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第26話 ユージの場合

「まだまだぁ!」


 ユージは幻影銃(イメージ•ガン)を撃ち放ち、襲いかかるクリーチャー達を次々と始末した。


 トロッコは、ガタガタと大きな音をたて、転がるように急激な坂を駆け下りる。

 だがクリーチャー達の動きも敏捷で、その腕がトロッコの端を捉えるから時折危うい状況に陥る。


(この下り坂の終わったあとが、問題ですね)


 カノニカルから、予めマップは入手している。しかし一部は不正確だ。

 特に此処から肝心の出口までは空白部分だった。何があるのか分からない。


 突然、坑道全体が白く輝き始めた。


(これは!? M.O.W.の完全起動?)


 確かに、二人のトロッコが行き着く先には水力発電所がある。

 無事たどり着き主電源をオンにすれば、完全な再起動も可能だ。


 しかし線路は途中で切断され水没箇所もあるから、トロッコを使うだけでは到達不可能とされていた。更に主電源は、NAGが設定のパスワードロック付き。これはカノニカルにも知らされていない。


 なのでユージは、最初からこちらのトロッコに乗り込むつもりであった。今回はあくまでM.O.W.との顔見せだ。完全起動は久永ケイゾーも望んでいない。


(やりますね)


 二人を甘く見ていた自分を、ユージは恥じた。


 幼少の頃から圧倒的才能を見せつけ、大人達からさえ一目置かれるのが当然だったユージにとり、同世代はモブキャラだ。しかし今まで全く評価対象外だったシュンがここまでやるとは、新鮮な驚きである。


(櫻菜さんのおかげですね……)


 彼女は異質だ。自分と同タイプだと転校当日に直ぐ分かった。

 カノニカルの一員かと探りを入れたが、軽くかわされている。


 自分が話しかけたにも関わらず、歯牙にもかけない扱いを受けたのも初めてだ。でも彼女単独ではユージの活動度(アクティビティ)に及ばないのも、事実であった。


 それなのに疑似体装置(パペット•システム)のデータ解析結果では、二人は特定条件下の時に驚愕の値を示す。特に新未シュンの活動度(アクティビティ)の伸びしろは未だ分からない。


 単独で何でも出来るユージにとって、二人の相乗効果は理解の範疇を超えていた。


(最後の障壁は、意外に高いかな)


 先日のカノニカル会議から、NAGSS推薦の通達は受けている。

 これをクリアすれば、ユージの進路が決まる。


 NAGSSは、ユージが何としても行きたい進路だった。

 ユージは伝説の中学生、沙槝場ノアに憧れていた。

 彼のように、自分も星の子供達(スターチルドレン)になりたい。


 ただそれは宇宙に飛び立ちたい好奇心よりも、優秀さを誇示したい自己顕示欲であった。

 事実、星の子供達(スターチルドレン)計画の再開は聞かない。

 4.2光年先の惑星に旅立つのは難事業だ。行けるとは思わない。


 一刻も早くミェバを出て、もっと大きな事をしたい。カノニカルにも、ユージはうんざりしていた。小さい街で威張っても、外に出たら意味がない。世界は広い。自分なら何でも出来るはずだ。


 シャー!!


 更に一体が、俊敏な動きでトロッコに襲いかかって来た。

 進行方向の逆を向き、ユージはクリーチャーに一撃を放つ。


 青白い光はクリーチャーの腹を打ち抜く筈だったが、素早い動きでかわされた。諦めずに第二波を放つものの、外れる。


 クリーチャーも不用意にユージに近づかず、一進一退の攻防が続く。


 ガタガタガタと、揺れの感覚が変わった。遠くに薄明かりが見える。


(橋ですか)


 もう少しで出口のようだ。ユージが安堵しかけたその時、


 ガタン!


 小石でもあったのか突如トロッコが脱線し、ユージは宙に放り出された。


 (え!!)


 重力に抗えず闇の中へ真っ逆さまに落ちゆくユージが最後に見たのは、醜悪なクリーチャーの笑顔だった。



*   *   *   *   *



「先生、早く!」


 シュン達が落ちた廃坑の入り口を目指し、ユキは必死に走っていた。


 ミェバで中学女子一位の脚力だから、並の大人は追いつけない。

 中年太りの大久保が彼女にかなうはずもなく、息が上がり今にも倒れそうだ。

 こちらも救急車が必要かもしれない。


「待ってくれ〜」


 日頃の不摂生を怨むものの、こんな問題が起きるとは想定外だった。やっと改築許可が下りたマイホームの為にも、ユキとは別の意味で必死である。


「秋野さんの本気、僕も初めて見ました」


 体育教師の樺島は30代前半でサッカー部出身なので、この程度ではへこたれない。だが本気を出したユキの脚力に改めて驚き、是非高校では吹奏楽より陸上をして欲しいと願った。


 そんな二人の思惑をよそに、ユキはカモシカのように軽やかに駆け上がる。



(ホントにもう、あいつはいつも愚図なんだから)


 ユキは必死に走りながら、シュンとの昔を思い出していた。野山で遊んでいた頃も、あいつだけ取り残されたり、用水路にハマったりしていた。その都度ユキが助けに行くのが常だった。


 (自分がいなきゃ、駄目なんだな)


 男勝りの性格に思われるが母性本能も強いユキにとって、シュンは放っておけない存在だ。小さい頃から、色んな場面で助け舟を出して来た。好き嫌いより、弟みたいな感覚である。


 (ああ、もう!)


 (もう少しで、あのトンネルの入り口に着く。そこからは、あとちょっとだ。待ってろ!)


 しっかりとした足取りで駆け抜けるユキだったが、突然足元がスポンジのように歪み、急に転倒した。


 (何?)


 幸い柔らかい土だから怪我はないものの、何が起きたのかユキは瞬時に理解出来なかった。体勢を立て直そうと起き上がり始めた矢先、再度立ち上がれないほどの激震がユキを襲った。


 地震だ。


「うわ! これ大きいぞ!!」

「秋野、大丈夫か?」


 流石のユキも伏せるしかなかった。辺りの樹木が擦りあう音や飛び立つ鳥達の鳴き声がする中、大地は容赦なく震え響いた。ガラガラガラと、大きな煉瓦が崩れる音がする。


 (はっ)


 嫌な予感がして前方を見ると、無情にもトンネル入り口が土砂で塞がれてしまった。


 (早く行かなきゃ)


 気持ちだけが焦る。しかしこの揺れでは流石のユキもバランスを保てない。揺れが漸く終わり、しばしの静寂が戻った。だが三人は、目的地に向かうはずの入り口の前で立ちすくむしか無かった。


「どうしますかね」

「警察呼ぶしか無いでしょう」


 先生達には、手詰まりだ。だがこれだけの大地震だったら街も大騒ぎだろう。こっちまで手がまわるとは思えない。トンネルの向こうがどうなってるのか、確かめる術は無い。鉄塔がさっきよりも更に大きく傾いている。余震もあるから、一刻も早くここを離れるのが賢明だろう。


「シュン……」


 不安が募るものの、この瓦礫に埋もれた入り口ではどうしようもない。

 ふと辺りを見渡すと、山頂には、天まで届く高い光の柱が立ち上っていた。

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