表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/81

第31話 スターチルドレン

「殉教者ね」


「冒険にリスクはつきものだ。質素な船で無謀にも大海へ漕ぎ出した我々祖先と、同じだよ。それに勝ち残ったから、ホモサピエンスは世界を制覇した。誰かが行かねば始まらない」


 久永ケイゾーの声は、冷静だった。


「当時の閉塞感もあり、有史始まって以来、初めて全世界が協力する一大プロジェクトとなった。希望が欲しかったのだよ。皆が夢見る物語を。NAGも未だ加盟国が少なく、力を誇示する為に多少無理をしたようだ。厳しい訓練に耐えた子供達は、盛大に見送られた。だが何時帰って来るのか、どんな結果になるのか、発案者すら分からなかった。宇宙船は常時通信信号を発信して、位置情報やその他の解析データが地球へ送られた。画像や動画から、彼らの様子が手に取るように分かったよ」


 実際に見たことがあるらしく、久永ケイゾーは遠い目をしていた。


「初めてヘリオポーズを抜け太陽圏を脱出したときや、重力波乗り(グラビティ•サーフ)のさなか事象の地平に最接近したときの様子、どれも感動的で、一般公開されないのが残念だ。だがそれも、二十年、三十年経つたびに途切れ途切れになり、やがて途絶えた。送受信を生業とした親子三代の一家もいる。各部隊のデータを大切に保管しているよ。皆訓練通り,良くやっていた。だが想定外のトラブル、原因不明の現象は避けられなかった。当時の記録映像を見る度、胸が締め付けられる。残念ながら我々は全知全能の神では無い。でも失敗だけではない。誇るべき成果も出た。つまり、」


「帰って来たのね」

「いかにも。よくご存知で」

「これも任務ですから」


 ここにいるメンバーもハルも、お互いを理解しているようだ。知らぬはシュンだけらしい。軽い混乱を覚えながら、シュンは話の内容を飲み込むべく勤めた。


「新未君には不便をかけるが、私達の組織も縦割りでね、横同士の繋がりは無いのだ」

「そう。だから維持出来るのよ」

「話も続けて良いかな」

「ええ」


「今から十五年前、星の子供達(スターチルドレン)が乗る宇宙船フォルトナが、地球に着水した。本来なら一大ニュースだ。地球中で祝福されただろう。だが報道機関はシャットアウトされ、超極秘事項となった。その後、彼らの行方はようとして知れない。そもそも何人戻って来たかも不明だ。ただ、そのうちの一人が此処ミェバに来た」


「それが、沙槝場ノアね」


 ハルは何でも知っている。


「そうだ。ユージ君から聞いていると思うが、彼がM.O.W.の開発者だ。この中学校きっての天才と言われ伝説と化したが、彼は星からの帰還後に入学したのだ。誰も敵わないのは当然だろう」


「つまり帰って来たとき、見た目は未だ中学生だったんですか?」


 思わずシュンが質問した。


「そうだ。我々の予想以上に子供達の成長は留め置かれたらしい。もっとも、他の子供達も彼と同じかは分からないがね。私は彼の担任だったよ」


「え、そうなんですか?」


 思いがけない二人の関係に、シュンは驚いた。そんな伝説の学生と用務員のおじさんが知り合っていたなんて、不思議な感じだ。


「あの頃は自分もカノニカルと関係無く、単なる一教師で職務を全うしていた。教師も親からの薦めで選んだ職だが、意外に悪く無い。面倒事は多いが、人の成長に立ち会えるのは感動の連続だよ。今まさに君達を見るように。しかしあの子は、明らかに並の子供じゃなかった。天賦の才を間近に見られる幸運など、そうそうない。教師冥利に尽きると言うものだ。だが恵まれた才は狂気をも孕む」


