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第20話 クリーチャーがやって来る

「それで彼は、歴史の分岐点を造るため、上書き(オーバーライト)を試みたのです」


「上書き?」

「そう、人類が進む方向を書き直すのです」


 ユージは全てを知っているようだ。


「この量子コンピューターの超解析で世界中のネットワークに入り込み情報を書き換え、人々の心をも操りました。『ジン』をはじめとしたAIの厳重なプロテクトもあっさり外し、ロボットや交通網、医療やエネルギー関係等あらゆるシステムに加え、自然すら操作したと言います」

「そんな事できるの?」


 シュンは半信半疑だ。

 だがユージは努めて冷静に話す。


「はい。その結果、要人の暗殺やテロ、多数の暴動が起きました。AIが頂点に君臨するとは言え、ランクSの人々のスキルは社会をまとめる上で重要です。彼等の損失は、その後の歴史を大きく変えたと言えるでしょう」

「そうだったんだ……」

「それに火山の噴火や超大型台風の異常気象も、疎かには出来ません。事実、イェドの海岸部はおおむね壊滅です。そして最後はイェドでの核爆発、即ち暗黒の一週間(ブラック•ウィーク)でした。一週間続いた、真っ黒な雨や燃え盛る焔と黒煙—— 十年経ちイェドもかなり復興しましたが、不安定な世界は続いています」

「ふうん」


 シュンはユージの話を聞くだけで、精一杯だった。


「何でこんな説明をするのか、分からないって顔ですね。資料室での一件、覚えていますか?」

「え、知ってるの?」

「もちろん。あれも彼の遺物で、M.O.W.起動鍵の一つです。疑似体装置(パペット•システム)というMR(ミックスドリアリティ)装置で、あれを起動できた人間はシュン君が初めてですよ」

「へえ、そうなんだ」


 シュンはどこか他人事だった。そう言われても、あの時は気がついたら雲に乗っていきがかり上イーロとかいう化け物を倒してヤンシャ達を救っただけ。狙って何かをした訳じゃない。


「そう、君はM.O.W.のブレーキを外したのです。皆知っています。それで世界を変えた事も」

「皆って?」

「僕が所属する組織です。じきに分かります」


「そもそも、これを作った人は誰? まだ生きてるの?」

「そうですね……」


 ユージが何か言おうとした時、突然”ブォーンン”という低い音が、M.O.W.から鳴った。真っ暗だったM.O.W.が、ほのかに光っている。中の液体も軽く循環し始めたようだ。


「え?」


(共鳴している?)


 冷静な表情に反し、ユージは内心驚愕した。確かにM.O.W.は、三人の何かに反応したように見える。薄明かりに照らされたM.O.W.内部は、胎児になる前段階の(エンブリオ)みたいな様相をしていた。



 すると近くから、“シャーッ!!”という音がした。


 M.O.W.のおかげで視界が開けた周りの穴に、白い蠢く物体があった。


”ガンガン”と、何かにぶつかる複数の音が共鳴して響き渡る。


「困ったことになりそうですね」


 その余裕ある口ぶりの割に、ユージの目は笑っていなかった。


*   *   *   *   *



 シュンは恐怖と闘いながら、ライトを点けた。


 !!!


 それは見たことのない生物だった。

 色白く白目で、猿みたいな顔をしている。


 だが、四本足に六本の腕がある猿なんて存在しない。

 ライトが眩しいのか、ギェーギェー唸っていた。


 体格も自分達より一回り以上大きい。2m近くある。

 ただ幸運にも柵で仕切られており、こっちには来られない。


 あちこちで動く音がするから、二人はライトをかざす。

 すると似た柵が幾つかあり、いずれにもその化け物がいた。


「情報通りとは言え、実際に目にすると感動ですね。僕たちは【クリーチャー】って呼んでます」


 化物を見ても、ユージは平然としていた。


「地球の生き物なの?」

「詳しくは知りません。ただM.O.W.発見後、出現が報告されました」


 ユージは至って冷静に、カチャカチャとカバンから何かを取り出した。

 手渡された物を見ると、銃だ。意外と軽い。


「二人ともこのレーザー銃を持って下さい。自分の身は自分で守らねばなりません。【幻影銃(イメージガン)】と言いまして、君達の脳波長に応じたレーザーが出ます。まず一度引き金を引けば、君達の脳波を最大限受容出来るように、コンファームされます。次からは引き金を引くと、レーザーが発振されます。シュン君はこの前やってるから、感覚は掴めますよ。どんなレーザーになるかは個人に依存します。つまり、ご自身の想像力次第。じゃ、奥に行きましょう」


 二人は指示通りに引き金を引くと、頭の中を何か通過した感覚に襲われた。そして一瞬にしてその感覚は消える。これがコンファームか。


 緊張で手が震えるが、銃をしっかりと握りしめた。

 手応えは軽く、引き金と言うよりもボタンみたいだ。

 これならゲームと同じ要領で簡単に扱える。


「情報によれば、この何処かに出口に繋がる場所があるそうです。探しましょう」


 (何だ、やっぱり出口を知ってるのか)


 シュンはやや安堵しながら、三人ともヘルメットのライトを点けM.O.W.の周辺を調べた。湿り気も混じり、むっとする空気だ。汗が滲み出てくる。


 ガンガン!


 シャーッ!

 シュ、ギャァァ!!


 化け物の声と柵にぶつかる音がうるさい。

 ハルの存在は、仄かな灯りでしか確認出来ない。


 シュンは慎重に壁を触っていると、突起物の感触があった。


(何だろう?)


 何気なく押した途端、カラカラカラと紐が巻き上がる音がする。

 ご丁寧に電動じゃない。


 ギャギャギャーーー!!!


 それは化け物のいる柵が開く音だった。


「うわっ」

「きゃーーー!!」

「おやおやですね」


 化け物は、三人に容赦なく襲いかかって来た。

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