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2 ――容疑者『爆颶蓮雄』

★★★

曇天の道を俺は歩いていた。山へと続く1本の長い道。なぜかはわからないが、ゴールはこの山を越えたところにあると感じていた。

なぜ俺は歩いているのだろう。歩く意味はあるのか?そもそも、なぜ俺は歩いている?

今にも降り出しそうな雨。昼間だと言うのに薄暗い景色。

広がる田んぼや草木、そして用水路。

自分以外、誰1人として人はいない。いる気配もないし、いた痕跡もない。

なのになぜ田んぼがあるのだろう、と疑問に思いつつ俺は――爆颶蓮雄は――終わりの見えない曇天の道をゆらりゆらりと歩く。


★★★

状況を整理しよう。

ヘル達から聞いた情報を元に、私は頭の中で整理することにした。

まず、1週間前私は〈異賊暴オーガ〉という異世界海賊の集団に拉致されたということ。

私は爆颶蓮雄を誘き出すための道具として使われた。

1日で起こるには壮大なことであった。私は、初めて1日が何週間も感じた日だった。

そして、私は爆颶蓮雄に助けられた。しかし、そこへ現れた〈浄土空宗じょうどくうしゅう〉トップ、ドット・モールにより、私の目の前で爆颶蓮雄は斬り殺された。その絶望とショックと恐怖により、私は意識を失った。ここまでは私が自ら見た情報。ここからは、全て聞いた情報である。

実際、爆颶蓮雄は死んではいなかった。その後、爆颶蓮雄とドット・モールの戦闘中に、爆颶蓮雄の妹、爆颶萌愛ばぐめあが威力調整を間違えた『爆発魔法』を撃ち込んだ。爆颶萌愛とドット・モールとの戦闘中、〈浄土空宗じょうどくうしゅう〉の信者の襲撃を爆颶蓮雄の親、爆颶斬炎ばぐきえん爆颶氷花ばぐひょうかから助けられたヘル達が、後ろからの不意打ち攻撃。そのあと、爆颶蓮雄が最後の力を振り絞って立ち上がる。数分間、喋った後「……体をこんなに傷つけて……ごめん……な」と言ったあと爆颶蓮雄は倒れた。それが最後の言葉だと言う。

その後、異世界警察が駆け付け、その場にいた〈異賊暴オーガ〉の連中は現行犯逮捕。牢獄送りとなったらしい。

優凪ヘルは爆颶蓮雄を自国の病院に連れていこうとするが、体が拒絶反応を起こし断念。結局、この病院へと運んだという。

はっきり言って、何がなんだかわからない。あまりにも急すぎる展開すぎて脳が追いつかない。

……病院の先生の話では、この傷で息していられていること自体が奇跡、だと言った。全身はボロボロ。腹部を貫通した槍が開けた穴。大量出血。普通の人間ならば死んでいる、と先生は言っていた。……先生は知らない。爆颶蓮雄は普通の人間ではないということを。それを知っているのはこの病院で私だけだろう。

……優凪ヘルの話でも、この傷で生きていられること自体奇跡、と病院の先生と同じことを言っていた。つまり、異世界人でもこの傷は死亡する確率が高いものだということだ。……本当に、何かの神でも付いているのではないか、と思ってしまう。

1番わからないのは、私がなぜ1週間も目を覚まさなかったのかということだ。……医者にも、ヘルにもわからなかった。

私は自分の病室のベッドで、窓の外の曇天の空を見ながら考えていた。

この頃、天候が宜しくない。ずっと曇天の日々だ。――私の心の中のように、ずっと曇天の日々だった。

トントン。

とドアがノックされる。私の返事を待たずにその人達は入ってきた。


「龍架殿……」

「……」


優凪ヘルと闢鬼びゃっきゼロだ。

闢鬼ゼロは、ニルバナ王国の情報屋で、大抵の情報は持っている。しかも、二刀流で空飛べてとチート並みの奴なのだが……欠点は、かなりのドM厨二病。50代のおっさんなのにドM厨二病って……ものすごい可哀想。

ヘルは学校の制服、ゼロは黒のスーツを着ている。ヘルは学校帰りだろう。


「……どうぞ」


私は2人に椅子に座るように勧めた。


「……いや、私はいい……」

「ではお言葉に甘えて」


ヘルは壁にもたれかかるようにして立ち、ゼロはベッドの横の椅子に座った。

……ヘルの体は蓮雄なので、とてつもない違和感がある。本人達は慣れたようだが、私はそんなに時は経っていないのでまだあまり慣れていない。


「まず、私を痛ぶってください」


ドコン!

壁が少し凹んだけど問題な――いわけないでしょ!?何やってるの!?


