第10話 シュン、頑張る
焦るシュンは無意識のうちにズボンのポケットに手をつっこむと、何か硬い感触があった。
(これ、何だっけ?)
何となくそれを握りしめ、そのまま衝撃波を再度撃ち放つ。
バゴォーーン!!
すると一転して、シュンの右手からきらびやかな光を伴い凄まじい衝撃波が撃ち放たれた! その威力はさっきの軽く百倍は超えただろうか。今まで固くイーロを覆っていた雲壁の一部があっけなく吹き飛ぶ。
『ぐぉおお!!』
どうやら、効いているようだ。
「何これ?」
ハルもびっくりしている。シュンは何が起きたのか分からなかった。
「もしかして、この石のおかげかも」
シュンは握っていた手を開いて、その石を見た。
ヤンシャを助けた時、足元に落ちていたのを気になって拾った透明な石だ。
沢山の屈折した光が絶妙な色彩を放ち、一時として同じ色を見せない。
「何で?」
「ソレ、多分、増幅装置ダト思ウンデス」
ヤンシャが答えた。
「父ガ昔、ソウ言ッテマシタ。南アノ鉱山地帯デ採レタ雲ト、今ハ貴重ナ、キリマンジャンロノ雪、ペペルーノマチュピチ近クノ金山上空二アッタ雲ヲ、何年モカケテ擦リ合ワセテ、幾重ニモ塗リ重ネテ濃縮シテ作ッタ雲水晶ダソウデス。色ンナチカラヲ持ッテルソウデス」
「それは助かる!」
「ほら、撃って!」
ハルに言われるまでも無く、シュンは雲水晶に力が集まるように念じ、ありったけの力を込めて撃ち放った。
ドガァアアーーン!!!
ズゴォオーーン!!
今までのが噓のように簡単に出せる。シュンは右手からの力を最大限に開放していた。勝てそうと分かれば、やる気もどんどん出て来くるもんだ。
見る見るうちに、イーロを取り囲む雲の壁が、破壊され始めた。
シュンが放つ一発一発が、厚い雲の壁を着実に吹飛ばしていく。
イーロの顔も、1つだけになり、焦燥の色が濃い。
劣勢に立たされているのが、シュン達の目から見ても分かる。
『ウォーーー止めろ〜!!!』
泰然と構えていたイーロが、ここまで脆くなるとは意外だ。
だが彼は死んでいなかった。
「あ、ヤバい!」
ハルが叫んだと同時に、雷がヤンシャ目がけて振りかざされた!
間一髪逃れたが、息つく間も無く何重にも雷攻撃が繰り広げられる。
二人を乗せ、ヤンシャは縦横無尽に飛び回り防御した。
だがその間に起きていた事を、知る由もなかった。
「何か変だよ!」
シュンが指摘する通り、いつの間にかイーロの周りには再び雲が集まっていた。しかも今度は、イーロの体内にそれら雲を取り込んでいる。
みるみる間にイーロの体は増長し、倍以上の大きさになった。
『ふぉっふぉっふぉ、この形までにさせたお前たちを、褒めてやろう』
パワーが充填されたのか顔が再び五つになり、言葉にもまた余裕が出て来た。
『だが、ここまでだ。これをくらえ!!』
イーロは三人に目がけて強風攻撃と超雷攻撃を交え、一層の圧力をかけた。
それた超雷は洋上の小島に直撃し、大きく燃え上がる。
こんなのに当たったら、二人は対抗する術がない。
「シッカリ捕マッテデス!」
ヤンシャはそう言うと、更に体を一回り大きくさせて翼を両脇に一枚ずつ増やした。先ほどより速度が増した。何とか逃げ切れるが、これも時間の問題だ。
「ちょっと交替して」
ハルに促されてシュンが前に座り、手綱を掴んだ。何をしてるのかと振り返ってハルを見ると、ハルは何やら雲をちぎり握っている。
「何してんの?」
「雲玉作ってんの」
こんな時にと、言いたいシュンだった。
「何言ってんの、これ密度が百万倍だよ? 貫通したら痛いよ?」
そう言われて納得したシュンだが、イーロも攻撃態勢に入り始めた。
とにかく、時間がない。
「じゃあ自分が攻撃する時に、それ投げつけて!」
「ラジャー!」
作戦は簡単だが、タイミングが重要だ。
シュンの手綱さばきで、イーロの超雷攻撃を、巧みに避けていく。強風がきついが、井口達と良く遊ぶ3DVRシューティングゲームの要領だ。威嚇のために衝撃波も所々で放ち、一進一退の攻防が続いた。
「意外にやるじゃない」
感心するハルに答えず、シュンは一心に、イーロの攻撃が止むタイミングを見計らっていた。
これだけのエネルギーを放出すると、流石のイーロも尽きてきたようだ。
我慢比べだ。とにかくシュンはダメージを最小限にして、機会を伺う。
ふっとイーロの攻撃が、一瞬止んだ。
「よし、ハル! いまだ!」
「あいよ!」
待ってましたと言わんばかりに、ハルは雲玉を思いっ切り投げつける
そしてシュンは、最大限の衝撃波を撃ち放った!
『グォーーーー!!』
加速された雲玉が、凄まじい衝撃でイーロに突き刺さる。
かなりのダメージを受けたようだ。
直ぐさま攻勢にでたイーロだが、残量は尽きかけていた。
形勢逆転となったシュンの砲撃は絶え間なく続く。
『や、やめてくれーーーー!!!!』
このコンビネーションは効いているようだ。雲がどんどんと削れていく。腹まで響く断末魔のあがきもがき苦しむ振動を感じても、シュンの攻撃は止まない。
『お、お前たち、わしが居なくなると世界がどうなるか、知らんのか?』
「そんなん知らんわ!」
ハルは容赦ない。
『た、大切な事を教えてやろう……』
「シュン、気にせずやって!」
ハルは聞く耳持たず、ひたすら攻撃する。敵に回したく無いタイプだ。やがてイーロは跳ね返すこと能わず、最後には小さな雲となって消え去った。
……
後には静かで平穏な雲だけが残り、平和な世界となった。
「熱帯低気圧になったね」
「やったぁー!」
夕陽が映え、金色の雲が彼方まで広がる空を、三人は嬉々としながらパーシャの待つ雲の城へと帰って行った。
(良かった……)
シュンは精魂尽き果てていた。
とにかくミッションをクリアした安堵感で一杯だった。




