第14話 如月ユージは苦笑する
「ユージ、やってくれるな」
「お望みとあらば」
そう言って一番端の席から立ち上がったのは、如月ユージだった。
「幸い、彼らは僕と同じクラスです」
「これも運命か」
「君も“星の子供達”候補だ。既にNAGSSに推薦しているよ。返答は未だないが、じき面接官が来るだろう。だが今や彼らも、君と同等な立場かもしれない。我々としては是非とも君を入学させたいが、上の意向次第だ」
「分かってます」
自分に不利な話をされても、ユージは気にしていない風だった。
「カノニカルの中でも我々ミェバはNAGSSへの優先推薦枠を持つ。多少は有利だが、結局最後は彼らの一存だ。くどいようだが君の将来もかかっている。頼むぞ」
「はいはい。やれば良いんでしょ? カノニカルの支部リーダー、久永ケイゾー様」
薄笑いを含め、ユージは扉の方へ歩いて行く。
ケイゾーはその様子を見て、ユージを咎めた。
「何のつもりだ?」
「学生は早めに帰らせてもらいますよ。夜も遅いですし」
そう言い残すと、ユージは帰って行った。
連れ戻すまでの事はしなかった。
「相変わらず勝手な奴だ」
「でも有能です」
「分かっておる。私が見た中でノアに次ぐ存在だ」
「だがそれでも、」
「あの2人次第ですね」
「こればかりは巡り合わせだ」
「NAGSSへ、あの2人も報告しますか?」
木元はケイゾーにへりくだり、伺いを立てた。
「未だ良いだろう」
「しかし、事が大きくなってからだとまずくないですか? あの暗黒の一週間のように」
ケイゾーは、木元をぎろりと睨んだ。
「あの件は口にするな! ここも『ヤス』に記録されているのだぞ」
ケイゾーの勢いに押され、木元はそれ以上の発言を控えた。
「とにかく、M.O.W.の反応を見たい」
「あ、あの、我々の存在が明るみになる恐れは?」
清水が恐る恐る発言した。
「カノニカルが公になる可能性もあると思うのですが」
「ゼロとは言えないが、ユージがうまくやるだろう。存在は『ヤス』も同意している。それにそんなのは、木元、お前の仕事だ」
木元はうなずき下を向くだけで、明確な返答はしなかった。
「お、お言葉ですが、あそこには既にクリーチャーの存在が確認されていまして……」
タイミングを見計らい、教頭がケイゾーの言葉を遮った。
ケイゾーは明らかに不満な顔をして教頭を睨みつけた。邪魔するなと言いたげである。教頭も差し出がましい発言と自覚していたが、それでも進言せざるを得なかったようだ。自分達の生徒なのだから当然の対応とも言える。
「そんな些事は無視だ! 出来る奴は出来る。クリーチャーなぞ障害ですらない!」
一同、再びしんとなった。
「まあ良い。今日はこれで終わりにする」
そう言うとケイゾーは退席し、各々も各々も帰宅の途についた。
廊下で先ほど戒めた老人が、ケイゾーに話しかけて来た。
「良いのか? 急いては事を仕損じるぞ」
「ご忠告ありがとうございます、雨宮先生。ですが遅いくらいです。星は待ってくれません」
「そうか。勘違いされると困るが、あの一件以来、我々は彼らの監視下にある。優先枠はその代償に過ぎん。彼らに取って何の意味も無い。それを忘れるでない」
「勿論です。存じております」
「それに、クリーチャーを軽んじるでない。NAGSSから説明を受けたが、我々は実物を知らない」
「失礼しました。以後気をつけます」
彼らが退室した後には、ぽっかりと大きな空間だけが残った。




