6話:賊
重い話です、ご注意下さい。
受けないのは分かっているのですが物語として必要でした。
賊による集落襲撃の報、不味った、窓花の判断が不安で武装ロックしてた。
柵は壊せるしロックは遠隔で解除できるが、幌と偽装が邪魔でセンサーと機銃が使えない、恐らく集音で賊に気づいたのだろう、しかし目隠し運転は危なすぎるから囮もむり、取りあえずドローンを戻して偵察に向かわせる。
「シモンさん! 村の方がおかしい! 明かりや煙が見える!」
「な! 煙の数が多すぎる、あれは賊の襲撃だ、妖魔は火をかけん、早く行かないと」
「でも父さん夜だよ? 私は夜目も効くけどまだ距離あるよ!」
「俺も夜目が効きます、シモンさんはこれを」
こん棒みたいなマグライトを点灯して見せたので急ぎ出発、荷物も収納済みで助かった、マグライトの明るさも十分、そして窓花から偵察情報。
現在住民は長の家に籠城、調度食料と投擲に使える鉄が集められていたので持ちそうだ。
騎馬3槍兵3弓兵2盾持ち歩兵4計12人、指揮官が騎馬でほぼ全身鎧、残りの者は皮鎧に部分補強、正規兵ではないが賊にしては充実した装備、走りながらシモンさんに報告する。
「くそ! そいつらは例の傭兵だ! 装備から間違いない、恐らく奴隷狩りだ、ミックスは金に成らんが若い女のハーフは売れる、住民とは錬度と装備が違いすぎる、投げる鉄が有るうち行くぞ! 奴隷目的なら籠城先は焼か無いはずだ」
「シモンさん、敵が多い、森から射掛けて釣りだそう、馬も森なら自由に走れない、地の利もこっちが上だ、最悪逃げ切れる」
「判断が早いな、しかし釣れるか? 家を盾にされたら難しいぞ」
「シモンさん達が引き付けてくれるなら俺が自走車でひっかきまわすよ、あれは矢も槍も弾くし動かしながら指弾も撃てる、予定に無い脅威がでれば賊も引くはず、被害が少なくすむ」
シモンさんは暫く考えた後、同意してくれたが、ミディアが反対、戦う気だったのに、シモンさんが隠れている様に指示したからだ。
逸る若者の気持ちも解るが、成人したばかりの女の子だ、親としては無理からぬ判断だよ。
俺も反対したが一人でも行きそう、シモンさんも指示に絶対従う事を条件に認めてしまった。
「涼太、すまねえな、本来集落を守る義理なんかねえのに、娘の我儘も迷惑掛ける」
「俺は自走車に乗り込んでしまえば安全ですよ、夜だし簡単にたどり着けます、かなり力の有る自走車です、賊ごと跳ね飛ばしてみせましょう、それよりお二人です、絶対に森から出ないように」
流石に心配し過ぎたせいでミディアが脹れてしまった、あまり積極的に動かないで欲しいのだが。
ミディアだって集落を助けたい気持ちが強い、意地になってるな。
「そんなに心配しないでよ、森の中からなら絶対見つからないから!」
「慢心すんな、俺たちは注意を引き付けるだけで矢が届けばいい、自走車が動いたら森に逃げても大丈夫なんだな?」
「ええ、日本の技術を見せ付けてやりますよ、援軍もいりません、近づいたらマグライトの明かりも消しましょう、集落の火事で明かりは確保できますよ」
いよいよ作戦決行、二人の矢玉が少し心もとないが、賊に魔導が使える者は居ない、装甲車が動けば魔導の無い前時代の武装集団など物の数ではない。
牽制が終われば安全な場所で見学してもらうのが一番いい、慎重に進めれば危険はない作戦。
俺が配置の合図を送ったら直ぐに射撃が始まった、夜に紛れ納屋に向かう、流石傭兵だけあって矢が来ると素早く混乱を収め家など障害物に隠れた。
奇襲戦果は弓兵2、指揮官を倒せれば勝ちだが、鎧も良いし場所が悪い、釣り作戦で遠距離を潰せただけでも幸先がいい、俺もそろそろ着く。
「お待ちしておりました涼太様、装甲車に被害は有りませんでした、襲撃を察知しながら何もできず申し訳ありません」
「いや、連絡と偵察は助かった、動けなかったのは俺のミスだよ、窓花のせいじゃない、急ぐので話はあと、幌と邪魔な偽装だけ外して直ぐに出そう、RWS 7.62mmは任せたいけど敵の識別は問題ない?」
「はい、ドローン偵察で識別済みです、誤射は有りませんのでお任せください」
「モグ、これを外すの手伝ってくれ、一人じゃ時間が掛かる」
「モグ!」
モグも何もできなくて悔しかったようだ、電力だけで動ける窓花と違い、俺が近くに居ないと魔力提供が無いので実体化すらできない。
