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死の惑星に安らぎを  作者: 京衛武百十
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少女

フィーナQ3-Ver.1911は、困惑していた。それと言うのも、数日前にある住宅の物置で発見したCLS患者が、自分がこれまで対処してきた者とあまりにも様子が違っていたからだ。


それは、推定年齢八歳から九歳くらいの少女のCLS患者だった。CLS患者の筈だった。


通常、CLS患者はその外見からして、生きている人間とは思えない姿をしている。体液の循環が不十分な為に部分的に壊死して腐敗が始まっていたり、他のCLS患者に襲われた時に食いちぎられるなどして損傷が激しいのが一般的なのだ。たまに大きな損傷がない個体がいたとしてもやはりその肌艶は悪く、ほぼ死体のそれと変わりないことで一見してそうだと分かる。


なのに、今、彼女の前にいる幼いCLS患者は、小さなかすり傷の痕はあるものの大きな損傷は見られず、しかも若干顔色が悪いようには見えつつも、生きている人間でも十分にあり得る程度のそれだったのだ。


それでも他のCLS患者と同じように自分に襲いかかり、今も懸命に腕に食らいついている上に、バイタルサインを確認すれば脳波も心拍も検出出来ないのだから間違いなく人間とはしては死んでいる。損傷が少ないのは、物置に閉じ込められていたことで、他のCLS患者に襲われて感染するのではなく空気感染したからだろうと思われた。


だが……


こうやって自分の腕に食らいついてる様子にしても、ロボットである自分にとっては普通の子供がふざけて甘噛みしているのと何ら変わるところがなく、むしろ懸命にかじりついている姿が愛らしいとさえ思えてしまうのだ。


メイトギアには心はないので人間が思うそれとは若干違うものの、人間の子供が愛らしい仕草をして見せればそれを『可愛い』と思うようには作られている。このCLS患者の少女の様子は、その条件に十分に合致してしまうのであった。


故に彼女はそのCLS患者の少女に銃を向けることが出来なかった。少女が既に人間ではないことは分かっている。安楽死させることがこの少女の人間としての尊厳を取り戻すことになるのだということも分かっている。少女に安らかな死を与えることが自分の役目だということも理解している。


けれど、できない。彼女にはどうしてもそれができなかった。


『この子は人間ではありません。でも、人間じゃないからといって殺すことが必要なのでしょうか……人間とは別の生き物として見れば、十分に生きる意味のある生物ではないのでしょうか……』


そんな思考が彼女のメインフレームを支配し、決断することが出来ないまま数日が過ぎてしまった。


そして少女は今も、彼女の傍にいる。彼女が捕まえた昆虫などを与えるとそれを貪り食い、満足すると呆けたように大人しく景色を眺めていたりしたのであった。



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