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死の惑星に安らぎを  作者: 京衛武百十
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墓

即死だった。優に二十メートルはある高さから飛び降りては、生身の人間などひとたまりもなかった。


緊急事態にタリアP55SIは瞬間的に緊急対応モードに切り替わり、アンナを助けるべく最大稼動したにも拘らず、僅か数ミリの差で届かなかった。


タリアP55SIは一階フロアに難なく着地したものの、アンナは頭から叩きつけられ、無残な姿となったのだ。


「なんで…? どうして…?」


血まみれで横たわるアンナの姿を見下ろしながら、そう呟く。


メイトギアには、人間の心理を察知する機能が与えられている。なのに、この時のアンナの表情からはこの結果が読み取れなかった。


あれほど落ち着いていて、人間としての心も回復の傾向を見せていた少女がどうして突然こんな行動に出たのか、タリアP55SIにはどうしても理解できなかった。


だが、それは、心が戻ってきたが故のものかもしれない。<心>を持たないメイトギアにはどうしても理解できない機微が、そうさせたのかもしれなかった。


アンナは、心が戻ってきたが故に耐えられなかったのではないだろうか。目の前の現実に。


自分以外の全ての人間が怪物と化し、母が父に襲いかかって腕の肉を喰いちぎり、必死の思いで事務所に逃げ込み辛うじて命を繋いだ。それからは何体かのロボットも一緒だったが実際には怪物だらけの世界で父親と二人だけの生活が始まり、その父もある日を境に突然いなくなってしまった。その孤独と恐怖の中で少女は固く心を閉ざし獣のように振る舞うことでようやくバランスを取っていたのだと推測される。


しかしタリアP55SIが来て自分を大切にしてくれて精神的に安定してくるほどに現実が思い出されてしまい、そこには絶望しかないことを思い知らされてしまったのかもしれない。だから少女は、父や母がいるであろう場所に行こうとしたのだと思われた。


人間が言う<天国>、もしくは<あの世>とやらに……


その一瞬、アンナは幸せだったのだろうか。だからこそ、タリアP55SIには彼女の心理が読み取れなかったのか……




それでもタリアP55SIは、自身の日常を繰り返そうとした。アンナがいなくなったことで表情を作る必要がなくなり冷たい目をするようになっていたが、モール内に残っていたCLS患者の処置を淡々とこなして、乱れた店内を整え、掃除をし、商品を展示しなおし、あたかも今でも営業中であるかのように綺麗にしていった。


その途中、薬局の近くで白骨化した男性の遺体を発見し、それを、モールに隣接する公園の芝生に穴を掘って埋葬した。アンナを埋葬したその隣に。薬局に薬を取りに行ったまま帰らなかったアンナの父親だと推測したからである。アンナの墓を挟んで反対側にも一つ、墓が築かれていた。父親の日記にあったサオリと思しき女性の墓だった。


もっとも、その墓に埋まっているのは、サオリと思われる女性が身に付けていたであろう衣服だけなのだが。


リヴィアターネに投棄されてから既に一年近く経ち、タリアP55SIは気付いていた。活動を停止したCLS患者の体は、腐敗とは違う形で崩壊し、やがて骨さえ残さず塵になってしまうということを。だから、アンナの父親の日記の記述に符合する位置に、まるで誰かが着ていた通りのままに放置されたかのように残されたワンピースがサオリのものであると推測し、それを埋葬したのであった。



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