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死の惑星に安らぎを  作者: 京衛武百十
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雨季

「姉さんはもう死んでるのか…?」


縋るような目で問い掛けてくる少年に対し、エレクシアYM10は冷たく、


「そうだ…」


とだけ応えた。その言葉に蒼褪めていく少年のことを気に留める様子もない。


「あれの頭の中にあるのは人間の脳じゃない。カビの塊のような白い物体が詰まってるだけだ。それが生きた人間だと思うか?」


「……」


容赦のない問い掛けに、少年は応えることができなかった。親に捨てられ、おかしくなってしまったとは言え唯一の家族だと思って一緒に暮らしてきたそれが人間ではなかったという事実が少年の心をどれだけ抉ったのだろうか。


いや、彼も薄々は分かっていたのだ。自分は成長するのに姉の姿はいつまで経っても変わらない。トイレのない地下室に監禁しているのに排泄物の臭いもしてこない。それらは、姉の頭がおかしくなったというだけではなく、姉が人間ではない何かになってしまったことを表しているのだと、家に残された映像ソフトなどを繰り返し見ていて得られただけの知識しかない彼にだって分かってしまっていた。しかしそれを認めたくなかったのだ。


エレクシアYM10はそれ以上何も言わず、ただテーブルに突っ伏した彼の姿を眺めていただけだった。


すると外からは、雨の音が聞こえてきていた。湿った空気からも分かっていたが今は雨季だったようだ。しかも時間を追うごとにそれは強さを増していった。


『これは、マズいかも知れないな…』


この集落がある谷に降りる際、エレクシアYM10は周囲の地形を観察していた。剥き出しになった岩肌に残された痕跡などから、ここは五十年から百年に一度程度の割合で洪水が発生していることを推測していたのだった。


恐らくそれはここに居を構えた人間達も知ってはいたのだろう。その為、一度はここに住んだもののやはり住み続けるのは無理だと判断して離れたに違いない。


降り始めからの雨量は、視覚情報からの概算だけでも千ミリに達していると思われた。窓から外を見ると、僅かな水量しかなかった筈の川が、今では轟々と地響きすら感じる激しい濁流と化していた。この辺りの気候は乾季と雨季の差が極端なのは予測できていたが、これはそれ以上かもしれない。


水位が明らかに危険なレベルに達した時、エレクシアYM10は、死んだようにうなだれて生気を失っていた少年に対して声を掛けた。


「落ち込むのは勝手だが、外は既に災害警戒レベルだ。早く避難しないと私は無事でもお前は助からないぞ」


そう言われて少年はようやく頭を上げ、窓から外を見た。


「な、なんだよ、これ……」


少なく見積もっても十数年ここで暮らしていたであろう彼のその言葉が、尋常でない事態になっているということを表していたのだった。



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