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ドキュメント:異世界転生トラックドライバー

作者: 灰色

異世界転生トラックドライバーの朝は早い。

彼らの仕事は早朝夜明け前に始まる。

まずは愛車の日常点検。ライトが点灯するのか、アクセルはちゃんと吹けるのか、ブレーキはきちんと効くのか、念入りにチェックは続く。


《毎朝こんなに念入りなんですか?》


「勿論、毎朝ですよ。転生するとは言え、人様の人生を一旦終わらせるんですから丁寧にやります。

 不具合で轢きそびれるなんて事が有っちゃあいけないし、間違えて他の車にぶつかったり他の人を轢いてしまったら大変ですからね」


《そういう事ってあるんですか?》


「昔、満員のバスに間違えてぶつかって崖下に転落させ、ほぼ全員転生させてしまう事になった同僚が居ましてね……その異世界は手違いで転生させた為に神様もギフトを張り切ったせいか、強い力を持った転生者でたいそう賑わったらしいけど、ああいうのはやっぱり良くないと思うんです。

 転生前の世界に住んでいた家族の人が悲しむだけじゃなくて、大黒柱を喪って困窮したりするしね。

 転生する人は、その世界との繋がりが薄い人じゃあなくちゃいけない。

 独身とか、収入が無くて扶養されているとか、そういうね」


《つまり引籠りニートとかが転生する理由はそれ?》


「大黒柱を喪って経済的に困る子供とかはなるべく出さないようにって、上からは言われてます」


車両の点検を終えた彼は、次にチェックリストを眺め始めた。

その眼差しは、まさに真剣そのものだ。


《それは何ですか?》


「転生予定者のステータスと転生者を求めている異世界のマッチングリストですよ。

 合わない世界に転生なんかさせたら、可哀想ですからね。

 合う異世界が無い人は、轢いちゃあいけないんです。

 たとえゴブリンに転生する人でも、ゴブリンという境遇に耐えられるような性質じゃあないと発狂してしまいかねないですから」


《ゴブリン適合者を引籠りニートの中からですか?》


「そっちはちょっと恵まれた身分の人の子供にしたりする事が多いですね。

 最近はブラック企業で死にかけているサラリーマンさんとかも居るから、独身一人暮らしで仕送りとかしていない人を轢く事もあります。

 劣悪な環境に慣れていたりするので、ちょっと変な転生でも耐えられるステータスの人が結構多い。

 ああいう会社は『お前が居なくなったって幾らでも代わりは居るんだぞ』と言質は取れていますからね。

 会社の損失を気にする事無く、轢く事が出来るんです」


苦笑しながら彼はチェックリストを閉じて、トラックに乗り込みキーを回す。


《もう出かけるんですか?》


「引籠りニートの人は、時間感覚が無い人も結構居るからね。場合によっては夜明け前なんて場合もありますよ。

 あとブラック企業の社員さんとかも2時間睡眠する為に帰宅するって人が居ますし、夜明け前や朝方は他の車や通行人が少ないんで事故を起こさないように事故を起こすタイミングなんですよ」


《でも引籠りニートの人って需要あるんですか?》


「彼らは世界から不要とされ、自身も世界に不要だと思っていますがね。

 例え中卒相当の知識でも、数多くある異世界にはそれを必要としている所が沢山あるんですよ。

 文字を書いて記録する概念がある。計算が出来る。短いながらも現代社会で生きた事で経験した様々な概念が彼らにはあります。

 それだけと思うかもしれませんが、それだけでもとても重宝される世界なんて、いくらでもあるんです。

 リストは常に、そういう世界からの求人でいっぱいですよ。

 では今日も一日、安全に事故無く事故を起こしてきます」


そう言って、彼は車庫から出て行った。

夕方、帰って来た彼が先ずする事は洗車だ。


「このトラックがそういう用途に作られていて頑丈とは言え、なんだかんだ言っても人を轢くわけですから、どうしても血が着いてしまいます。

 塩分が錆とか不具合の原因になるからね。毎日洗車は必須ですよね」


丁寧に車を洗い、車体の水分を拭き取り、一日の報告書を作成して彼の一日は終わる。


《夜の分はどうしているんですか?》


「別の同僚が担当しています。

 夜はブラック企業だけでは無く、三徹明けのお医者さんとかも結構居るらしいです」


夜は夜で大変な勤務なようだ。

最後に、勤務が終わった後の彼に最後の質問をしてみた。


《異世界転生トラックドライバーをやっていて、良かったと思う事ってありますか?》


「時々轢いた連中が転生した先を、こっそり見に行くんだけどね。

 転生前と違って文字通り生まれ変わったみたいに生き生きしてるのを見ると、轢いて良かったと思えるねえ。

 オイラがしたのは世界と世界の仲介で、ただの殺人じゃないってね」


そう言ってはにかむ彼の笑顔は、まさに仕事人と呼ぶに相応しいものだった。

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