表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウジウジ少年と6人のクズ人間が、ゴーレムに乗って無双するようです  作者: かしづき
1章 子供と大人とゴーレムと。
1/3

プロローグ



今日、セミを食べた。


好きで食べたわけじゃない。


命令されたんだ、いじわるなクラスメイトに。


嫌だったけど、相手は5人だったし。逃げようとしても、僕は足が遅いから、どうせ捕まって怒鳴られるんだ。


だから食べた。


そうするしかなかった。

噛まずに一気に飲み込んでしまったから、味は覚えていない。

ざらついた羽根の感触が、妙に舌に残っていた。


夏休みが終わって、学校が始まった途端、これだ。


うんざり、なんて言葉じゃ表せないくらい、僕は参っていた。


セミが喉を通る感覚を思い出しながら、僕はフラフラと学校の屋上へ向かった。


死のうと思ったから。


屋上の扉はいつも鍵がかかっているけど、小柄な僕は、扉の横にある小窓から通り抜けることができた。


僕はそこで、夜になるまでじっと待つことにした。

そのあいだ暇だったけど、遺書を書く気にはならなかった。


大の字に寝そべって、 まわりの様子を感じて過ごした。


視界いっぱいに広がる、目に痛いほど真っ青な空と、真っ白な入道雲。

いたるところで奏でるセミたちのせわしない合唱。

ジリジリと肌を焼く眩しい太陽。

校庭で部活動する学生たちの声。


「…………」


世界はこんなにもイキイキとして鮮やかなのに、どうして僕の心はこんなにも暗くて鉛のように重たいんだろう。


そう思うと、だんだん目尻が熱くなって、涙がポロポロと流れた。



いつのまにか、眠っていたらしい。

あたりはすっかり暗くなっていた。


スマホを取り出して、時間を確認してみる。


夜の8時。

先生たちも帰ってる時間だ。


「あ……」


お母さんから電話の着信がきていた。


かけ直そうかと少し迷ったけど、やめた。


これから死ぬんだ。だから、もういい。


僕はスマホをその場に置いて、柵をまたいだ。


この下は、正面玄関だ。


つまり明日、最初に学校へ来た人が、必ず血みどろになった僕を見つけるという事だ。


すごく申し訳なく思うけど、できるだけ早く見つけてもらいたかった。

死体を見て気分を悪くする人数は、どうせなら少ないほうがいい。人生最後の、ささやかな気遣いだ。


足を一歩、前へ。


神様はいいひとだ。


僕たち生き物に、死を与えてくれた。


生きることから逃げる方法を与えてくれた。


どんなに辛くても苦しくても、死ねば終わりにできる。


散髪しただけでからかわれる事もない。


わざと足をひっかけられる事もない。


ドッヂボールで頭を狙われる事もない。


背中に紙を貼り付けられる事もない。


体が宙に投げ出される。


自分の重さで急速に落下する。


あとは、硬い地面が僕の頭を割ってくれる。


それで終わり。


僕は自由だ。


もう自由なんだ。


そうして、観月唱汰の人生は終わりを迎えた。




そう思っていた。



「あ、起きた」


「おはよう」


知らない声が聞こえた。


僕は死んでいなかった。


死ねなかった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