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23 ――俺に死ねって言ってんのか!

★★★

「団長ぉ?何かあったのかよ?」


紀人と同じような格好をした者達が、藁人形に『神』の写真を貼って釘を刺して、そこのところを殴りまくっている紀人をマジマジと見つめる。……おい藁人形エラいことになってんぞ。

先程合流したばかりなのだが、恐ろしい笑顔で歩いてくるもんだから全員漏らしそうになってしまった。そして藁人形出して、こんなことし始めるし。もう藁人形の原型がなくなってるし、ほぼ壁を殴り続けてるようなもんである。なぜこんなに強く殴っているのに、この壁は凹むだけで崩れないのだろう?と疑問に思う団員である。

まぁ顔写真が『神』だから、『神』にイラついているのは間違いなさそうなんだけど、その理由がわからない。しかも、満面の笑顔で殴り続けてるもんだから、余計に恐ろしい。


「イヤ〜チョットネ〜」

「カタコトの団長マジこわ〜い」

「うるせぇよ。黙っとけ。今俺は無性にイラついてんだ。殺されたくなければ話しかけんじゃねぇ」


だから笑顔でそれ言うとマジこえっす。

まぁ団長が話しかけるなというのなら、俺達はそうするんだけれども。

ほかっておけば大丈夫だろう。


「じゃあ雑魚どもぶっ殺しにいくぞ」


と、命令を出した時。団長が殴るのをやめてこちらを振り返った。


「いや、その必要はないよ?今回俺らは傍観者だ」


先程までとは違う口調に声のトーン。そしていつも通りの笑顔で言った。


★★★


「貴様、本当にアゴ長いなアゴット人」

「アゴアゴうるさいわよ!」


一方、ヘル(体は蓮雄)はアゴット人を精神的に攻撃していた。うん精神攻撃。これもかれこれ何分間も攻撃している。ちなみに、この数分間で『アゴ』と発言した回数は1000回を余裕にこえる。つまり、数分間ずっとヘルは喋りっぱなしだったというわけだ。理由?そんなのヘルに聞いてみてください。


「……あなた本当に戦う気あるの!?」

「ない」


即答。


「なんでよ!?」

「アゴが汚くて触れないからだ」

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


とこのような会話をしたのは3回目だ。アゴット人は何回同じことを聞いてくるのだろう。精神的にダメージ受けるなら聞かなければいいのに。


「あ、そうだアゴリジニー」

「あなたアボリジニーの人達に怒られるわよ!?」

「……………………………………………………………」


アゴット人を見つめて黙り込んで数秒。


「……………………………………………………………アゴ」

「舐めてんのかゴルァ!?」

「……………………………………………………………汚い」

「だからそっちのなめるじゃないわ!」

「……………………………………………………………え?」

「え?じゃねーよ!………あら、言葉間違えちゃった♪」

「……………………………………………………………キモイ」

「いい加減にしろよゴルァ!てかさっきから何なのよ!溜めすぎなのよ!」

「キモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイ」

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ドカン!

と、突如アゴット人の周りに砂埃が舞う。

消えると、黒い鉄格子に囲まれたアゴット人が見えた。刑務所の監獄みたいな感じのものである。


「な……これは……!」

「まんまと引っかかりやがったな。これが作戦だ」


要約すると。

これは魔法である。

足止め魔法『プリズン』(ようやく魔法らしい魔法名がでてきた。まぁこの名前もダサいけどな!)。そのままの意味で監獄。魔法陣から標的を鉄格子に入れるというもの。この鉄格子はあまりにも硬いため、どんなことをしようが折れることもないし潰れることもない。ただ、これは相手が『怒っていて』かつ『精神的にダメージを受けている』時にしか発動できない代物。だからこうしてズカズカ言っていたのだ。


