第17話 鉱山には秘密がある
ユキが連れて来たのは、芝生の広場だった。
他の班も幾つかいて、お昼を食べている。既にボール遊びをして、のんびりしている班もいた。シュン達も適当な場所を見つけて、シートを広げる。
知った顔もいるから合流しても良いのだが、ユージの存在が問題になる。
内心ユージを好きな女子は沢山いるので、こちらを立てればあちらが立たずと非常に面倒なのだ。以前そんなトラブルがあったのはシュンも知っていたので、四人だけの行動にとどめた。
「いただきま〜す」
風も程よく吹いて、日差しも柔らかい。良い天気だ。空には真っ白な雲が、護衛船団のようにゆっくりと形を変えつつ移動している。
「ハルちゃんのお弁当、可愛い〜! 自分で作ったの?」
「うん」
「ホント? すごくない? このウインナーの切れ込みどうやるの? 芸術!」
「櫻菜さん、僕から見ても素晴らしいです」
「ありがとう」
三人が仲良くやっている中、シュンは黙々と食べていた。
櫻菜の家族構成は複雑そうだ。親戚か誰かと一緒に住んでいるのか。
でも高級マンションだし高ランクだから、不自由は無いのだろう。
それにしても……
こうして食べる姿からは、狂おしいほどに猫を可愛がり派手に飛び跳ねる姿を微塵も感じさせない。大人し過ぎて気味が悪いくらいだ。
逆に他の男共からは上品に映るだろう。女子達とも仲良くやっている。
そうなのだが、シュンは違和感を払拭できないでいた。
(双子の姉妹とか、血の繋がった瓜二つの親戚がいるとか、クローン人間で三人目とか。そうじゃなきゃ単なる猫被りか……)
シュンにとっては未だ同一人物と思えず、疑惑はますます深まるばかりである。
!?
櫻菜がシュンの視線に気付き、こちらを見ていた。
シュンは慌てて目をそらす。
櫻菜は、何も言わず残りの二人と仲良くしていた。
「はあ食った食った。レポートの材料も集め終わったし、午後は違うとこに行こうよ!」
「そうだな」
シュンはもう少し博物館を見たいけれど、ユキが言うなら従うほかない。
「あの辺に行きませんか? 昔あった鉱山の入り口があるそうですよ」
ユージの言う通り、少し離れた場所に『鉱山入り口跡』と書かれた標識があった。さっきの博物館見学で興味があったし、特に反対意見もなく四人は先へ進んだ。
* * * * *
ところが旧鉱山の入り口までの道は、予想外に細く長く険しかった。ここまで来る人も少ないのか、ところどころ薮で道が塞がれている。ほぼ獣道だ。もっと暑くなるとスズメバチやマムシが出そうで、少し怖い。
「ホントにこっちなの〜?」
珍しくユキが文句を言い始めた。
「すいません、大丈夫です」
すまなさそうに言うユージに、ユキは「そう」と言うだけで素直について行く。道はとても細く時折崖に沿っているから、今から戻るのも危険がある。
シュンは、トメ吉が発見した当時と同じ道を歩いているのかと思うとワクワクした。同じ景色を共有しているかも知れない。
だがシュンの期待を裏切るかのように、あるのは廃れた近代的なケーブルカーや鉄塔だけで時代が違う。少しがっかりしたシュンであった。
「ここです」
そう言うユージの前には、暗く細いトンネルが伸びていた。
先は見えない。
ユージの背で、ギリギリ通れるくらいの狭さだ。入り口は太い蔦が幾重にも垂れ下がり、初夏の昼間でもひんやりとする。近くの谷からサラサラと川の流れる音も聞こえた。
「ちょっと怖いね」
ユキが普段とは打って変わり、怯えた顔をしていた。
「もしかして、苦手?」
「ちょ、そんなんじゃないわよ! ハルちゃん行く?」
「如月さんが行くなら」
「勿論行きますよ」
そう言って、ユージは先頭に立って歩いて行った。
「ちょっとシュン、一番後ろで見てて。絶対よ!」
ユキに促され、シュンはしんがりを務めた。ユージが先導だから、もう一人の男子が最後尾につくのは当然だろう。ただ良く考えるとユキの方が強くないか? と疑問はあるものの、言われるままにした。
シュンは、去年行ったお化け屋敷を思い出した。
タカ取地区は夜が騒がしいから、シュンは暗闇が苦手だ。今思えば夜光性動物だと分かるが、草叢を動く音や落ち葉を踏む音が聞こえると、幽霊か誰かがいるように感じ眼が冴えて眠れなくなった。
だからお化け屋敷も避けていたが、去年の夏休みにとうとう恐怖の体験をした。ゲーセン近くに古典的なお化け屋敷が出来たので、井口達といきおいで入ったのだ。彼等には冷やかしレベルだったにも関わらず、シュンは本気で死ぬくらいの恐怖だった。
蝋人形の精巧さや暗闇で動くロボットの不気味さを知らずに入り、本当に恐ろしかった。幸いパンツを濡らすには至らなかったが、消したい記憶ではある。
ふとユージの後ろにいるハルを見てみると、彼女の足取りは意外にも冷静だ。むしろシュンの前にいるユキの方がおっかなびっくりで、時折シュンの方を振り返っては何かを訴える顔をしている。
300mぐらいの距離が無限に感じた時、やっとトンネルの先に光が見えた。
「もう直ぐですよ」
ユージの言葉に勇気づけられ、3人は早歩きでトンネルを抜けた。
「わあ」
「凄い」
トンネルを抜けると、そこは草原だった。




