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第13話 秘密会議

 秘密は至る所に。


 庁舎(ホール)のある街の中心部を見渡せる美城が丘に建てられたイチイチは、古くは一帯を支配した藩主の居城の二の丸だった。郷土史家によればオキミ神社一帯が本丸らしいが、天守閣はない。


 近くに軍需工場もあった為、世界大戦では標的になり何度も爆撃を受けた。だが頑強な岩盤に掘られた地下防空壕のおかげで、犠牲者は少なかった。


 そして戦後の混乱期や周辺市町村が合併してミェバ市が誕生した過程で、防空壕の存在は綺麗さっぱり忘れ去られた。いや、正確には抹殺されたと言うべきか。この期間の公文書は紛失し、現在の防空壕の姿を知る術は無い。


 数百年前の遺物が未だ使われている事実を知ったら、築いた人々は何を思うだろうか。今ではアリの巣のように複雑に掘り込まれ、多数の部屋がある。



 その中でも一番広い会議室で、用務員久永ケイゾーによる召集令の下、緊急会議が開催されていた。コの字型に並んだ机の周りには10人ほどが鎮座している。


 そして彼等と対峙する一段高い席に、ケイゾーがどっしりと腰掛けていた。その威圧感は凄まじく、周りに座る区長・校長や先生を含めた会員達は、ヘビに睨まれた蛙あるいは鷹の前の雀のように怯えている。


 日頃の冴えない用務員とは真逆の姿だ。


「それでは会議を始めさせて頂きます。本日はお忙しい中……」

「下らん能書きは良い、早くしろ!」


 司会役を勤める清水先生の慇懃な挨拶をぴしゃりと止めると、ケイゾーはやおら周りの関係者に向け、口を開いた。


「招集状の通りだ。あの沙槝場ノアが作った疑似体装置(パペット•システム)が、我が校の生徒によって起動し、クリアされた。クラウドドラゴン、イーロは消滅だ」

「な、なんと」

「そんな」


 参加者からは、感嘆と困惑の声が漏れる。

 ケイゾーの眉間に刻まれた深い皺が、事態の深刻さを現していた。


「あのMR装置が、作動したんですか?」

「そうだ。戻ってくるまで一週間も仮死状態で、管理と隠蔽が大変だったけどな」

「しかもイーロを始末したと? クリーチャーの?」

「そうだ。疑似体(パペット)も一部はクリーチャーと同素材だから、不思議では無い」

「信じられない‥」

「そう思うのも無理はない。だが事実だ。東南アにあった超巨大台風の消滅も確認済みだ。あれは太陽光が集積する時間帯に、百数十個もの反射装置を適切な位置に置けば起動する。最適解は我々も解けなかった。起動確率は二億分の一。限りなくゼロに等しい。だがゼロでは無かったと言う訳だ」


 ケイゾーの言葉に、誰もが無言であった。


「出来れば我々もイーロとコンタクトしたかった。異常気象の源であり、M.O.W.起動鍵の1つだからな。だがそれは許されなかった。それもノアの遺志か」

「他の起動鍵を使えば良いんじゃないでしょうか?」

「確かにフレイルも同等の能力を持つが。あれはキリシアの相棒だ、手を出せぬ。幾ら担ぎ上げられたにしても、ノイエである以上、我々カノニカルと共闘はすまい」


 一同は、まだ動揺が収まらず、ざわめいている。


「誰ですか? そんな神業を成し遂げたのは?」


「三年三組の新未シュンと、最近転校して来た櫻菜ハル。2人の脳波がシンクロして装置を起動させ、擬似体(パペット)を天空へと転送させた。その活動度(アクティビティ)は、1、134、937。今まで計測されたことが無い数値だ」

「そ、それは……」

「信じられない……」


 やがて言葉も交わせなくなり、沈黙が長く流れた。


「何で清水は、彼らを資料室に入れたんだ?」


 1人が、苦々しげに呟いた。


「す、すいません。今まで起動なんて一度も無かったもので……」


 既に存分に叱責されたのか清水の声は弱々しく、平身低頭でひたすら謝り額の汗を拭うばかりだった。


「まあ、良い。新未君は普段の儂にもちゃんと挨拶する、良い生徒だ。敵では無い」

「は、はい」


「彼らが能力者との情報は?」

「完全にノーマークでした。うちの新未の活動度(アクティビティ)はせいぜいランクC-です。もう一人の転校生は、何せ初めて会ったもので、不明です。ですが転校元のエコド中からも、そんな連絡は入ってません」


 担任の橘がフォローする。


 なおもケイゾーが詰問しようとする様子を察したのか、


「覆水盆に帰らずじゃ。過ぎた事を言っても仕方なかろう」


 一番の年配と思われる理事が発したその言葉は、スズメのさえずりみたいに喋りあうだけで全く進まない会議の空気を、一遍に変質させた。


「問題はこれからどうするかじゃ。何か案はあるかい?」


 老人の冷静な言葉に、久永ケイゾーも我に返った。


「失礼しました。彼等をM.O.W.に引き合わせるのが最善の策かと」


 ケイゾーが答えると、再びざわめきが起こった。


「良いのですか? あれは最重要機密事項でしかも封印中です。抑制装置(サプレッサー)としてのイーロがいないなら、再起動(リブート)の可能性もあります。あれが再起動(リブート)したら、今度こそ本当に世界が滅ぶかもしれない」


 区長の木元ヤストミが当惑した様子で反論した。ミェバが消滅する可能性もあるのだから、皆のためにも簡単に承諾出来ないのは自明であった。


「分かっておる。だがあの暗黒の一週間(ブラック•ウィーク)から十年、世界は未だ混乱している。温暖化による海面上昇、火山の噴火や地震、各地の異常気象、ノイエ等によるテロ。長年に渡り人間とAIが築いてきた平和と調和が、脅かされているのだ。百年後のミェバの繁栄は『ヤス』の計算でも保証されていない。その為には誰かがM.O.W.を再起動(リブート)し、正しい方向に導かねばならぬ。全ての責任はわしが持つ」


 有無を言わさぬケイゾーの言葉に反論できる者はおらず、再び場は沈黙する。


「でも誰が引き合わせるのじゃ?」


 老人がケイゾーに聞いた。

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