「ありがとうございます。できればもっと――」

「わかった――貴様、体調は大丈夫か?」

「いや、顔面殴り続けながら言われても……だ、大丈夫です」

「そうか。ならよかった」

「いや、そんな笑顔で言われても……顔に血が付いてますし……てか体蓮雄君のですけど……」

「あ、忘れてた……てことは……」

「ゼロさんの顔面の原型が――」



――ZERO(某ニュース番組風に)――




数分後。

なんとか原型を取り戻したゼロと3人で、改めて話に戻る。


「……そういえば、ヘルちゃん―ヘルさん?―ヘル……」

「今まで通り、へ、『ヘルちゃん』でいい」


いや、今までってまだ少ししか呼んでませんけど。出会って数ページ後には敵になってますけど。で改めてでてきたと思ったら誘拐されたんですけど。変態プレイ受けたんですけど。精神的にキツかったんですけど。

地味にツンデレかかってるヘルちゃん。……これってツンデレっているのかな?

……今思ったのだが、ツッコミ役の爆颶蓮雄がいなくなったせいで、ツッコミ役の人がいなくなってるんですが。まともなの龍架しか残ってないんですが。紀亜のりあはツッコミ役だけど、基本的ボケてるんですけど。つまり龍架しかいないんですけど。でも敬語ばっか使うから、ツッコミに違和感ありすぎて気持ち悪いんですけど。結果、まともにツッコミする人いなくなったんですけど。

これらの理由により1つ。

――爆颶蓮雄早く目を覚ませやゴルァ!


「へ、ヘルちゃん……用事は何かな……?」

「それは私の方から説明しましょう。この私の頭脳にかかれば、そんなもの一瞬です」


ゼロの性格追加――ナルシストっぽく言っているが、実際何言ってんのかわかんない――性格。長すぎ。

人差し指で側頭部のところをコンコンやる。……50代のおっさんが何やってんだよ。


「……まだ不明な部分はありますが、『バグ・レオン』について説明しましょう。

名前『バグ・レオン』本名不明。性別『男』本当かどうか不明」


あ、それは確かに不明ですね。


「年齢『16歳』。出身世界『異世界No.19アルレン王国』。7年前、親が殺され今の『バグ家』の養子になりました」

「養子!?」

「えぇ。今の家族とは誰1人として血は繋がってません」

「そ、そんな……」

「別にそこまで驚くことじゃない。……全部が全部この世界のように美しいわけではない」

「……」


龍架は納得はいかなかった。この世界は美しい?何を言ってるんですか?この世界の……どこが美しいのでしょうか?自分の利益しか考えていない無能な集団の塊……『残酷』という一言で片付けれます。


「……そして、今から4年前。異世界史上最悪の事件が起きたのです。……」


そして黙るゼロ。

何か?と思ったので聞いてみる。

〜龍架聞いてみたの巻〜

……。


「どうしたんですか?」


脳内でぼけたものを無視して冷静に聞く。


「……何故か、そこから先は私の情報収集力を持ってしても何一つわかりませんでした。何一つ……どうやら上が揉み消したそうです……まぁ私の憶測でしかありませんが」

「じゃあ――」

「えぇ。なぜ『バグ・レオン』は命を狙われているのか……その事を知ってしまったからです。……4年前の『豪炎の元旦』の生き残り……その中で、バグ・レオンとメーリス・アルボート……そして、あと1人……その3人がその事実を知ってしまったのです。メーリス・アルボートは〈異賊暴オーガ〉に吸収され命の保証はできました。バグ・レオンは何者かによって記憶を封印されました……ですが――」

「私の興味本位でやったことが、全ての引き金だったというわけですか……」

「――はい。都茂龍架によって、『記憶』が1部以外戻ったというわけです――が。実は、その事実の記憶は戻ってはないのです」

「え?」

「確かに記憶は取り戻しましたが、主に『アルレン王国』についてのことが曖昧なのです。つまり、みな勘違いしてバグ・レオンを殺そうとしているのです」

「そ、そんな……」

「そして残る1人。名前も情報も何もわかりませんでした。……多分もう殺されたのでしょう。つまり、今その事実を知っているのは、バグ・レオンとメーリス・アルボートただ2人のみ。……蓮雄殿が全てを思い出してくれれば、この戦いは終わるはずです。……ですが、今はそんなことを気にしている場合ではありません」

「他に何か?」


すると、無言で立ち上がりテレビのリモコンを手に取る。そして、スイッチを入れる。

映ったのは普通のバライティー番組だ。

そして、ゼロはテレビの近くに寄ると、テレビ画面に手をかざす。

手が青く光り出すと、テレビの様子がおかしくなる。

数秒後、映像はあるニュース番組へと変わった。

殺人事件の報道だった。

変死事件だという。それも5件。

しかし、これは今何の関係があるのか?――と思った時だった。


「――容疑者『爆颶蓮雄』」


その一言が病室にいつまでも響いた。いや、私の脳内で繰り返し再生される。

ノイローゼになりかけたその時。


「……確信ではないのですが……なぜかこの事件に『異世界警察』が動いているようで……」

「異世界……警察……?」


異世界警察とは、全ての異世界におけるトラブルや事件を解決をする部隊。まぁ地球で言う『警察』の異世界バージョンというわけだ。

異世界警察は、主に自国における他世界に影響が及ぶ事件のみ出動する。そして、他世界においても、他世界に影響が及ぶ事件について出動する。

……つまり、この事件は『異世界』が関与しているというわけだ。


「……そして――いえ、ここから先は私ではなくあの子に説明してもらいましょう」


私の心の中で雨が降り始めた。

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