覚醒
隼人の肌の表面に赤い紋章が浮かび上がる。
それは、身体強化系の魔法の最終形態。バルカスもそれを知っていた。
「ヤバい! 今すぐそいつから離れろ!」
バルカスが部下に叫ぶが遅い。
隼人は魔人にすら認識できない速度で刀を振るう。
グハッ
周囲にいた五人の魔人が絶命する。
隼人は翔たちのもとへ一瞬で移動をする。
しかし、一足遅かった。
魔人がはなった拳が雅章をとらえる。
衝撃で雅章は壁まで吹き飛び吐血し、動かなくなった。
雅章は重傷を負ったが死んではいない。
だが、冷静さを欠いた隼人は雅章が死んでいると思い込んでいた。
「許さない! 全員殺す!」
隼人の体を新月からでた黒いオーラが包み込む。
それは本来封印されており、絶対に使ってはいけない能力。
理由は一つ、危険だからだ。
新月は能力と引き換えに所持者の命を喰らい続ける。
「逃げろ! 早く!」
バルカスが翔たちの近くにいた魔人に叫ぶが、これも遅い。
隼人が一人の魔人を斬りつける。
それと同時に新月からでた四本の黒い影のようなものが周囲の四人を斬りつける。
立った一振りで五人の魔人が同時に絶命する。
さっきまとは一変し、隼人が魔人をおいつめていく。
隼人は魔人が密集している場所に自ら突っ込む。
「クソ! 化け物が!」
「さっきまで虫の息だったくせに」
隼人によって次々と魔人の数が減っていく。
「一か所に集まって防御魔法をはるぞ!」
バルカスの言葉通り、生きている魔人が行動する。
何重にも重なったシールドが展開される。
「こんなんで俺が止まるかあああ!」
二十人程で張られたシールドを新月の能力もあいまった超高速の斬撃が襲い続ける。
「踏ん張れ! 耐えれば勝機はある!」
バルカスが鼓舞するが、結果は無駄に終わる。
「クソッ!」
一分程で隼人の斬撃によってすべてのシールドが破壊される。
続けて隼人が魔人に斬りかかろうとするが体が動かなかった。
「なんで!」
「僕らの勝ちだ!」
隼人にバルカスの蹴りがはいり地面に倒れこむ。
「ずっと全開で戦ってくれてよかった」
「どういうことだ!」
「別に教える必要はない」
「お前はここで死ぬんだからな」
理由は簡単だった。
ただでさえ魔力消費が多い身体強化魔法。
レベル5から初めて扱うレベル6の連続使用で魔力がなくなったのだ。
「だが、まだだ!」
隼人はフラフラになりながら立ち上がる。
新月からの黒いオーラがさらに濃くなる。
「お前たちだけは死んでも許さん!」
隼人が前方に刀を構えると、黒いオーラが集合し始める。
「バルカス様!」
生き残っていた魔人がバルカスの盾となるべく、出せるだけのシールドを張り前方に割って入る。
「これが俺たちの最後の任務だ! 気合い入れろ!」
「お前たち!」
「消し飛べえええ!」
隼人の前方にたまった黒いオーラが解放される。
爆音とともに土煙が視界を奪う。
土煙がはれると盾となった魔人は消えていたが、バルカスは立っていた。
「お前らすまない!」
隼人の前方の練習場は跡形もなく消えていた。
最後の全力を出した隼人は地面に倒れこみ絶望する。
「ごめん。隼人、雅章」
「五条さん……」
隼人をさらなる絶望が襲う。
再び同じ場所にゲートが開き百を超える魔人が降り立つ。
それは今までの魔人とは容姿が違うようだった。
「戦いは終わった後か。兵士をたくさん連れてきたのに無駄になったな」
「バルカス」
「魔王様がおよびだ。ここまで無駄に兵士を殺したんだ」
「覚悟はしておけよ」
「分かった」
「だが、最後に一つやらせてくれ」
バルカスが倒れている隼人のもとへ近づく。
「俺の大切な部下の命を奪った気分はどうだ?」
「お前も同じ気分をあじわわせてやる」
「気づいているかしれんがあいつは生きているぞ」
隼人が倒れた雅章のほうに向く。
「まあ、結局殺すけどな」
「やめて……ください」
バルカスは隼人の願いに対して無言という絶対の拒否を示した。
落ちている新月を拾い、戦闘の余波で気絶している奈津子に近寄る。
「まずはこいつからだ!」
「やめてくれ!」
バルカスが新月を構える。
「死ね!」
「やめろおおお!」
バルカスが奈津子の首めがけて刀を振り下ろす。
が、刀は途中で止まっていた。
正確には止められていた。
「よく持ちこたえたな。間に合ってよかった」
「あとは任せて少し眠ってなさい」
隼人は助けてくれた人の顔を確認する。
その人は、四人で助けた少女にお兄ちゃんと呼ばれていた男性だった。




