3 根村亜透
★★★
「ど、どうしてですか!?」
異世界警察署『異世界No.2地球連続変死事件』の捜査本部の会議室にて、女が机を叩いて上司に講義をしていた。女の後ろには男が腕ん組んで立っている。
モニターには『爆颶蓮雄』の顔写真からプロフィールが全て映し出されている。
今、この会議室に10人以上はいる。
「落ち着けヒョウカ」
「落ち着いていられるもんですか!……なんで私の息子が容疑者なんですか!?」
爆颶蓮雄の母親、爆颶氷花は自分の息子を容疑者にされ、上司に腹を立てていた。
だが、
「養子の身だ。しかも、過去のあの事件の張本人だと言うじゃないか。こんな事件を起こしても不思議ではない」
「そんなの関係ありません!今の蓮雄のことをよく知ってるのは、親である私達です!あの子が…あの子がこんなことをするはずがありません!」
「犯人の親というものはよくそういうことを言う」
「な……!」
「そこまでにしておけヒョロリン」
と、後ろから爆颶斬炎。
「……斬炎さん……仕事中はその呼び方やめてください、って何回言ったらわかるのよ――」
「――デジャブ!」
あの言葉間違ってませんか?
「……まぁどうやらニルバナ王国女王ニューヘル・ゴルンと入れ替わっているらしいからな。逮捕する体はニューヘル・ゴルンだ」
「待ってください!何故逮捕なんです!?証拠はあるのですか!?」
「証拠?……そうか、お前達には聞かせてないな。爆颶蓮雄から音声が届いてな。これを聞いてくれ」
と、テーブルの上に出された水晶から音符のマークが浮き出てきた。
この水晶は、映像・音声などを録画・録音できる水晶だ。その他にも、ダウンロードやダビングなどの多彩な機能がある。一種のパソコンみたいな感じだ。
音符のマークということは、音声ということを示す。
[俺の名は爆颶蓮雄。警察方のご存知の通り、俺とヘルは入れ替わっている。しかし、今特殊な力によって数分だけ元に戻っている。……単刀直入に言おう。異世界No.2地球で起きている不可解な事件の犯人は………………………俺だ。多分、父さんも母さんも聞くだろう。……………犯人は俺だ。だが、そうすぐに警察に捕まるわけにはいかない。だから警察ども…………俺を捕まえてみろ]
そこで音声はなくなった。
その声は間違いなく爆颶蓮雄のものであった。そう、聞きなれた息子の声である。
だが、氷花には納得がいかなかった。何かが違うのだ。そう、『何か』が違う。
斬炎は先程氷花に殴られた顔をさすりながら歩いてきた。……いやどこまで飛んでったんだよ……。
と、上司―燃咲伯楽―がしゃべり出す。
「分析の結果、間違いなく『爆颶蓮雄』のものであることが一致した。つまり、これは間違いなく『爆颶蓮雄』からの挑発文だ。――決定的な証拠だろう?」
「…………」
何も答えることはできなかった。
氷花は信じているからだ。
自分の息子はやっていないと。
「……今は息子は何処にいる?」
斬炎は真顔で聞いた。
斬炎も氷花も居場所を聞いていない。
「――知ってたらとっくに逮捕してるだろ」
「……そうか……」
当たり前だろう。
分かっているならとっくに逮捕しているはずだ。
でも……親なのに、息子の居場所を知らないというのは……親として失格ではないのだろうか。だから、知りたいという思いが出てしまったなのかもしれない。分かっていても聞いてしまう。そんな心配の親心は当然ながら2人ともある。だから――
「バグ・ヒョウカ、バグ・キエンに命ず。事件が終わるまで一切『爆颶蓮雄』に関わるな。そして……自宅謹慎を命ず」
――この言葉はとてつもなく辛いものであった。
★★★
ゼロに連れられて今、『優凪ヘル』の病室に向かっている。まぁ中身は『爆颶蓮雄』だが。
何故か心臓がバクバク鳴っている。
一応点滴をしながら歩くのでガチャガチャガチャガチャ横で金属音が鳴っている。むっちゃうるさい。
そして、病室の前に着いた。
この部屋の中で何があるのだろうか?いや、誰がいるのだろうか?『あの子』とへ誰のことであろうか?……全くわからぬまま私は病室の中に入った。
当たり前だが、機械の線にいっぱい繋がれて横たわる優凪ヘル―爆颶蓮雄―がいた。