 一息ついて、久永ケイゾーは先を急いだ。


「あのM.O.W.発動時も、我々には何が起きたのか全く知らなかった。自然災害かと間違えていたくらいだ。星の子供達(スターチルドレン)なんて言葉も、彼がいなくなる間際に初めて聞いた。暗黒の一週間(ブラック・ウィーク)から一ヶ月後にNAG情報部が突如現れ、それで事の顛末を知った。我々は驚く他なかった。イェドの混乱の元が此処にあるとは思わなかったからな。とにかく彼は中学生としてこの地を過ごし、M.O.W.を作って歴史を書き換えた。そして今、再びM.O.W.が発動し、歴史が変わろうとしている」


「どう変わるんですか?」


 シュンの質問に、久永ケイゾーは苦笑いした。


「それが分かれば苦労はしない。暗黒の一週間(ブラック•ウィーク)が起き、多数の命が奪われた。だがその後10年経って新たな技術も生まれ、より強固な安定がもたらされたのも事実だ。もっとも、M.O.W.が発動しなかった場合と比較出来ないから、確かめる術は無いがね」

「そうですか……」


 煮え切らない答えが、シュンを一層不安にさせた。


「そしてもう一つの問題だ。君達も、あの生き物達を見ただろう? 手足が10本あったり、凡そ地球の生物とは思えない化け物を。あのクリーチャーは、フォルトナと一緒に来た地球外生命体だ」


 そう言ってケイゾーは何かを操作すると、円卓の中央にホログラムが現れた。


「現在、確認されているだけで五種いる」


「これは何なの?」


 ハルが聞く。


「君達の組織が知らないのか。君に教えてないのは、私にも分からんよ。特に最近は活動が活発だ。活動期に入ったのかも知れん。とにかく我々はこのデータしか知らされておらず、何もかも未知だ。ただ確実な事実は一つだけある。人類よりも優秀だ。恐らくまともに闘うと勝ち目は無い」


「でも僕たちは」


「そうだ。幻影銃(イメージガン)で撃退できる。あれはNAGの支給品だが、限られた脳波を持つ人間しか扱えないのだ。だから君達は選ばれたのだよ」


 ケイゾーは、一呼吸の間を入れた。


「それで、だ。君達にお願いがある。というか、シュン君の方かな。ハルさんは、既に答えが出ているのだろう?」

「ええ」

「何ですか?」


「イェドに行ってもらいたい。正確には、ある学校で訓練を受けて欲しい。それが最善だ」


 シュンは驚いた。


「あの、僕は高校受験があるのですけど」

「もう進路は決まっている」

「はい、白蘭商業高校を第一志望に」

「そうか。今から君が入るのも学校だ。NAGSSと言う」


「NAGSSって、NAGと何か関係あるんですか?」


「NAG直轄の宇宙学校、『NAG Space School』の略だ。そこでは18歳までに博士レベルの教育を修了する。既に入学手続きは済んでいるよ」

「はあ」


 シュンは突然の指令に戸惑っていた。


「やっぱり僕、皆と一緒の学校に行きたいです」


「運命だ」


 橘先生が諭すように言う。


「そうとしか言えない」


「シュン、往生際が悪いわよ」


 ハルは気にしてないようだ。もともと転校生だからか。


 けれどもシュンは、この街から離れるのが嫌だった。

 そもそも急に大人からそんなことを命じられても、実感が湧かない。


「まあどっちにしても私は転校する予定だったし、少し早まっただけ。で、何時から?」


「今から。もう既に車も用意してある」

「あらあら、着替えも沢山持っていきたいのに」

「後日送るよ。安心したまえ」


「え、じゃあお別れの挨拶は?」


 急な展開にシュンは驚き、思わず叫ぶ。


「皆には私から伝えておく。安心しろ」


 橘先生の言葉は優しくも冷たかった。


「人生とはそういうものだ」


 用務員のおじさんであった久永ケイゾーは、悟った眼で呟いた。


「この旅が希望を生むか絶望になるかは、神のみぞ知るだ。だが君は成長するだろう。生き延びたまえ。幸運を祈る」

 読んでいただき本当にありがとうございます。今回の会話中に、プロローグの出来事が入っています。


 次話からはイェドに舞台を移し、シュンとハルの冒険が始まります。

 妄想も色々書きますが、気楽に読んでいただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