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第47話 M.O.W.はまだあった

 春の訪れも近づくある日、ホームルーム終了後、サイトー先生がシュンとハルに声をかけてきた。


「櫻菜、新未、今からちょっと来てくれるかい?」


 二人で呼ばれ、シュンは何だろうと思いつつ先生の後について行く。


「何かな?」

「どーせ、ろくでもないことよ」


 ハルは、さほど深刻にとらえてない。


 そう言えば、NAGSSに来てから、ハルと二人きりの時間が無かった事に気付く。会えば話もするし、避けられている訳でもない。単に、いつも他に誰かが居ただけだ。


 サイトー先生の後ろについて並んで歩くハルの姿は、初めて会った時より小さくなった。ハルが縮んだのじゃなくて自分の身長が伸びたんだと、シュンは理解する。サイトー先生は何も話さず所長室の前に来ると、そこで立ち止まった。


「サイトーです」

「どうぞ」


 中にはチェスター所長がいて、3Dプロジェクターが用意されている。

 四人しかいないが、大人二人の雰囲気は優雅ではなく、緊張した面持ちだ。

 三人が席に付くと、所長は二人に向けて話を始めた。


「単刀直入に言う。もう一つのM.O.W.を発見した。処理班として君達を任命する」


「あれって何個もあるんですか?」

「ふうん」


 驚くシュンに対し、ハルは無感動に受け止めていた。


「分からん。だがNAG情報部が、ミェバのM.O.W.起動に呼応した信号をキャッチした。ハッキングを補助し、幾つかの事象に関与していることも確認している。突き止めた結果、ある都市の地下にM.O.W.と同等の装置が存在するとの結論に至った」


 所長は顔色一つ変えず、冷静だった。


「場所は?」

「フォーチュン市。”City of Unicon”、といえば分かるな?」

「へえ、そうなんだ」

「は、はい」


 シュンも、名前だけは知っている。

 3Dプロジェクター上に、地図が浮かび出された。


 フォーチュン市はアメリ連合国(C.S.A.)のダレズ郊外にあり、ユニコン発祥の地として有名だ。元はテキソスに作られた金融施設を集約した人工都市で、一時期は世界中の富が集中し、仮想通貨も為替も株も全てここが支配していた。


 その街から、お金が消えた。正確にはまず二十万ドルのベーシックインカムに移行し、やがて取引を個人の能力や信頼に依存する制度を開始した。個人全てをモニターする装置として発明されたのがユニバーサルコントローラー、略して『ユニコン』だ。


 つまりユニコンへの入力データを元に、AI『ジョージ』が個々の購買力の範囲を定める仕組みだ。この制度は成功し、人々の生活は相応になり犯罪が消え、そして政治家もいなくなった。現在の人本位制度取引に繋がっているので、非常に有名な都市だ。

 

「侵入手段には、これを使う」


 チェスター所長がモニターに映し出したのは、雲だった。


「雲ですか?」


 シュンは雲の世界を思い出した。まさか、本当に乗れる雲があるのか。


「いや、これは雲に偽装した飛行装置だ。通称《舞いクラゲ》。元々は無重力状態での作業訓練用に作られたのだが、今回の為に改装してある。土台に飛行装置が付けられ、周辺にステレス物質を噴霧し、雲状にしている。アメリ連合国への不法入国になるから、完璧なステルス機能を持つこれが最適なんだ」


 流暢な説明だが、今から自分達が不法入国をさせられることを知って不安になるシュンだった。横にいるハルを思わず見たが、彼女は何とも思っていない。何時もの事なのだろうか。


「で、具体的な場所は?」

「恐らくここだ」


 3Dホログラムに映し出された箇所は、街の真ん中にある湖の一つだった。


「この地下にM.O.W.がある。そして制作者は、ロード・ミーハ。星の子供達(スターチルドレン)の一人だ」


 サイトー先生が言った。


「昔の顔写真は、これだよ」


「え、これは?」


 シュンは驚いた。


「そう。君のクラスメイトである如月ユージは、彼のクローンだったんだ」

「道理で、審査に引っかかった訳ね」


 シュンは驚くだけだが、冷静なハルは、合点が言ったようだ。

 モニターに映し出された顔は、確かに、ユージと瓜二つである。


「その後、彼はどうなったんですか?」


 廃坑を思い出し、シュンは聞いた。


「残念ながら、行方不明だ」


「彼のご両親はこのことを?」


「当然、血は繋がっていないから知っていただろう。ただ、くれぐれも注意して欲しい。彼はノアとキリシアと一緒に惑星プロキシマbに降り立った三人のうちの一人で、非常に優秀だ」

「全員は降りてないんですか?」

「上空からのオペレーター役や、何かあった時の保険が必要だったからね。でも気をつけて。情報によると、当時の彼とは違うようだ」


「潜入したとして、どうすれば良いの? 今度は叩き壊すの?」


 ハルは物騒な事しか考えない。


「いや、プログラムを入れ替えたい。NAG情報部が作成した書き換えプログラムが、ここにある」


 そう言われ、二人に小さな発信装置が手渡された。


「これは?」

「今までのデータから類推される、書き換えプログラムを内蔵した装置だ。君達がM.O.W.にアクセスすれば、つながる筈だ」


「ふーん。で、何時から?」

「本日の夜」

「そんなにすぐ!?」


 ハルは驚いてキレかける。

 流石の彼女も、そこまでは想定していなかったらしい。


「すまない。今日は天気が曇りでちょうど良いし、この機体では上陸まで二、三週間かかる。一刻も早い任務遂行が必要なんだ」

「そんなの、そっちの都合でしょ!」

「まあそうだけど、そこを何とか……」


 チェスター所長とサイトー先生は、何とかハルを宥めすかしてお願いしていた。


「行こうよ」


 シュンはポジティブに言った。任務遂行は絶対だ。ハルもそれは承知の上で、キレたようだ。文句を言いたいだけで、結局はやるのだろう。


「そうだね、何時ものことか」

「すまない。消灯後こっそり寮を出て、ここに来てくれ。NAGAFへの迎えをよこしておく。関係者を疑う訳では無いが、念には念を入れていきたい」


 次のチーム訓練は欠席か。ターニャとワクバに申し訳なく思うシュンだった。

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