2話:神様の依頼と経緯
前置きが長いので何話か連続投稿します。
?:「よく来てくれた! 大仲君、歓迎するぞ」
「……………………………………」
?:「社員採用の話は間違い無いから、正気に戻って欲しいのじゃが?」
「……はっ?! 失礼しました! 少し驚きましたが大丈夫です」
?:「復帰早いな! さて、詳しい話は君が引き受けてからじゃ、続けるぞ?」
うーむ、うっかりフリーズしてしまったが、社員採用は間違いない、ただ最長3年程【異世界】正確には別の世界線、又は魔力が存在した場合の地球の様な所に出向する必要が有るらしい。
しかし、仕事は調査! ここ重要! 妖魔は居るけど無視しても良いし資金調達で退治もOK、装備や通訳兼サポートも付く。
現実でも危険な外国で働く人も居るわけだし、万一死亡した場合でも記憶は無くなるが裕福な家に才能付きで生まれ変われる。
求人内容の一部を抜粋すると、年間休日120日+初年度有給20日、8時間労働、時間外労働30時間以下、調査に関係するなら移動だけでも出勤扱いで判定も甘い、出向中も給与は口座振込……
「私は異世界に憧れていました! 是非行かせてください!」
「引き受けてくれるか? 助かるのじゃ、儂が君の上司で天探女、よろしくの!」
「ああ! あの天邪鬼のモデルになったうらぎ……」
「あぁ! 儂がチクリで天邪鬼の原像の天探女様じゃ、文句あんのか? 無職オタク風情が!」
「いえいえ! オタクはあざと可愛い系も需要が有りますし、天探女様はゲームキャラにも成っておりますよ、男神とくっ付いてない女神様は貴重ですからね!」
「私、オタクって知的で素敵な人種だといつも思いますの…… 後で詳しく……」
キャラブレが酷い! けどまあ、キャラ作りと売り込み方で何とでもなる、気は進まないが、ゴマ摺っといて損は無いからね。
お参りが増えるか気にしていたので「オタクは聖地巡礼の習慣があります」と答えておいた、飽きも早いが実在の女神様なら色々な作品に出られるしね。
「あー ごほん! ……中々見所の有る人材の様で嬉しい限りじゃ、後でよろしくの、次に後ろに隠れとるのが装備開発製造担当の金屋子神じゃ、知っておるか?」
「もちろん、鍛冶神ですよね、ドジっ子でひき……」
「……黙れオタク、死体にするぞ……」
金屋子神様、ドスの効いた声で怖いです! そういや死体好きだった、何か良い切り口は無いものか……
「いえいえ、決して悪い意味では御座いません、オタク業界は人見知りドジ子技術系引き籠りは現在トレンドで御座います、今はお堅いイメージですが保護欲を刺激する萌系ならモテモテに間違い御座いません!」
「……オタクのお兄ちゃんは良い人……後で詳しく……」
お兄ちゃんってあなた、神様だし凄い年上ですよね! 潜在的なポテンシャルは高いけど設定を盛り過ぎた気がする、それに既存の信者はかなり多いから下手にイメージ弄れんのよ。
お祀りしている鉄鋼業者も多いから威厳も重要な筈、その当り聞いてみたが「既存の信者は我が子の様に可愛いし尊崇も嬉しい、だがモテでは無い」と…… 贅沢ですねー 気持ちは分かるけど。
「雑談はまた後でじっくりするとして、仕事の説明じゃ、金屋子は補足を頼む」
「……ん……」
「よろしくお願いします」
いよいよ仕事の説明で長くなりそうな雰囲気だ、現場の経緯を人界風に例えて説明してくれるらしい、そのまま説明したくても神様の多次元世界なので表現する単語が無いケースも多く更に人間には難解らしい。
難解なので神様の住む世界を町、世界をアパートに例えて説明してくれた、俺の仕事は地球から別の世界に引っ越して音信不通になった神様の調査らしい、だが日本の神様では無く欧州の神様、引っ越し先は隣町だが斜め向かいで近いらしい。