中に入り、ゼロに椅子に座るようにすすめられ、私は甘えて座った。それに続くように、オッサンで腰が弱いからだろう、遠慮なくゼロも座った。オッサンならディーダに鞭打ちされたら死ぬけどな。
さて、病室に着いた訳であるがその『人』がいない。一体誰から聞くのだろう?と不思議に思っていた時。ゼロが口を開く。
「……さて龍架殿……あなたは初めてお会いする方です」
と、ゼロがヘルに向かって顔で合図した。
そして殴られた。
瞬殺であった。
多分ゼロの合図の顔が相当気持ち悪かったのだろう。ヘルを怒らせてしまったようだ。
「……さぁ出てきていいぞ――亜透――」
ヘルがそう言うのと瞬間。
蓮雄の体が淡く光出した。
何事か、と思い反射的に呪符を構えると、ヘルに肩を掴まれて静止させられた。
その光はだんだんと大きくなり、やがてこの病室を覆った。あまりにその光が強すぎて、私は目をつぶってしまった。
そして、光が消えて目を開けると。
――そこには小学生低学年と思われる少女が、蓮雄の股間から頭を突き出していた。
ナニシテルノアノコ……?
「おい何してるんだ亜透……殴られたいのか……?」
「ヘルさんかおがこわいですよー?」
「うん真面目に殴るわ」
と、拳を振ると。何故かゼロの股間に直撃した。
「ウォッホゥ!」とかいう意味不明な言葉を発しながら倒れたけど気にしないでおこう。
それよりなんでこの子股間から頭出してるの?てかこの子誰?てかこれ何?
「はじめまして龍架さん!わたしはコンピューターウイルスというウイルスのねむらあずきです!根っこの根に、村長の村に、亜米利加合衆国の亜に、服が透けてオッパイが透けて見えるの透で、根村亜透です!よろしくおねがいします!」
とても小学生低学年とは思えないクソな自己紹介に呆然としてしまう。何故だろうこのゼロとかと同種の匂いがするのは……私の気のせいだろうか?
コンピューターウイルスとは何なのだろうか?
もう何がなんだかわからない。
蓮雄とは言っているが体はヘルだ。その股間から頭を出しているということは……うん変態さんですね。
……それより、何故この子は私のことを知っているのだろうか?
まぁそれも答えてくれるだろうけど。
「龍架さんがおもっていることはわかります。でも、そこまでいくのにすこしはなしをしなければなりません」
「わかりました」
「……まず、わたしについてですが、さきほどいったとおり『コンピューターウイルス』です。コンピューターウイルスとは、異世界を支配するコンピューターないぶにしんにゅうし、のっとるウイルスのことです!わたしはその『コンピューターウイルス』が実体化したものです!」
うんつまり悪い子というわけね。
「それで、ホリスモ王国をのっとっていたのですが、1週間前〈異賊暴〉などがしんにゅうしてきたせいで、コンピューターがぶっ壊れてしまったのです。そのとき、わたしはこわれるすんぜんにホリスモ王国のコンピューターからぬけだしたのですが……どうやら、そのさいにわたしがふたつにわかれてしまったようで……1つはこの『優凪ヘル』……『爆颶蓮雄』に、1つはある異世界にとんでいってしまいました。そして、本体のほうであるわたしは、この体をお借りしていきているわけであります!……わたしは爆颶蓮雄の魂にいるわけですから、この体を動かすことができます!ですが……いまのわたしにそれはできないんです。もう片方の、異世界にとんでいってしまったほうのわたしとこのわたしが合体すれば、この体をうごかすことができます。……龍架さんのぎもんのかいとうをすると、魂にはいったときに、爆颶蓮雄のきおくもインプットされたわけです。だからわたしはあなたをしっているのです。………………わたしはもうここから離れることはありません。爆颶蓮雄という魂が消えるまでわたしはでられません。つまり、わたしがここからはなれるためには、爆颶蓮雄の魂をころさない限り、わたしはここからでられないのです。ですが、わたしはころしたくはありません。なぜなら……この方がわたしをここに呼んだのですから」
この方……つまり爆颶蓮雄だろう。しかし、呼ぶとはどういうことなのだろう?
