第4話 ~日向side~
ラッキーなことに佐々岡先生から渡された紙の束は、今日入学してくる奴らの名簿だ。
急用ができた佐々岡先生の代わりに、新入生のチェックを30分ほどではあるが俺らが担当することになった。
この名簿を見れば、俺の2年間恋い焦がれた人物がいるかどうかが分かる!
そう思ったのだが…
「…嘘…だろ…?」
俺は紙の束を長テーブルに広げながら
正面玄関で愕然とする。
「まぁ…仕方ないね」
ポンッと、気まずい顔をして蒼弥は俺の肩に手を置く。
「なんで…なんで無いんだ…桂木 湊…」
呟いて再度血眼になりながら、俺は名簿を見返す。
6クラス分の名簿だ。
それなりに人数がある。
きっと見落としたに違い無い。
そんな俺に蒼弥は、
「…諦めも必要だと思うけどね」
ギシッ…と、パイプ椅子に深く腰掛け直す。
そして、手元にある名簿を同じように見返す。
「…蒼弥…?」
「もう一回見てみよう。な?」
と言って蒼弥は俺にウィンクする
「そうやぁぁぁ…」
力強い言葉に、俺は半分涙目になる。
「泣く暇あったらまず、見返せよ」
ペシッと、名簿の束を俺の顔面に叩きつける。
「ぶぇっ」
「すげぇ声でたな。…ほら、ここ日向の涙で汚れたじゃん」
「マジで?怒られるかなー」
俺は、名簿を覗き込む。
「ココなら問題ないでしょ」
と蒼弥が指差す。
その指をさされた箇所を見て
「…っ…⁉︎」
俺は目を見開く事態が起きた。
「ぇ、何?」
「…俺って馬鹿…なのかな…」
俺の呟きに鼻で笑いながら蒼弥は、
「何を今更」
バッサリと言い切る。
「どういう意味だよ」
「ケツから5位のお前だしね」
で、どうしたんだよ?と付け足して、蒼弥も名簿を覗き込む。
「この…高校名…」
「…?俺らの高校の名前じゃん?…って…まさか」
冗談だよな?という顔をして蒼弥が俺の顔を見る。
俺はフルフルと首を横に振り
「…桂木…湊に俺…間違えた高校名教えちまった…」
「…そりゃ、名簿に無いわけだわ」
ハァ…と溜息をついて、ズルズルとパイプ椅子からずり落ちる。
「…で、何て教えたんだ?」
「…馬鹿にするなよ?」
「んー…それは答え方次第だね」
ニヤニヤと蒼弥は俺を見る。
「晴南第三高校って書いた紙を渡した気がする…」
自分の馬鹿さ加減に顔が熱くなるのが分かる。
「晴南第三高校って…校則が緩い代わりにメッチャエリート高校じゃなかった?」
蒼弥は笑をこらえながら俺を見る
「いっそ、笑ってくれ」
俺はそう言って、長テーブルに突っ伏す。
そう…俺らの通っているこの高校は
晴南第三高等学校と姉妹校。
青南第二高等学校だ…。
理事長同士が三兄弟なんだとか。
名前がややこしすぎるだろ…。
「…普通、自分が通う高校名間違えて覚えなくね?」
「う、うるせぇっ。俺だって何で間違えたか分かんねぇんだよ!」
「まぁ〜…怒るな怒るな」
ドウドウと、俺を蒼弥は鎮める。
「俺の2年間なんだったんだぁぁあっ」
俺の虚しい声だけが
正面玄関に響き渡った。