事の始まりは引っ越し先の斜め向かいのアパートで以前から住んでいた神様達が信仰を失った挙句に人間たちが大戦争を始めて文明崩壊、生き残りも5%以下で恥ずかしくて夜逃げしたのが約4千年前、その時空き物件になったらしい。
ちなみにアパートが星みたいなもので、町が世界の異なる宇宙の区切りと思ってほしい、で、隣町は魔法が有る世界
「神様も夜逃げって有るんですねー 思っていたより俗っぽい」
「分かりやすい様俗っぽくしておるのじゃ、地球も強力な兵器あるし他人事ではないぞ?」
「……ん……」
それで音信不通になった神様に戻るが、西暦0年頃にヨーロッパや中東を中心に自分たちの信仰が衰退するとの占いが出たらしい。
あー なんか分かった、一神教が流行りだす地域だ、と言う事は古代の神様か。
それで、町は変わるけど非常に近所でたまたま同じ建築業者だったために、地球と間取りがそっくりの空きアパート、つまり先ほどの夜逃げ物件が入居者を募集していた。
そして何故か日本神と仲の良かったギリシャ系神と、ついでに北欧系・ケルト系神もやって来て、同居予定でアレス大陸と言う部屋に引っ越したいからと保証人になって! と頼まれたのでつい認めてしまったらしい。
「神様…… 親兄弟以外で保証人とか、ダメじゃないですか!」
「儂でも断るな! 身内でも信用ならん! グッ…… なんか自分にダメージ入った」
「すみません、しかし、弱みでも? そう言えば、日本神話ってギリシャ神話に似ていますね、盗作?」
「そんなわけあるか! ……疑うのも怖いのでこの話は終わりじゃ、兎に角保証人になった」
「……ん……」
それから紀元前1000年頃から徐々に欧州系や、別部屋にも保証対象ではないが地球出身の神々も引っ越し始めた。
だが、最近になって同じアパートに引っ越した別部屋の地球出身の神様から、タレコミが有った。
「お宅が保証しているギリシャ系や北欧・ケルト系さん? 最近全然姿を見ないし連絡も取れないの、事件とかじゃないわよね? 引き籠りなら別にいいのだけど元地球組としては…… ね?」
心配になった日本の神様は、面倒ながら調べた所、300年程前から音信不通で、他にも以前から素行が悪く煩いので同じ家の別室の住民から騒音苦情が出ていた。
更に別の町で蟲が支配する珍しいアパートから「人族じゃなくて蟲が進化? おっもしれー」とか言って、蟲を勝手に攫ってそのアパートの神々と喧嘩するなど、色々やんちゃし過ぎで事件があっても全く不思議はなかった。
「その音信不通の状況調査が仕事ですか…… ほぼ事件としか思えませんけど! 何で保証しちゃったの?」
「儂も嫌じゃし、何で? と思うよ、ただ儂は昔のアレで断れないし、世界の揺らぎを予測できるのは儂の占いぐらい、上手く民事で解決できたらアレは帳消しと言われての……」
「いますね、大昔の失態を何時までも持ち出す上司、お察しします、で揺らぎとは?」
「何か軽く流された気もするが分って貰えてうれしいぞ、揺らぎか…… 風に例えるかの」
「……ん……」
実は神様も正確には把握していない「世界の揺らぎ」それは世界線の成長の余波と思われる、しかし、ややこしいので風に例えて説明。
たとえ保証人でも問題の多い神々とは出来れば無関係を装いたい、それに引っ越した以上は保証人でも他人の家なので勝手に入るのも不味い。
でもボロイ家で風が吹くと換気扇の蓋が開くなんてことがある、それと似た現象で僅かな隙間が出来るので、其処に調査員を送り込むのである。
「……こ、こすい…… 何かもっと真面な手段は無いのですか?」
「すまんのう、異世界管理局に頼んで万一事件じゃったら即刑事事件じゃ、幸い民生委員はノックだけ、元地球神が協力するから状況さえ分れば事故に偽装出来るのじゃ」
刑事事件とか区別するなら神様も逮捕とかあるのか? 民生委員は神様で持ち回り?
