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第44話 サイトー先生も語る

「バカシュン!!! あんな所で、あんた何やってたの!!!」


 廃ビル屋上に居たシュンは、レスキュー隊に救助されヘリコプターに乗り込んだ。やっと一息つけると思ったが、そこにはハルがいた。ローター音より大きな声で罵倒するハルの勢いに、危うくまた外に放り出されそうになる。


「ごめん」

「ほんと、心配したんだから!」

「まあまあ」


 同席する迷彩服を着たNAGAFの人達からなだめられ、ハルも少し落ち着いた。ただウサギ耳の帽子もなくし泥で汚れた服で涙ぐむハルを見て、シュンは申し訳なく思った。


「確認だけど、新未シュン君だね」

「はい」

「虹彩認証するから、こっち見て。うん、確認終了。体調はどう?」

「特に大丈夫です」

「脈拍も正常、他に異常なし、と。じゃあ戻ろうか」


 ヘリコプターは旋回してNAGSSへと向かった。隣に座るハルの怒りは未だ収まって無い。だがその様子もどこか懐かしく、ほっとしたシュンだった。


 校庭に着陸すると、待機していたクラスのみんなと先生達が現れてシュンを出迎えた。


「見失って、すまん」


 コウは開口一番すまなそうに謝ったので、「大丈夫だよ」とシュンは返した。皆は嬉しそうだが、何よりも疲れたので、シュンは内心寮に早く帰ってゆっくり休みたかった。


「シュン、チェスター所長が呼んでるって」


 カトリーヌに言われたので、節々の痛みとふらつく足元に耐えて、校長室へ向かう。二、三時間小舟でずっと揺られ、更にヘリコプターだったせいもあり、まだフラフラする。何とか校長室まで辿り着き、ノックした。


「失礼します、新未です」

「ああ、どうぞ」


 部屋に入ると、チェスター所長がいる机の手前にサイトー先生もいた。


「気分はどうかな」

「船酔いが少し残っていますが、大丈夫です」

「そうか、今日は災難だったね。ゆっくり休んで。あと明日の午前に少し話合いしたいけど、良いかな? お疲れなところ済まないけれど、ここの一階奥の応接間まで、来て欲しいんだ」

「あ、はい」


 何を話すのか分からないが、とりあえず了承する。

 少し朦朧としつつ寮へ辿り着くと、着替えもそこそこに、爆睡した。


*   *   *   *   *


 翌日、疲れ気味な日曜にも関わらず、シュンは一人で坂を上って登校した。言われた通り、正面玄関一階右奥の部屋へ向かう。応接室らしく初めて入る部屋だ。


「失礼します」

「うむ」


 扉を開けると、中にはビショップ博士の写真が真っ正面に大きく飾られていた。キリシアの言葉を思い出し、シュンは今までとは違う心情で見ていた。


「席に着きたまえ」


 促されて目の前を見ると、所長とサイトー先生に加え軍服姿の老人が座っている。胸に付けられた勲章の数から、中将以上らしい。


「NAGAF参謀本部総司令のハント将軍だ」

「は、はじめまして! 新未シュンです!」


 いきなり大物の登場で、シュンは声がうわずり直立不動で敬礼した。


 ハント将軍はあの暗黒の一週間(ブラック・ウィーク)でのNAG責任者で、有名人だ。誰でも名前を知っている。写真も見た記憶があるけれど、ここまでの人物が来るとはシュンは予想していなかった。


「まあ、良い。気楽にいこう」


 まるで孫を相手するように、百戦錬磨の将軍はにこやかに話しかける。その態度にシュンも少し和らいだ。


「あ、ありがとうございます」


 シュンはまだ恐縮しつつも、席に着く。近くにNAGAF飛行基地があるから軍は身近だが、直接話をする機会は殆どない。ミェバの自治隊とは違う威厳ある雰囲気で、やはり緊張する。


「それで、だ。単刀直入に聞こう。君が会ったのはこの娘だね?」


 四人が対面する机の上に置かれた3Dモニターに、キリシアと同じ女性が映し出された。


「はい、そうです」

「名前は?」

「キリシアと名乗っていました」

「どんな経緯で彼女と行動を共に?」

「コンサート会場でチラシを配っていて、受け取ったら声をかけられました。それで話をしていると、爆発が起きて……倒れた自分を助けてもらい、地下に続くトンネルへと連れて行かれました」

「大体この辺りかな」


 今度は、先生がモニターに表示された地図上の道路に赤線を引き、シュンに確認した。赤線に対応する箇所の立体映像が映し出されると、シュンが見た風景と同じだった。


「はい、場所に間違いありません」

「それから?」

「地下に降りて警官と会った時、彼女は急に閃光弾を投げつけ逃げ、一緒について行きました。こちらの問題もありますが、選択肢はそれしかありませんでした、すいません。それでトンネルから抜けると橋の上に出て、舟に乗ってトキュ湾まで辿り着きました」

「謝る事は無いよ。それはこの道路だね。ここが地上に出るトンネルだから、直進したのかな」

「そうだと思います」

「彼女とは、どんな話をした?」


 老将は優しい語り口だが、有無を言わせぬ迫力も兼ね備えている。


 シュンは出来るだけ覚えている内容を二人に伝えた。特にキリシアが星の子供達(スターチルドレン)の一人だと言う点が、何度も確認された。フネイルの件も伝えたが、ミェバの警官とは違って、三人とも驚かなかった。


「そうか、生きていたのか」


 所長とサイトー先生は、懐かしそうに呟いた。


「シュン君、実は僕も、星の子供達(スターチルドレン)の一人なんだ」

「え、そうなんですか」


 サイトー先生の独白が突然すぎて、シュンは二の句が継げなかった。


「つまり僕も彼女、キリシアや沙槝場ノア達と一緒に、プロキシマbへ行ったんだ。彼女、今は少し整形もして、生体認証を誤魔化しているようだけどね」


「キリシアはテロ組織ノイエのリーダーで、あの爆発も既に犯行声明を確認済みだ。普段は偽名を使っているが、君には普通に接したのだな。しかも、()()とも接触したとはね」


 ハント将軍は、シュンを感心するように見ていた。


「?」

「フネイルだよ。あれも、君が鉱山地下のダム湖で見た物と同様、惑星由来の生命体(クリーチャー)だ。さっきの話通り、あれを生物と呼ぶのなら、だけど」


 サイトー先生は何かを懐かしむような顔で、話を続けた。 


「彼女から聞いたと思うけど、地球に帰るまで、僕たちは一蓮托生の運命共同体だった。細い綱で、千メートル上空を綱渡りするように、些細なミスが全滅になる状況の連続だ。ノアが全て、片をつけてくれた。彼がいなければ、他のグループと同様の運命だったろう」


「そうらしいですね、キリシアさんも同じことを言ってました」


「ただそれも、やり遂げたらそこで解散。百五十年も鋼のように固く結ばれた絆も、大気圏突入時点で胡散霧消、点でバラバラ。嫌いでいがみ合っていた訳じゃない。皆で決めて、フォルトナの大気圏突入中に、各自脱出した。ここに戻って来たとき、チェスター所長からは怒られたよ。責任者だったので、NAGからかなり叱責を受けたって。でも僕達は、地球に帰ってから客寄せパンダになりたくなかったからね」


 そういってサイトー先生はチェスター所長を見やったが、彼は苦笑いするだけだった。今はそれほどわだかまりが無いようだ。

 

「それにもう一つ。僕たちはあの惑星で、人類の未来を見た」

読んでいただき本当にありがとうございます。ちなみにサイトー先生のいう脱出シーンはプロローグにさりげなく出てます。

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