いている。


「そう、《トルネード》だ。雲型飛行機(舞いクラゲ)は、非常に頑丈に出来ている。シートベルトも、トルネードモードにすれば完璧に固定され、君達に物理的損傷は無いはずだ。ただ多少不規則な上下回転で、乗り物酔いになる可能性は、否定出来ない。訓練でやる宇宙酔い対策と、似たようなものだ。実地訓練と思ってくれ。名付けて、《オペレション・ドロシー》。良い名前だろ?」


「え、ちょっと待って、本気でトルネードに突っ込むの? あれ、家とか車とか牛とか、巻き上げるぐらい強力なんじゃないの?」


 不安が的中したのか、ハルの顔は焦り始めた。

 シュンは素直に聞くだけで、事態を良く飲み込めていない。


「最適なトルネードは、AIが選択してくれる。後は自動でシートの固定等がされるから、その時は指示に従うように。以上だ。幸運を祈る」


「え、まじ?」


 一方的な宣告の後に、モニターは切られた。

 再び通信を試みたが、梨のつぶてであった。


「本気なの?」


 ハルは、かなりキレかかっていた。

 一方シュンは、そんなものかと何も言わなかった。


「全く、何時もこうなんだから! ミェバの時もそう! いきなり呼び出されて、転校手続きしたからと言われ、午後にはもう到着。事前情報は行く間に覚えろだし、ホントいい加減にしてよね!」


 天下のNAGがそんな杜撰な対応の筈はない。そう思うシュンだが、ハルの言葉を聞いていると、トルネードに突っ込むのが無謀に聞こえ始めた。


「大丈夫だよ、多分実験したんだろうし」


 シュンは、そう思い込もうとする。


「そう思う? NAGの技術開発部門、結構ポカやるって有名なのよ!」


 ハルの愚痴は、まだ続いていた。


 今からどうなるか分からないが、舞いクラゲはアメリ大陸の内陸へと入り、飛行を続ける。雲の高度は低く、眼下のハイウェイを走る車のライトも見える。色とりどりの光が、人間の生活を現している。窓の外を眺め、シュンはリラックスしていた。


 しばらくすると、地平線から朝日が覗き始めた。


 所長達の言うように、かなたにある灼熱の大地の上をトルネードが駆け回っている。あのどれかに乗るのだろう。いよいよかと、気が引き締まるシュンであった。

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