話変わるが、ヘルが亜透に出会ったのはつい昨日であるらしい。昨日、病室に行ったところお腹から何者かの顔が乗っていたという。まぁそれが亜透だったらしいのだがまぁ恐ろしい。だって生首っぽいものがお腹の上にのっていたんだよ?どんなホラー映画だ。もう発狂しすぎて股間が爆発するぐらいやばい。
小学生低学年だから仕方ないのだが、まぁよくわからん。何言ってるのかわからないわけではないのだが、何言ってるのかわかんない。これを言っている私もよくわかんない。もう何もかもわかんない。ゼロがなんで死んでるのかもわかんなーい。お医者さーん!こちらに死人がいますよー。
見た目も小学生低学年、中身も小学生低学年というわけか。まだ国語の勉強をしなければならないね。
この亜透が何を言っているのかわかんないが、なぜここにいるのかはわかる。
「……呼んだとはどういうことだ?」
「……おにいちゃんがわたしをきゅうしゅうしたのです。わたしがくうちゅうをさまよってうたをうたっていると、きゅうにひっぱられるかんかくがして、きづいたらここにいました。だから、おにちゃんがわたしをよんだのです!」
すごい聞き取りずらいが、なんとなくわかった。
この子を呼んだのは多分無意識だろう。だって意識的にだったら呼ばないもん。私絶対呼ばないもん。
「……あと一つわかったことがあります」
「なんだ……」
「おにいちゃんはいましにかけです」
いや、そんなことは誰でもわかっている。
「なぜしにかけだと思いますか?……それは、魂がほんのすこししかないからです。
……さいしょからせつめいしますと、龍架さんがむりやり魂を入れ込み、ばくはつしたときにはもう、おにちゃんはしにかけでした。……なぜだと思います?
……ばくはつした際、おにいちゃんの魂もばくはつしたからです。わかれたかずまではわかりません。ですが、おにいちゃんの魂が少ししか残ってないのはじじつです。
……そしてこんかいのしゅうげきのさいに、そののこりの魂がしにかけになりました。ただでさえしにかけでしたのに、そこからまたしにかけとなったため、おにいちゃんはいまこのような状態になっています。
……でも、じっさいならもう死んでいるはずです。ですが、わたしがその魂をおぎなっているので、なんとか死までとはいきませんでした。
……そしてとんでいってしまった魂たちはいま、おおあばれしています。最近ここら辺でおきているじけんありますよね?……そのはんにんはおにいちゃんの魂です。すがたはおにいちゃんではありませんが、まちがいなくおにいちゃんの魂です」
「なぜそんなことが……?」
「わかるのです。えいぞうが、わたしの中にもながれてきているのです。……わたしでもよくわかりません。でも、いまやるべきことはわかります。
――わたしのもう一つをほかくしてわたしと合体させること。
――ちらばったおにいちゃんの魂をかいしゅうすること。
この2つしかありません」
「ほう……」
「だから、わたしから命令します!優凪ヘルさん!都茂龍架さん!……わたしのもう一つをかいしゅうしてきてください!」
「別にいいが、場所は?」
「――ミュー王国です」




