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22 ――女王様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

★★★

忘れていないだろうか。あのドM厨二病(仮)のことを。

まだ、紀亜は頭おかしくなっていなくて――元からおかしかったごめんなさい――ナンもまだ死んだふりはしていない。蓮雄とヘルも飛び立った――決してあの世へ飛び立ったという意味ではなく――直後である。

ゼロの目の前にいる者は、〈異賊暴オーガ〉第5使徒〈神人ガブリエル〉大佐ディーダ・レロ。鳥のような感じで、翼が生えている。女だ。

ゼロと同じく、空を飛んでいる。武器は見当たらない。

どんな武器なのか注意しなければ、と思いつつ二刀流の構えをとる。

大佐、というほどなのだから、相当な腕の持ち主なのだろう。まぁ真の力を出せば、ちょちょいのちょいなのだが。

ディーダは腕を組んでこちらを見下したような感じで見てくる。

両者ともに動く気配はない。

そして、ゼロが動き出そうとした時。

――体が動かなかった。

動かそうとしても動かない。まるで、縄にでもぐるぐる巻にされているかのように。


「オホホホホホホ!」


急に笑い出すディーダ。


「動きたくても動けないんでしょぉう?オホホホホホホホホホ!」

「私に何をしたのでしょう?」


すると、ウフフフフフフフ、とディーダは笑い出す。

ゼロも、ウフフフフフフフ、と笑い出す。意味不明。


「アタシの武器はなんなのかご存知で?」

「さぁ?私にとって、ディーダ殿がどんな武器だろうと、関係ありませんから」

「でぇもぉ?身動き取れなかったら、関係ないとかそんなこと言ってられませんよねぇ?」

「いえ、むしろこちらの方がある意味興奮します」

「……」


そのある意味とはどんなことなのでしょう。考えるだけで吐き気がしてきますよ。

さすがドM厨二病。


「……あ、アタシの武器は『むち』なのですのよ〜」


スルーしたディーダ。


「……そうです……」


恥ずかしくて、真顔でなぜか賛同する。


「オホホ。今あなたの体は透明な鞭に縛られてるんですのよ」

「オホホ。私がこんなことで負けるとでも?」

「オホホ。そんなことを言ってられるのも、今のうちでしてよ?」


急にディーダの右手に現れた『鞭』。全長5m程の長い鞭だ。

身動きの取れないゼロに向かって、大きく振りかざす。その長い『鞭』はウインとうなるように、ゼロの腰に直撃した。

その『鞭』の威力はとてつもなく、骨が折れる音がした。


「オホホ。あたしの『鞭』は、どんな物でも壊しますのよ?骨なんて簡単に折れますわ。オホホホホホホ」


こんなのじゃ、勝てるわけがない。もう、今の時点で骨が折れているので勝つ事は不可能だ。

だが、ゼロには骨折を治す魔法が使える。しかし、治るまでにかなりの時間が必要となってくる。ゼロはこっそり、骨折したところに魔法をかけた。


「さぁて。もう1発くらわ――」

「女王様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ディーダの声をかき消すように、ゼロが叫ぶ。


「……なんですのあなた?」

「女王様。どうか私目を痛めつけてください」

「な、何を言っているのかしら?ここはSMプレイする場ではなくてよ?」

「早く私目にその『鞭』をぉぉぉ!……はぁ……はぁ」


ディーダは思った。

――こいつ完全にいかれてる!

