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死の惑星に安らぎを  作者: 京衛武百十
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知らされた真実

少年の言葉を黙って聞いていたエレクシアYM10だったが、そこには明らかな錯誤があることが彼女には分かっていた。少年は姉がおかしくなってから両親が帰ってこなくなったというような説明をしていたが、それは間違いなく彼の思い違いだ。彼らの両親は、姉がおかしくなってから帰ってこなくなったのではなく、恐らく出掛けた先でCLSに感染・発症し、帰れなくなっただけなのだろう。それ以来、この少年は、CLSを発症した姉と二人だけでここで生きてきたのだと思われた。


彼の<姉>との面会の後、エレクシアYM10と少年はリビングでテーブルに着いていた。


家の中を見回すと、ゴミ箱と思しきバケツに食料用のパウチが捨てられ、その脇にはおそらくこういう不便なところで暮らすにあたって長期間買い出しに行かなくても家族が生活できるようにと備えられたらしき大型の食糧庫があった。その様子から、食糧庫の中には長期保存が可能なようにパウチされた食料があるものと思われた。少年はその食料を食べたことで生き延びたのだろう。


少年の<姉>がいた地下室には、少年が姉のために投げ入れた食料品の残骸の痕跡があり、しかもそれを餌として、ダンゴムシに似てはいるがその大きさは二十センチほどにもなる虫が繁殖し、姉はその虫を食料としていたものと推測される。


「姉さんがおかしくなって僕も怖くて近寄れなかった。姉さんは地下室から出てこれなかったから、食べ物だけは投げ入れてたけど、そのままにしておいたんだ。なあ、姉さんの病気、治るのか?」


この少年が十五歳くらいだとするなら、パンデミックが起きた時にはまだ五歳にも満たない幼児だっただろう。彼にはここで起こっていたことの知識がまるでなかったのだった。


「何が起こったのか知らないのなら教えてやる…」


エレクシアYM10はそう言って、テレビを指差した。それを見た少年が、


「テレビはどこも映らないぞ。故障してるらしい」


少年は、テレビが映らないのは故障の所為だと思っていたようだった。だが、当然、そうではない。それに、エレクシアYM10がテレビを指差したのは放送を見る為ではない。メイトギアが持つ機能の一つとしてテレビの電源を入れ、画面をLANに切り替え、他のメイトギアから取得し自身のメモリー内に残されていたニュース映像をテレビに映し出した。それはもちろん、リヴィアターネの惨状を伝えるニュースだった。


「……!」


少年は、言葉もなかった。だが同時に、自分の置かれた状況も理解したようだった。


「姉さんがおかしくなったのも、父さんと母さんが帰ってこなかったのも、この所為かよ……」


ニュース映像を見た後、彼はテーブルに手をついて頭を抱え、震える声でそう呟いたのだった。



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