リベンジ
あの敗走から数日、出来うる限りの準備を終えた俺は再び森へと入ることにした。今回は神殿の近くまでゴーレムを誘導してから確実に仕留めようと考えている。
確実に、それが今回掲げた目標だ。
神殿を出て数分、前方に見覚えのある頭部を見つけた。石を当てて注意を引こうと考え、射程に入るまで接近することにした。
いよいよゴーレムが射程に入ろうとした時、自分の手が震えていたことに気付いた。
「ふーっ。」
俺は自分を鼓舞する様に大きく息を吐くと、手近にあった石を思いっきり投げた。
コンッという乾いた音が響き、ゴーレムがこちらを向いてきた。ゴーレムが歩き出すのを確認し、離れすぎて向こうが見失わない様に少しずつ神殿付近まで後退していった。前回の戦闘のときも感じたが、あのゴーレムはそこまでの移動速度は無いようだ。
神殿まで約30メートルの地点で止まると、無限収納に仕舞っていた木剣を一振り取り出して構えた。
近付いてきたゴーレムの一撃を木剣で反らし、逆に此方から体勢を崩すために思いっきり足元に蹴り込んだ。
少しでも体勢が崩れればと考えての行動であったが、予想に反してゴーレムはそのまま地面に倒れ込んでしまった。
「・・・・」
予想以上の効果に驚いて言葉が出なかったが、ゴーレムがうつ伏せになりゆっくりと立ち上がろうとしているのが見えたので、重心を掛けているであろう腕を木剣で払いもう一度転倒させた。
間髪入れずにゴーレムに飛び乗り馬乗りになると、木剣を投げ捨て右腕を持つと関節を思いっ切り逆方向に曲げた。ベキベキと木に力を込めて折った様な音が辺りに響き、ゴーレムの右腕を捥ぐことに成功した。
ゴーレムは体を捻りどうにか俺から逃れようとしていたが、関節の可動範囲が人間よりも狭く馬乗りの俺には殆ど効果が無かった。その隙にゴーレムの残りの四肢捥いだものの、頭がまだ動いていたので倒していないことは分かった。
「はぁはぁ・・・・・・こっからどうすりゃ良いんだ?」
頭と体だけの状態になりゴーレムは、ようやく暴れなくなった。ここから先どうすれば倒せるのか分からず、考えてみたが此処はテンプレ通りゴーレムを動かすための『核』が有るのではと仮定してみた。
無限収納から新しい木剣を取り出し『核』が有りそうな場所を軽く叩いてみた。心臓に相当する部分を叩いた時、今まで叩いた場所と明らかに違う何か詰まってるような音が響いた。
「ここか?」
確証は持てずにいたが、取り敢えず木剣で叩き割ることにした。木剣を大きく振りかぶり、ゴーレムの胸目掛けて振り下ろした。
木と木のぶつかり合う無機質な音が響き、腕が痺れてしまった。ゴーレムの胸に視線を送ると小さな亀裂は有るものの、まだ壊れる気配はなっかった。
それから数分間木剣で叩き続けると、ようやく無理やり引きはがせるだけの大きさの傷を作ることが出来た。俺は作った傷に手を入れると、そこから胸部の木材を引き剥がした。
「これかな?