取りあえず幌を取り邪魔な偽装だけ剥いでセンサーとRWS機銃を使えるようにした、悪いが納屋を突き破って派手に注目を集め槍兵に射撃、戦果2、かなり動揺している。
こんな時にセコイ話だが真鍮薬莢は自動で回収できている。
「涼太殿か? 有りがたい、この家の者は軽傷者だけですじゃ、食料も無事ですぞ!」
籠城中でも取引は忘れてない、独立集落の長だけあって逞しいわ、丁度シモン達も矢玉が尽きたのか射撃が止まった。
うわ、結構ギリギリや、窓花が更に騎兵一騎と盾持ち歩兵一人を仕留めると混乱から潰走、俺も上部ハッチを開けて銃で追い打ち、だが取り返しのつかない油断があった。
「涼太! やったよ勝ったね! あたしも矢を回収して追撃する!」
「ミディア! まだ出ちゃだめだ! 戻って!」
森際から逃げる騎兵が一騎、ミディアに近い、せめて一矢と思ったのだろう、最悪な事に馬の勢いを利用してミディアに槍を投げるつもりだ、RWSからは死角、俺はあせって対応が遅れた。
だが、シモンは油断も無く諦めなかった、矢が無くてもマグライトの光で騎兵をひるませ、槍の狙いを反らしミディアを救った、俺は遅れて射撃、……やっぱお父さんだな、マグライトだけで娘を守るなんてな。
「父さんごめんなさい……」
「馬鹿野郎! 指示に従えって言っただろ、まったくおま「父さん避けて!」」
またも油断…… 騎兵はもう一騎、位置を晒したシモンに槍を投擲して逃げ去った
「シモンさん!」
「父さん!」
森の切れ目当りでシモンが倒れている、槍は腹を貫き背から槍先が出ていた。
匂いでもわかる、大腸が破れている、確実に感染症、現代の病院なら助かる傷。
「へへ、この樣じゃ、娘を叱れる立場じゃねえな……」
「父さん! ごめんなざい! あ、あだじが、がっでにどびだじたがら……」
泣くから活舌が全くだめだ、俺は女の子の慰め方など分からないので放置する、住民も火のついた木切れを持って集まって来た。
ここには病院も治療魔導も無い、医療キッド程度じゃ無理だ、不器用な俺は俺の出来る事をしよう。
「腸が裂けてる、助からない、でも直ぐ死ぬ傷じゃない、俺に出来る事は有りますか?」
ミディアに睨まれるが無視する、俺はシモンの言葉を聞く事しかできないから。
「ミディア、こんな商売だ、覚悟はしとけって言ってただろ、涼太を睨むな、でよ、涼太、取引がしたい」
「聞きましょう、出来るだけ譲歩しますよ」
何でもと言えない俺、こんな時でも怖くて嘘が付けない。
「有りがてえ、確かこの大陸を調査するんだったな、何処でも通れる通行書、良い値が付くと思うんだが?」
腹に槍が刺さってるのに大した胆力だ、抜いてやりたいが出血が怖い。
「それが本当なら欲しいですね、無理な事も有りますが、基本買いですね」
ミディアはこんな時に商売の話! と軽蔑の眼差し。
大丈夫、俺はその手の視線に馴れてる。
「俺の妖魔駆除師証だ、信用が有るし何処でも妖魔は居るから協定でどの国にも入国できる、裏に俺の血判とお前の血判が有れば仮だが弟子として継いだことになる、仮だから三ヶ月以内に功績を作ってアルプのプレタレス家に持っていけ、俺の寄親で保証人だ、本試験が受けれる、方法はミディアに教えてある」
だいたい何を欲してるか、もう分かったけど、調査も有るし自信がない。
「何をお求めで? あと弟子は一人だけですか?」
弱ってようが条件は引き出す、甘くないよ。
「? 弟子は三人まで可能だ、でこっちの要求だ、ミディアを頼みたい、まだ半人前でな、多分一人じゃ生きていけん、一人で生きていける場所か実力が付くまで面倒を見て欲しい」
そんな場所は無いだろ? 在ったらあんたが連れてってる、普通新人から一人前は三年以上。
「条件が一つ、血判は私とミディアさん、娘ですが弟子でしょ?」
「わかったよ、何なら涼太が貰ってくれてもいいんだがな…… あと日本て国は慈悲の一撃ってのは有るか? 意味が分かるなら頼みたい、一応ミディアにも頼むが、多分…… 無理だな」
辛い仕事ばっかりやん、また鬱になったら大変なんだぞ。
「酷いですね、まあ、引き受けます、ですがまだ余力有りますね? 死ぬ前に親子の会話をして下さい」
「ありがとよ、遺言も伝える、多分ミディアには無理だから呼びに行かせると思う」
さすがに親子の会話を聞くほど無粋じゃない、血判を済ませ、聞こえない程度に離れる。
しかし、この世界の成人とは言え16歳で天涯孤独、辛いよ?