「……私が何の作戦もなく……あんなこと言っていたと思うな」

「……いや、一瞬言葉失ったのは何かしら?」

「そうだろうな、私が作戦無しにやる訳ないもんな」

「ついには自分で自分を説得し始めたけど……?」

「ハハッ!貴様はここで大人しく見ていろ!」

「バグ・レオンのことね……あなた……わかっていて何で近くにいるの?」

「何の事だ……」


ヘルはアゴット人に背を向ける。

アゴット人はアゴで浮きながら話している。


「あなた……わかっているでしょ?知っていて近づいているでしょ……?」

「……」

「なんの得があるの……?」

「得?何かをする為には、自分に利益がある時にしか動かないのか?……そんなの間違っている」

「あなた……」

「人の悪い部分だけを見やがって……いい所など1つも見てないくせに……あいつが……どんな思いで行動したと思っている……あいつがあの行動をしていなかったら、今頃異世界連邦は壊滅し、異世界体制は崩れ去っていた……あいつは大きな罪を犯した……しかし、それ以上に異世界全体に貢献したのだ……」


そう。彼女は知っている。バグ・レオンの何もかもを。

彼が大きな罪を犯したことを。

彼が異世界全体に大きな貢献をしたことを。

彼女は全て知っている。

そう行動しなければならなかった理由を。

大切な恩師を見捨ててまでやらなければならなかった理由を。

――彼女は全て知っている。

だからこそ彼女は彼を信じている。

だからこそ彼女は彼に近づいた。

だからこそ彼女は彼のそばから離れない。


「……それでも……私達はバグ・レオンを許さないわ……彼は……生き残りの中でメーリス以外に唯一情報を知っている男……まぁそれも何者かによって封印されたらしいけどね」

「何者か、か……」

「それは誰も知らない……バグ・レオンですら思い出せない人物」

「……そのうち蘇る」


★★★

空中戦というのは、飛べない者にとってとてもキツイものである。……というかキツイとかそんなレベルじゃないし。

蓮雄は空中戦で苦戦していた。上から無限に降ってくる敵。

殺した敵を踏み台にしてジャンプしないと上に行けない。しかし、上からまた敵が来るので、徐々に下がっていく一方だ。……全然上には上がれない。このままじゃいつか殺されてしまう。

フと疑問に思う。

……昔の俺ってこんなんだったか?

自分で言うのもなんだが、もっと強かった気がする。こんなに……弱くはなかったはずだ。恩師に教えて貰っていたのに強いわけがない。……何かがおかしい。

と、他ごとを考えていると剣術が鈍り、上から落ちてきた敵のハンマーが腹に命中した。

後ろに吹き飛ばされ、そのまま地面へと落ちていく。

と、瞬間、蓮雄が宙に浮いた。いや、浮いている訳では無い。

蓮雄は正方形の透明なガラスの中に入っていた。

どんだけ敵が上に乗っかろうと沈むことはなく静止状態。敵がどんなに攻撃しようとも、ヒビ1つ入らない。いや、多分敵の攻撃が弱すぎるのだろう。

これは蓮雄の仕業ではない。

一体誰の仕業だろうか。いや、悪くは無いのだが、知らない人にやられていると思うと安心はできない。ここにはほぼ〈異賊暴オーガ〉の者達しかいないはずだからだ。

瞬間、一気に急上昇した。……この浮遊感は気持ち悪い……。

一瞬で船へと着いた。しかし、目の前に広がるのは敵の大群。

俺を乗せた正方形のガラスは、その中央へと降りた。そして、バリン!という音とともに空中へ消え去った。

……あの?馬鹿ですか?アホですか?

……敵の大群の真ん中に降ろすとか……

――俺に死ねって言ってんのか!

