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第25話 再起動

 ハルは流れの先を見ている。

 

 半信半疑のシュンだが、状況も変わらないので恐る恐る命綱の木の根を離した。

 再びトロッコは深い水音をたてて、近づきかけた岸から離れていった。


「ほら、あれ見て」


 ハルが言うからシュンも首を出して、前を照らした。

 そこには黒く高い壁がそびえていた。滝の音は、この壁の真ん中から聞こえる。


「ダムなのよ、ここ」


 やがて流れもゆったりとした淀みに落ち着き、トロッコは池の中に浮かんだ。

 幸いダムの壁面までたどり着く。でも高い壁をよじ上るのは不可能だった。


 二人で何とか壁伝いに船を岸辺の方へと動かし、めでたく再上陸となる。


「ふぅ〜」


 揺れない足元がこんなに快適とは知らなかった。

 遠洋漁業から帰って来た漁師達も、同じ気持ちなのかも知れない。

 少し休んだ後、脱出を目指し二人は先を急いだ。


 ここはどうも、地底湖を使った発電所らしい。聞いたこともない。

 あの装置(M.O.W.)の為に作られたのだろうか。


「見て」


 ハルが指差す先には階段があり、下りて行くと扉があった。


「中に入れるわ。もしかすると電源装置があるかも。そうすれば……」

「そうすれば?」

「電気がついて採掘装置か何かが動いたら、外に出られるでしょ!」

「確かに!」


 扉はギシギシと歪んだ音を立てながら開き、二人は慎重に中へと入った。


「かなり古いわね」

「そうだね」



 その電源室は明らかに、しばらく誰も入った形跡がなかった。どこもかしこも埃まみれ、足元もぬるっとしていてあちこちに蜘蛛の巣がかかっている。机の上にはパソコンがあったが、使えるかは分からない。


 いかにも電源室らしく、多数のスイッチやレバーがある。工場での機械操作は中学2年時に実地研修を受けたものの、パネルが違い過ぎて役立ちそうにない。


 だがここの電源が点けば鉱山内部が明るくなり、脱出口も分かるかも知れない。とにかく二人とも闇雲にボタンを押して、生きている箇所を調べまくった。


「あ、これじゃない?」


 ハルが指差す先には、赤く大きなボタンがあった。確かにそれっぽい。シュンが何か言う間もなく、「じゃあ押すわよ」と、さっさとハルはボタンを押した。


 し————ん


 何も起きない。二人は肩すかしを食らった。

 他にも何か無いかと調べる二人は、奥の方に配電盤を見つけた。


「あ、こっちが最初なのかも」


 ハルはそう言いながらカバーを開けると、大きなレバーを見つけた。


「じゃあ、やるね」


 ここも間髪入れずに、ハルは思いっきりレバーを下に引いた。


「あ、ついた!」


 パソコンのモニターが点灯し、起動が始まった。


 だが《パスワードを入力して下さい》との表示に、二人は顔を見合わせる。

 そんなの、知るわけがない。


「何だろう? パスワードって」


 シュンは考えあぐむ。一方ハルは、机の周りをガサゴソと探し始めた。


「何やってるの?」

「こう言うのって大抵は近場にヒントがあるのよ……ほら!」

 

 とハルが自慢げに見せたのは、なにやら紙に書かれた文字列だ。


「何それ?」


 シュンの目には、デタラメな文字と数の羅列にしか見えなかった。


「どれどれ……なーんだ、ヴィジュネル式じゃん! こんなの簡単だ〜」


 バッグからペンを取り出し何やら書き込むこと数分、「はいはい、こうこう」とハルはキーボードを叩き始めた。本当にあっけなく解いたようだ。するとモニターは次の画面に変わった。


(凄いな……)


 ハルの能力に、シュンは驚くばかりだった。


“ビ^^^^”


 ゴゴゴゴッ


 大きなブザー音が鳴り響き、大きな石が動くような音がし始めた。

 室内も明かりが灯る。


「やったわ!」


 成功した感激で、ハルはシュンに抱きついた。でもシュンは抱き返せずに、そっと離れた。だが少し間があってモニターに表示された内容は、二人の期待を裏切るものだった。


『裏パスワードが認識されました。トラップを作動します』


(え?)


 ゴゴゴッーーガガガガ!!!


 事態が好転した訳では無い事を二人は悟った。今思えばもう少し慎重に行動すれば良かったと後悔するシュンだが、終わってしまったのは仕方ない。そもそもどんどん仕事をこなすハルを、シュンが止められるはずも無い。

 


 何かが動く音は止まず、いきなり全体が揺れ始めた。

 予想外の状況に、不安がよぎる。


「何これ?」

「どうしよう?」


 二人は困惑しつつも部屋を出て、脱出経路を探し始めた。だが部屋を出て目に映った風景は、電気が通って明るくなったが壁の一部が削がれたダムと、勢い良く流れ落ちる濁流だった。


(これは本当にまずい)


 シュンはなす術無く、壊れゆくダムの上に立ちすくんだ。


 うわ!


 シュンは足元を滑らせ、宙に舞った。


「シュン!」

 

 背後でハルが叫んだのとシュンが落ちたのは同時であった。


 そしてシュンは、意識を失った。

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