「上は最悪事故で消防が限度と言っておる、換気扇方式でも3年で調査員2人が潜入出来た、実績は有る…… 頼む、出来る限りでよい、少しでも状況を掴んでくれ!」
「……ん……」
例えは分かりやすいが、神界まで世知辛く見えてきたよ……… 調査員の話に変えよう。
「出来る範囲ですが仕事はします、前の2人ですか、どんな状況か詳しくお願いします」
「よう言うてくれた! 「命を掛けよ」とは言わんし、儂らも気合入れて援助するぞ!」
「……ん……」
一人目は異世界転移を望んだ学生、支援要求は魔力チートと剣道やってから有名な刀と鎧、厄介なのはスキルとかアイテムボックスとかを所望した事、これが結構難題だったようだ。
「最近よくあるパターンですね」
「まあ、のう、ゲームやラノベの影響じゃの、でも難しいのじゃ」
刀と鎧はいいがアイテムボックスは無理、世界の揺らぎを占って換気扇の隙間待ちしている様な神ですよ? 異空間を内包した入れ物? 作れる訳ないやん。
スキル? 各種専門家をよんで可能な限り指導したらしい、途中で投げたみたいだが。
魔道や魔素は現地に有るけど、そもそも物理世界の生き物に魔導を操る器官なんてありません。
そこで隣町の情報を元にウイルスで細胞の遺伝子操作をして、魔素の魔力変換機能追加、脳改造手術で人工魔導発動器官を埋め込んだ、よく頑張ったと思う。
「本人は不満でしょうが、出来るだけ要望に応えようとした誠意を感じますね」
「まあな、現地の情報が殆ど無いし、本人は乗り気だったが無茶な依頼だったしのう」
「……ん……」
「何となくオチは想像が付きますが、一応教えてもらえますか?」
脳改造で人格が変わったのか、チートで傲慢になったのだろう、威力は破格だが覚えたのは初級魔道だけ、他の技術も訓練を投げ出したので中途半端、剣道は剣、刀はあまり向いてない。
それでもハイスペックな基礎能力で結構強く、己惚れてしまった。
戦争孤児院を自費で営む篤志家の院長相手に、顔つきが悪いからと言う理由で子供を騙す悪徳奴隷商と思い込み、一方的に戦いを挑んだが実は院長は元歴戦の勇士であっさり敗走。
しかも逃げぎわに助けた積りで何人か攫う、最後は就寝中に攫った子供に誘拐犯と思われ刺殺される。
「……人選ミスでしょう? 思い込みも酷いですが、基礎能力が高いだけでその世界の玄人に挑むとか…… 無謀すぎ、それに行動前に観察して考えれば誤解と解かりますよ」
「元は正義感の強い好青年じゃ、原因は脳手術と思う、それに選んだ儂の責任じゃ…… あの時は金屋子も装備や手術で手伝ってくれたの、何時もありがとう」
「……ん……」
「何時もの事だが「……ん……」しか無いと寂しいのじゃが……」
「まあまあ、鍛冶神と言えば職人、専門分野なら違いますよ、それで二人目は如何なりました? 生存していますか?」
「ああ、奴な…… 奴隷ハーレム作って逃げよった…… リア充死ね」
「……ん……ハーレム坊死すべし……」
「ん」以外しゃべりましたよ! しかもハーレム坊死すべし、まあ、同意ですけどね。
二人目は商社マン、名前は日野敏明、色んな国を飛び回っていたし、交渉や情報収集もお手の物、調査に適任ですね、望みは現地で買った奴隷を何人か地球にお持ち帰りと職の保障、更に家付き無人島とクルーザー等が要求報酬。
「……社員採用が望みの俺って慎ましいですね……」
「初期条件が違うからの、職も金も実力もあってイケメンでモテるリア充じゃ、高くて当たり前じゃな」
「よく引き抜けましたね、そんな人が何で奴隷なんです?」
「見目は良いが内面に難の有る女ばかり当たった様じゃ、女は信用できないからいっそ奴隷がいいのじゃと、それでそろそろ国内で落ち着いて、休暇は奴隷を侍らしてクルージングを楽しむ予定だった様じゃ」
「ああ、一種の人間不信で疲れちゃったんですねー ある程度稼いだら奴隷に囲まれ、楽隠居したかったのでしょう」
「淡白な反応じゃのう、裕福な生まれ、顔良し、才能有り、苦労もなく親の会社に就職、海洋冒険マニアで海外出向も自ら志願、内面を除けば女にも不自由しとらん奴じゃが?」
「…………死ねばいいのにと思います…………」
「……生まれや種族は違えども、今この時をもって我らは同志じゃ、よろしくの」
「……ん……」
