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作者:

 秋も深まる夕焼けの空を少年がぼーっと眺めていた。少し冷たい風が、冬が近づいていることを良くも悪くも教えてくれた。

 しばらく空を眺めていた少年は、後ろを振り返って、視線を落とした。

少年が見つめる先には、[一条家]と名前が彫られた墓石があった。そのお墓はまだ新しく、1人しか眠っていない。その人は、彼の大好きな祖父だった。

「また、来ちゃった」

 少年はしゃがみこんで、手を合わせた。祖父がここに眠ってから、何かあるたびに足を運んでいた。両親とうまくいっていないわけではなく、二人に話すと心配性な性格からいらない心配をかけてしまう。二人に話せなくても、誰かに聞いて欲しくて、生前もたくさん話を聞いてくれた祖父のもとに、変わらずにきてしまうのだ。

「せっかくさ、じいちゃんに特訓してもらったのに、レギュラー、取られちゃったんだ」

 自嘲気味に笑う。今年で最後の夏の大会で、レギュラーから降ろされただけでなく、ベンチにすら入れなかった。自分より上手い人間がいるのは当然で、だからこそ毎日自主練を欠かさなかった。

「甲子園に、連れて行くって、言ったのにさ」

 野球が大好きな祖父は、少年が野球を始めたとき一番に喜んでくれた。病気で入院してしまうまで、練習をずっと見守ってくれていたのだ。

だからこそ大好きな野球で、祖父を励ましたかった。病院にいても、テレビの中継が入る甲子園なら、祖父に見てもらえるから。

 息をひきとるときにも、言ったのだ。必ず、甲子園に行く、と。今年のチームは強かった。地方大会や練習試合で代表経験のある高校にも勝てたのだ。

 だからこそ、少年は悔しかった。

 準優勝で、終わってしまったことが。

 ベンチにすら、入れなかったことが。

 祖父との約束を、守れなかったことが。

 ただただ、悔しかったのだ。

 俯く少年は、唇を噛みしめ、肩を震わせる。握り締められた手からは血の気が引いて白かった。

 そんな時、一陣の風が吹き抜けた。

『――』

「!」

 少年は弾かれるように立ち上がり、辺りを見回した。しかし、人は少年以外誰もいなかった。

 聞き間違いかもしれない。それでも、少年の耳には確かに聞こえた。堪えられずに、一筋涙が頬を伝う。

「…そう、だね」

 少年は、涙を拭って空を見上げた。いつの間にか沈んでいた太陽に代わり月が星と共に輝いている。いつもより気分はすがすがしかった。

「ありがとう。またね」

 何かが解決したわけでも、結果が変わったわけではない。それでも、少年の中で確実に何かが変わった。

 大きく深呼吸をして、少年は家路につくのだった。


読了、ありがとうございました。

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