だが、何故だろう。無性にこの男を痛めつけたくなってきた。なんか、それがあたしの楽しみのように。

無意識に手が動いた。そして、1発ゼロに当たる。ゼロの喘ぎ声が聞こえてくると、ディーダは覚醒した。


「オーホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホ!さぁさぁ痛がりなさい!この下僕が!」

「ぐわ!ぐわ!……ありがとうございます!」


戦場が、一瞬でSMプレイ場になってしまった。

まぁ2人とも楽しそうだからいいのだろう。

しかしゼロはよく平気でいられるものだ。あの『鞭』は1発当たるだけでも、骨が折れるのに。もう死ぬかもね。さよならゼロ。


ナンと紀亜はお互いに肩を持ちながら歩いていた。

痛みは体は嘘つかない。頭と腹部から血が流れ出てるナンと、あちこちから血が流れ出ている紀亜。そこまでたいした戦闘ではなかったのだが。

紀人は紀亜の実の兄である。だが、兄弟でありながら今は殺し合う立場にある。

楽しむためならなんでもし、復讐心で行動する兄。

恩人のために動き、暴走する兄を止める妹。

決して心が通じ合うことはない。そんな兄弟の、妹なんて世話するのはナンには早いかもしれない。

ゆっくりと、船の方向に向かって歩く。レオンはもっと酷い怪我を負っているに違いない。だから、助けに行かなければならない。親友を、仲間を死なせるわけにはいかない。そして、かつての仲間を止めに行かなければならない。たとえそれが、大切な仲間を失うことになろうとも、仲間が道を踏み外したならそれを修正する役目は仲間である俺等なのだ。その2つを胸に、ナンは歩いていた。が、その思いが一瞬で吹き飛んでしまう。

どうやら、たまたまラブホの前でも通りかかったのだろう。

無視して通り過ぎようとした時。


「ナン殿――ウホッ!――ご無事でしたか――ウホッ!」


そのバカに話しかけられて、立ち止まってしまった。

多分、俺の五感がさっきの戦闘でイカれてしまったのだろう。幻覚と幻聴が見えてしまう。

……我慢出来ない。


「お前何やってんだー!?」

「(キリッ」

「何がー!?」


二刀流の構えをしたまま、動けないのかその場で静止して、ディーダの鞭をまともにくらっているゼロの姿。だがなぜか、嬉しそうな顔をしている。一方、ディーダもなぜか楽しそう。

どこのSMプレイだ!?と、叫びたくな――


「SMプレイルル!」

「見ちゃいけませんー!」


叫びやがった紀亜の目を塞ぐ。まるで親子みたいだね!

この絵面は紀亜に見せてはいけない。悪影響を及ぼす。うん。

必死にナンの手をどけようともがいているが、魔法を使っている大人げないナン様の手をどけることはできない。


「……静かにしとくかー?」

「……はいルル」


どうやら静かにしてくれる――


「SMプレイル――ルジャブ!」

「うるせぇー!」


思いっきり蹴り飛ばす。ルジャブ!とか変な声を出しながら飛んでいったが、気にしなくてもいいだろう。

これで少しは静か――


「SMプレイルル――」

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇー!」


飛んでいった先で、大声で叫ぶから黙らせようと思って、銃で撃ちまくった。

さっきのあの前言撤回。もう死んでもいいわ。守らんくっていいわ。約束とかどうでもいいわ。紀亜どうでもいいわ。

結構撃ち込んだから、しばらくは静かになってい――


「SMプレイィィィィィィルル!」

「女王様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「お前ら永遠に眠っとけー!」


2つの銃の片方を紀亜に、片方をゼロに向かって撃ちまくった。

ゼロは地面に落ちてきて全身骨折で死んで、紀亜はもう死んだ。

銃口から出てくる煙をフッと吹きながらディーダを見る。斜め45度作戦決行中。

・・・

え?何この空気。ディーダさん?なんですかその顔は?


「……あなた……」

「俺は『三銃士さんじゅうし』の1人、ナン・ポレルートだー!」

「……敵なのか味方なのかどっちなのですの?」

「両方だー」

「いや普通は敵と言うべきじゃないのかしら……?というより、あなた今『三銃士』って言いませんでしたか?」

「……俺が勝手に今作ったー。忘れてくれー」

「というより、仲間殺してよくて?」

「ん?こいつら仲間だったかなー?アハハハアハハハアハハハ」

「……まぁいいでしょう。アタシの敵とあらば、殺してさしあげましょう」

「……殺れるものなら殺ってみな――」


瞬間、ディーダの鞭が飛んでくる。

それを、銃から出る剣で受け止めた。

――ここにて、ナンとディーダの戦いが始まったのである。

と、ナンは心の中でそう呟いた。

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