二人目の商社マンに話は戻る、彼の希望に合わせ遺伝子操作で魔素対応、脳手術無し、身体強化能力は魔力だけで問題ない様だ。
装備は元々杖術皆伝なので扱い易い槍、防弾防刃服、前任者の残した現地貨幣、あとは黒色火薬、鉄砲、大砲、帆船等の製造許可。
異世界条約で現地に無い技術の伝播は禁止、だが本人と日本神に誓いを立てた従者は例外なので現代技術は使用可なんだとさ。
「趣味丸出しで楽しそうすね! 海上交易で稼ぎつつ内陸を出来るだけ避ける方針で?」
「うむ、海が安全という訳ではないが、現代技術も取り入れたスループと言う三角帆の船を作った、ライフリングしたカルバリン砲装備の快速武装商船だな、海龍やクラーケンの生息地域等を避ければ安全で手堅い方法じゃ、商売も上手いし、欧州の言語やラテン語も堪能じゃし」
「……ん……見た目は小さなカルバリン砲、けど別物、海が荒れてなければ1km先でも船ならまず当たる、導火線式の榴弾や焼夷榴弾も有る、薬莢は無いけど後装式、駐退機の代わりに傾斜レールで工夫している、距離だけなら5kmは飛ぶ」
珍しく長文です、1km射程クラスの魔導師は高位軍属か宮廷勤め、海賊は精々バリスタか投石器、基本は弓と白兵戦位、スループは帆船だが風の精霊術が使える奴隷も居たようで無風の心配もない。
滑車や歯車など単純な機械化で少人数化、人件費も削減でき無風で困る事も無い、そら儲かるわ。
実際やや遅い進捗だが優秀で着実に情報を集め、地図、国、文化と言った海洋で得られる情報はかなり集まった、ただ内陸調査に移って直ぐに失踪した。
「内陸調査苦手そうですね、で逃げたと…… 前兆は有ったのですか?」
「いや、奴は優秀で本人は陸でも問題無かった、ただの…… 奴隷だが、かなり稼いだようで12人も買いよって、まあそれは約束、別に良いのじゃ」
いいのか? 12人、まあ俺は多すぎても面倒と感じるタイプだが。
「じゃが、地球と違って奴隷が出来た娘ばかりでの、元々日本人じゃし、気に食わんが根は良い奴じゃ、性格の出来た娘を奴隷として縛る事に罪悪感を覚えおった」
異世界の女の子は性格もいいのか、期待できそう。
「お金を与えて全員解放しようとしたのじゃが、イケメンの金持ちで優しいから、全員ずっと一緒に居たいと要求して結局、結婚、相思相愛全12夫人じゃ ……リア充は死んで良い」
「……ん……」
「すごくもげて欲しいですが…… いい話じゃないですか、何か問題が?」
「……ん……もげろ……」
「いや、別の意味でヘタレでの、どの嫁か分からんが「妖魔と戦い嫁が死に掛けたので調査を放棄します、出来るだけ奉納するので見逃して下さい」じゃと、困ったら、たかって良い」
奉納品は結構すごい、先ず現地の金、結構な量のミスリル、それなりのアダマンタイト、そして秘宝龍玉。
先ず無いが、討伐されたり自然死した死骸から剥ぎ取られた水龍の魔核、膨大な魔力タンクで有り、津波を起こしたり嵐を呼べ、値段は城並みとか。
「最後の凄いですね、これあったら危険なんてないのでは?」
「人間が使えば制御できずに災害が起きて龍玉も無くなる、使い道は決まっておる」
「この量だと、どれ程換気扇に張り付いていたのですか?」
「徴収は義務、時空の大嵐もあって半年で何とかの、金屋子と協力して回収した、頑張った」
「……ん……」
「さて、そろそろ涼太の調査計画と行こうかの」
今までの経緯だけで疲れたけど、とうとう次は俺の話の様だ。
補足**********
世界線:相対性理論用語ですが、本作品では時間の経過で成長し、可能性で枝分かれする木の枝の様な者で、多数の並行世界を繋ぐ物として扱っています、北欧神話のユグドラシルとは別物の意味で神々が世界樹と呼ぶ場合がある
妖魔:妖人と魔獣の総称、この作品では人型や獣型のモンスターの事
天探女:天照大御神を裏切った経験のある女神様
金屋子神:鍛冶屋に信仰される女神様で西日本特に中国地方に縁がある
異世界管理局:多数の世界を管理する神様より上位の行政機関
ラテン語:欧州の言語だが日常で使われる事は先ず無い、現地は古代でラテン語に近い
「たかって良い」:たかる、お金をせびる行為などに使われる、女神様的には金以外も対象
拙い文章ですが読んでいただいた方に感謝