置いて逝くのはろくでなしのする事だ。
「涼太、ごめん、出来なかった…… あたしのやるべき事、色々代わってくれてありがと」
そんなもんだよ、俺の時も無理だった、判断は親戚の叔母さんに頼んだ。
「シモンさんが取引にしたので、気にしないでください、俺の仕事ですよ」
ホントは嫌だ、断りたい、けど断れない、年長者の役目だから。
そばに行く。
「ども―、言い残しは無いですか? 本日提供できるコースはサーベルか指弾になります」
「みんなに看取られてコースまで選べるたあ上等だな、指弾のグロイ奴で、終わったら火葬で頼むよ、嫁も火葬なんでな、あと最後に皆に言う事が有るので終わったら頼む」
引っ張るねー 嫌な事は早く済ませたいんだけど。
皆を呼ぶ。
「皆、聞いてくれ、これから涼太にやってもらう事は、兵士や傭兵の間では慈悲の一撃と言う行いだ、殺しじゃない、助からない仲間を苦痛から救う立派な行為だ、非難したら化けてでる、んじゃ皆、ありがとよ」
生きてる間に葬式する気か? 斬新だな。
再び側へ。
「シモンさん俺、あんまり詳しくないんで、何処が一番楽ですかね?」
シモンはそっと銃口を眉間に導いて安らかに目をつむる、俺は引き金を引いた。
今日何人殺したかな? 地球でも貧しい国は命が軽いって言う人がいる、言葉の想いは違うだろう、でも異世界も軽いと思った。
女神様の安定剤を飲む、半分はきっと優しさで出来ている。
※集落から少し離れた風下
俺は長に許可を貰い、壊された家の廃材を組み重ね火葬の用意をする。
日本じゃ火葬が当たり前だが、自分でやるとは思わなかった。
俺の油断が原因だし、やるけどね。
「涼太、ありがとう、手伝わせて、木を集めてくればいいのかな?」
「その前に形見が要るなら回収しといて、俺の国の風習なんだ、あと、本人が持ってないと困る物も一緒に埋葬するし花も添えるね」
「火葬は珍しいけど、あたし達も大体同じ、遠い国でも一緒なんだね……」
シモンさんの妻、アーティさんは自由都市間の戦争に巻き込まれ、櫓で最後まで戦ったが、火攻めで焼死したらしい、シモンさんは救援に向かったが間に合わなかった。
何処が火葬だよ!
ミディアは弓と山刀を回収し、家から指輪を取ってきて来た、そしてシモンさんを綺麗に拭き、服を着替えさせ、髪は束ね髭を剃る、後頭部は苦労しそうで申し訳ない。
「久しぶりに奥さんと会うんなら、花束でも持たせないとかっこが付かないかな、暗いけど集められる?」
「それいい! 父さん時々母さんの事悔やんでたから、花束でも無いよりずっと喜ぶよ!」
よかったねシモンさん、娘が花束持たせてくれるってよ、手ぶらで謝罪はキツイからね。
でも、娘を一人にしたんだ、奥さんに怒られね、苦労しろ。
「マグライト有るよ、後は人間を焼くと匂いが、ね、何か臭いを誤魔化せる物が有れば頼むよ」
母さんの好きそうな花を集めると駆けだして行った。
※ほぼ準備が終わる
「母さんが好きだった花が咲いててよかった、野花だけど綺麗でしょ?」
そう言ってシモンさんに花束を握らせる、名も知らない花だけどヒナゲシとかすみ草に似てる。
野花にしては上等だ、俺はその辺のタンポポ見たいな奴。
家族を残して、若いのに早く逝く奴は嫌いだ。
集落の人もぽつぽつと花を供えに来るので挨拶。
葬式の喪主なんて子供のやる事じゃないと思うが、唯一の家族だし頑張って貰おう。
「あまり長く晒すのも可哀そうだし、始めるよ」
組み木の間に匂いを誤魔化せる干草を詰め込み火を点ける。
「父さんと母さんが無事合えて仲良く出来ますように…… あたしは元気に生きてくから」
気の利いた言葉でも掛けてあげたいが、俺には難しいので黙祷。
「じゃあ、朝に成ればお骨に成ると思う、最後は集めて小壺に入れてお墓に埋めるのが日本の風習だけど、それでいいかな?」
「うん、それが良いと思う、森の入り口に岩が有るからそこに埋める」
「じゃあ、時間が掛かるからもう寝てきな、俺も寝るよ」
ミディアの感謝の言葉を聞き見送る。
偵察に行かせた窓花のドローンが帰って来た。
次回から関西弁が増えるかと思います。
嫌いな方には申し訳ありません。
関西人なので標準語だけではどうしても心理描写が難しいかったもので