思ってたよりも小さいな・・・・」
木材を剥がした場所には植物の蔓に覆われたピンポン玉サイズの玉が埋まっていた。
覆っていた蔓から無理やり玉を取り出そうとすると、何か繊維を引き千切った様な音を立てて玉が取れた。
取れたと同時に、俺の胸の辺りが何か温かい物で満たされていくのを感じた。その感覚で胸が満たされると、今度は胸に有った温かい物が体全体に溶けていくのを感じる事になった。
俺はこの違和感の正体を探るためステータスを確認してみた。
名前〈シューイチ・ハヤカワ〉
メインジョブ・テイマーLv.2
モンスター
1・---
サブジョブ・オールメイカーLv.1
スキル
意思疎通〈モンスター〉〈★★☆〉▼
木工細工〈★☆☆〉▼
(隠しスキル)
鑑定眼▼
言語理解▼
無限収納▼
スキルについては特に変わりは無かったが、テイマーのレベルが上がっていた。
詳細な能力の上昇はステータスの使用上不明だが、心無しか持っていた木剣が軽くなった気がした。テイマーのレベルは上がったもののオールメイカーのレベルは上がらなかった事から、メインとサブのジョブでは経験値の入りかたが違うのでは無いかと考えられた。
状況の確認が済んだの所で、一先ず神殿に帰ることにした。俺は投げ捨てた木剣とゴーレムの体を無限収納に入れると、神殿に歩を進め出した。
神殿に帰りようやく一息着いた俺は、今まで忘れていた疲労感に教われ堪らず眠りについてしまった。
△ △ △
翌朝、目を覚まし朝食を済ませた後、昨日無限収納に仕舞ったゴーレムを加工しようと取り出した。昨日は疲労感で忘れていたが、改めて倒したことを実感し、思わず口元が緩んでしまった。
これから俺が作ろうとしている物は、ゴーレムのパーツをベースにした防具の作成だ。幸いゴーレムの各パーツは中空状になっており、後は自分の体のサイズに合わせて『木工細工』を発動させるだけで良かったので簡単に済んだ。
今回制作したのは、ヘルメットとモンスターとの接触が激しい部分のプロテクターだ。作ったプロテクターを着けるのは胸部と前腕それに脛の各部位だ。
制作した防具を早速身に着け俺は森に出た。今回は、昨日と同じようにゴーレムを一体神殿近くまで連れてきた後、正面から戦い倒せるかどうか確かめてみることにした。
昨日、ゴーレムを見つけた場所より若干神殿よりの地点で見付けたゴーレムを神殿近くまで同じ方法で誘導し、戦闘を開始した。
まずは動きを鈍らせる為、木剣を正面に構えながらゴーレムとの距離を詰めていった。今回は、以前の敗戦を生かし、どこから攻撃が来ても対応出来る様に相手の全体を捉える様な視線運びを心掛けた。昨日同じ相手に勝てたためか、自分でも驚くほど落ち着くことが出来た。
ゴーレムの腕を振り抜いた一撃を木剣で往なしつつ、此方からの攻撃を関節部を中心に当てていった。
攻撃を防いだり、当てる毎に腕が痺れるような感覚に襲われたものの木剣を落とす様なヘマをせずに戦闘を継続することが出来た。
「ふっ!」
度重なる関節部への攻撃で動きの悪くなり始めたゴーレムの弱点である胸部に対して、渾身の突きを繰り出した。突きの代償として今まで使っていた木剣は砕け散ったものの、攻撃を受けた胸部を複雑に破壊することに成功した。
衝撃によろめいたゴーレムに対して、予備の木剣を無限収納から取り出した俺はひび割れた胸部に向かって思いっ切り木剣を振り抜いた。ゴーレムはこの一撃をもろに受け、衝撃で仰向けに倒れ込んだ。
俺は、胸部が破壊され完全に露出したゴーレムの核を握りしめゴーレム本体を片足で固定して核を引っ張り出した。核が無くなったゴーレムは、まるで糸の切れた人形の様に動かなくなってしまった。
モンスターを倒したことで、俺の胸の辺りにはまたあの温かな感覚が集まり広がって行った。
名前〈シューイチ・ハヤカワ〉
メインジョブ・テイマーLv.2
モンスター
1・---
サブジョブ・オールメイカーLv.2
スキル▼
(隠しスキル)▼
ステータスを確認すると今度はサブのオールメイカーのレベルが上がっていた。
俺は感覚を確かめながら自力でゴーレムを倒したことに満足し、拳を握るのだった。
戦闘描写がどうしても単調に・・・・・・