誰かの「かかれー!」という合図とともに、その大群が四方八方から一斉に襲いかかってきた。


「ふん……」


蓮雄が鼻で笑う。そして剣を構える。その瞬間、剣に魔法陣が通る。

敵の剣先が蓮雄に当たるその瞬間、敵達が全て吹っ飛んでいった。船がグラりと大きく揺れる。その衝動でポロりと船から落ちていく敵が数名。

蓮雄から円状に25m以内にいた敵は全て真っ二つにされていた。

これは、山のふもとで使ったのと同じやつだ。

敵が注目しているところに、細長い炎に包まれた長さ25m程もある剣を持っている蓮雄の姿があった。


「さぁかかってこいよ雑魚ども」


数秒だけ静まり返ったあと。


【こ、殺せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!】


一斉に敵が襲いかかってくる。

しかし、蓮雄が剣を一振りするだけで多くの敵が切り殺されていった。


1分も経たないうちに、船の上にいた雑魚どもは消え去った。

船の上は地獄絵図だった。

しかし、今はそんなことはどうでもいい。

魔法の効果が切れて、普通の剣に戻った剣を持って船の中へと入ろうとした時。その扉の中から突風が吹き、大きく吹き飛ばされた。

起き上がると、その突風が吹いてきたところから1人の男が出てきて、船のてっぺんのところにはメーリスが腕ん組んで立っていた。


「久しぶり優凪ゆうなぎヘルちゃん〜……いや、爆颶蓮雄ばぐれおん君?」


その男に見覚えがある――春義丘高等学校3年、瀬月智哉せつきともや先輩だ。


「なぜ……ここに……?」

「なぜかってー?……僕が〈鷹蛇狼マルコシアス〉副隊長イナザー・レッカだからだよ」

「マルコ……シアス……!?」

「うん、君達を殺そうとした、あの〈鷹蛇狼マルコシアス〉だよ」

「な……!」


言葉を失う。


「そりゃ言葉失うわよね。ユーは弱いもの」


上から飛び降りながら言ってくるメーリス。綺麗に着地した後、レッカの横へと移動する。


「メーリス……!」

「ユー弱いくせにまだ生きていたとはね。なかなかやるじゃないの。弱いくせに」

「ちっ……」


弱い弱いを連呼するメーリス。……昔と変わらない。いつも俺のことを弱いと言ってくる。

いや、本当のことだから仕方がない。メーリスは俺よりも強い。


「それで……龍架ろんかとニルバナ王国の王子を返して貰おうか!」


顔を見合わすレッカとメーリス。

そして、


「いいよ?そんなに返して欲しければ返してあげるよ」


レッカがそう言いながら指をパチンと鳴らすと、外に出ていた棒が引っ込んできて、蓮雄の後ろまで移動してきた。

すぐさま、龍架の縄を解き、続いて王子の縄も解く。

龍架は半裸状態で、王子は全裸。……王子はほっておこう。

龍架の目を塞いでいたものを取る。

すると、いきなり抱きついてきた。

……胸がぁぁぁぁぁ!

急に泣き始めた。


「うぐっえぐっ……怖かった……怖かったよー!うえぇぇぇぇぇぇん!」

「ちょっ胸っ!?」


まるで子供みたいに泣きじゃくる龍架。それほどまでに怖いのは確かだったから、こんなんになっても仕方の無いことである。蓮雄はその事については何も言わないが……


「ちょ胸!マジで危険!今あなた下着状態だから!」

「うぇぇぇぇぇぇん!……うるさいっ!……怖かったんだから……怖かったんだからぁぁぁぁ!」


ヤバイィィィィィイ!下半身がぁぁぁぁぁぁ!そこまで豊かな胸じゃないけどぉぉぉぉ!

キャラ崩壊中の都茂龍架つもろんか。いつも大人っぽい女の子が、今は赤ちゃんみたいに泣きじゃくる。


「イチャイチャ中悪いんだけどさ、そういうことは裏でやってくれないかな?TPA的に悪いからさ」

「ご、ごめんなさい……」

「ごめんなじゃいぃぃぃぃぃ!」

「一旦泣くのやめて俺から離れような!?」


とその時。

ドゴン!

という爆発音と共に何かが天井を突き破って侵入してきた。

またしても大きな船。しかし、これは〈異賊暴オーガ〉ではない。そう俺は直感的にそう思った。

その船はゆっくりとこちらに向かって進んできていた。

その船の先端に、坊主頭でお坊さんのような服装をしている男が、槍の先端に珠々と2つの大きな鈴を付けている武器を持って立っていた。

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