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ウジウジ少年と6人のクズ人間が、ゴーレムに乗って無双するようです  作者: かしづき
1章 子供と大人とゴーレムと。
3/3

2.壊れた遺跡




「ええと……。どうしようかね、これから」


最初に口を開いたのは、おじさんだった。

声の調子からして、とても困惑していた。


「どうしましょうね」


それとは反対に、スーツの人は相変わらずマイペースだった。


僕はというと、崩れた柱の陰に隠れて、死体が動き出しやしないかとビクビクしていた。


おじさんは部屋を軽く見渡して、短く溜め息を漏らした。


「廊下に通じる出口が2つか。これはギャンブルだぞ。どっちを選ぶ?」


「決めてくださいよ」


「わたしがぁ? そんな重大な選択を、こんな冴えないおじさんにさせるかい、きみ」


「一番年上じゃないですか」


「そんなルールは知らんね」


おじさんとスーツの人は、近くに死体があることなんて忘れて話し込んでしまった。

そんな話はいいから、早くこんな場所から離れたい。


そう願っていると、女の人が手を叩いて2人に話しかけた。


「とりあえず、一番近い出口から出ましょうよ。ほら、ちょうどいい武器もあるし、変なのが出ても大丈夫かも」


そう言いながら、死体の1つに近寄った。しゃがみこんで、死体の近くに落ちている剣を手に取ってみる。


「おも……」


まったく持ち上げきれていなかった。

剣の切っ先は地面についたまま、ガリガリ音を立てて引きずっている。


「いいですよ。こういうのは男の仕事ですから。なるべく守りますよ」


見かねたスーツの人が手を差し出して、剣を渡すように促した。

女の人はしぶしぶそれに従う。


「そう言ってもらえるのは助かるけど……」


「頼りないですか? 大丈夫でしょう。本職の人がいるみたいですし」


そう言って、ちらりとお侍さんを見る。


お侍さんは我関せずといった様子で無言だった。もともと無口な人なんだろう。洞窟にいた時も、一言も喋ろうとはしなかった。


スーツの人は苦笑しつつ、


「おじさんもいかがですか」


おじさんにも剣を渡そうとした。


「いや、結構。持ってるから」


そう言って、懐から分厚い皮の入れ物を取り出した。それはナイフケースだった。

ケースの大きさから見て、頑丈そうなナイフが入っているように思えた。


スーツの人は一瞬、口をつぐんだあと、


「そうですか」


いつも通りの調子で答えた。


この人だけじゃない。

みんな淡々としている。


みんな、日本人だ。戦時中の人間ではないと思う。お侍さん以外は、服装から見て、僕のいた時代とあまり大差ない筈だ。

そりゃ、自分たちの命の危険があるのは分かる。

でも、こんなにもあっけなく戦う意思を見せるのが、不思議でならなかった。


怖くないのかな。

イヤじゃないのかな。

僕ならイヤだ。

何かにいきなり襲われたら、武器を持ってても怖くて動けない。

仮にあんな重たいもの振り回せても絶対当たらないし、先に僕が殺されるに決まってる。


それなのに、なんで。


「なんで、そんなに落ち着いてるの?」


僕は思わず、思ったことを口に出していた。

ハッとして口を押さえた。


でももう遅かった。

大人4人は振り返って僕を見ていた。


「あ、あの……、あの、ごめんなさい」


僕はとりあえず謝った。

僕が口を挟むと、いつだって空気が凍る。

いつだってそう。

だから謝るしかない。

謝ったって許してもらえるとは限らないけど、形だけでも繕っておく。


「ああ、ごめんね。気づかなくて。怖いわよね」


女の人が、僕の肩に手を置いた。

この人はいつも優しかった。


「言われてみれば、確かに落ち着いてるねぇ、わたしら」


おじさんがのほほんと言って、


「もう一度死んでますからね。色々おかしくなってるんでしょう。それに、まあ、大人ですから」


スーツの人がそれに続いた。


「大人になったら、そんな風になれるの?」


「そんな風にって?」


「どんな事があっても、落ち着いて行動できるようになるの?」


心のどこかで、期待していた。


その答えに、肯定を求めている自分が確かにいた。


どんくさい僕でも。


失敗続きの僕でも。


大人になれば。大人になりさえすれば。


そうすれば……。



「無理だと思うよ」


スーツの人が、いつも通りの穏やかな口調で言った。


「その性格じゃあね」








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