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第45話 パロマー理論

「どういう意味ですか?」


「あの惑星も、地球と似た運命を辿ったんだ。一個体ではヒエラルキーの下位でしかない生物が集団の力で文明を創り、覇権をとった。そしてお互い殺し合い、惑星の資源や環境が破壊し尽くされた時代もあった。ノア達が惑星で発見した、地中に埋もれた遺跡や遺品の数々が、それを証明していた。絶滅した彼等はたくさんの記録を残していて、僕らはそれも確認した。つまり僕達人間のような文明を作りバカな事もやって頂点に達し、そして滅んだ。生命の原罪かな。<パロマー理論>を、聞いたことあるかい?」


「いえ」


「パロマー博士が提唱した進化様式でね。覇権生物内でも数段階の分岐が起こるんだ。そして最終的に進化した極少数の覇権生物が、全てを支配するんだって。つまり人間の中でも、少数の人間が更なる段階に進化する、と言う理屈。当然その学説は異端と呼ばれ、追放されたらしいけどね」


「初めて聞きました」


「まあ当たり前だよね、それ言ったら色んな事が成り立たないから。でも強ち噓とも言えない。実際その星も、理論通りに進み、極少数の覇権生物が支配した。そして彼等は生命の最終形態を残して滅びた」


「素子体ですか?」


「そう。キリシアから聞いたんだね。あれは究極の科学と芸術の結晶だ。この事実に対する受け取り方は、様々だった。地球への帰還過程で、今後どうするか個々の考えを話し合った。やはり個性的な仲間だからね、皆違う意見だったな。それで最終的に、今後は各自の判断に委ねるべき、との結論に至った。連絡も取り合わなかったから、誰が何処にいるかも分からずじまいさ」


「何故先生は、NAGSSに戻って来たんですか?」


「そうだね……単に懐かしいのもあるけれど、手助けをしたくなった、からかな。生意気かもしれないけれど、僕達は二百年ほど前の地球を知り、未来の地球の姿も知っている。だったら僕たちの誰かが教育係になるべきと、思わないかい? 自分達の経験を誰かに伝えなければ、あの航行は無駄になる。偶々その役割が、僕だったのだと思う」


「確かに、先生が適任だと思います」


 キリシアや、話を聞く限りノアも、サイトー先生みたいな教え上手じゃない事は、何となく分かった。


「ありがとう。知っての通り、当時と同規模の宇宙船が月で建造中だ。僕が出来る事は少ないけれど、君達に何か与えられるとは思っているよ」


 何時もの口調で話すサイトー先生は、優しかった。


「今日は、これくらいにしておこう。また話を聞く時があると思うが、宜しく頼むよ、シュン君」


 話を聞き終えるとハント将軍はそう言って、席を立った。

 シュンも退室し、帰った。



 坂を下りても寮に戻らず、少し辺りを散歩した。昨日通った駅までの道を一人で歩いてみる。一度歩けば、その町もミェバと同じようにシュンの中で馴染み始めた。


 冬空は青く爽やかで街並みも穏やかな、休日のひとときだ。公園では幼い子供達が、ボールを蹴って遊んでいる。シュンはベンチに座りのんびりした。ここから眺めるNAGSSは古代の古墳みたいな大きな山のようで、林に隠れ建物は見えない。



 夜は仲間達と、寮のカフェテリアで食事をとった。

 あの後、四人は一般人を誘導しつつ、爆発現場にも直行したらしい。


「特殊部隊が拘束を試みた二人は自爆して、その腕にはノイエの刻印があったって。あと防犯カメラに写っていた残りの逃亡者二人は、直ぐに捕獲されたみたい」


「怪我人達の応急処置にも追われて、シュンを探すのに手間取ったの。ごめんね」

「いいよいいよ、ありがとう」


「それよりあの時のハル、凄かったのよ!」

「やめてよー」


 カトリーヌの言葉に、ハルは戸惑い、少し迷惑そうな顔をした。


「だってシュンがいないと分かると、凄い剣幕で無線でNAGAFの大将に連絡したの。ユニコンを追跡させて海にいると知ったら、ヘリも直ぐに要求したし。んでコンサート会場上空にヘリが来て、直ぐに乗り込んでいったのよ。カネンス達もびっくり!もちろん、待ってる間も負傷者の介護をちゃんとやってたけどね」


「ち、ちょっと……」


 ハルはシュンに聞かれたく無かったらしく、カトリーヌに怒っていた。


「ごめん、ありがとう」


 シュンは改めてハルに感謝した。


「まあ終わったことだし」


 ハルは、少し恥ずかしそうだった。


 その後は別の話で盛り上がったが、シュンはふと、彼らとの百年間の旅を想像した。


 今はこうして楽しいが、完璧な閉鎖空間の中で同じように仲良くやれるだろうか。


 彼らは良い奴だ。それは分かる。だけどお互いの心の中までは、深く踏み込まない。自分にも、踏み込んで欲しく無い領域があるから、それは当然尊重すべきことだ。


 だが誰でも普段と違う自分がいる。シュンにも、当然そんな部分がある。そんな普段は見せない部分を出し合っても、仲良くやっていけるものだろうか? 何か問題があった時、お互いをカバーし合う事は出来るのだろうか?


 未だ宇宙をさまよう十四のメンバー達の結末を思うと、複雑な胸中であった。



 翌日からは、通常授業にもどる。

 午前は化学のイリヤ先生に、超金属の精製法と性質の実験を習った。

 純金属と0.05%の不純物が混じった金属の形状の違いは、興味深かった。

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