告白の夜・1
夜の十時を過ぎた頃、サラとバレットは作業を終え城門へと向かった。サラは城下町に住んでいるので徒歩で帰れるが、バレットはどうするのだろう。
「バレット君、どうやって帰るの?」
「俺? 帰らないよ。今日は薬草室に泊まりこみ」
「え? じゃあどうして」
「こんな夜に女の子一人で帰せないだろ」
どうやらバレットはサラを送るつもりで外まで出てきたらしい。外は真っ暗で、ところどころに配置されているランプの明かりだけが頼りだ。確かに一人で帰るのは危険なので、お言葉に甘えることにする。
「そっか。ありがとう」
普段は夜に出歩くことはあまり無い。足元の暗さが気になり、そういえばロックから返してもらったランプをカバンに入れていたことを思い出す。
「私、ランプ持っているんだった」
「お、準備いいじゃん」
「うん。ロック君が……」
ふたりは城門まで歩いてきていた。そこに、一台の馬車があるのが目に付いてサラの言葉は途切れてしまう。門番をしている衛兵と話をしているのは、茶色い髪の中背の人物、……ロックだ。
「ロック君……」
ロックはサラに気づくと、大きく手を振った。
「あ、サラ。丁度良かった。ほら、待っていた人が来ましたよ。だから、怪しいもんじゃないんですって」
どうやら、衛兵に詰問されていたらしい。昼間であれば、ロックも城に出入りするので衛兵とも顔見知りだが、夜には衛兵が交代する。見慣れない馬車が城門前にいたので、衛兵の方も警戒したのだろう。
サラは慌ててとりなしに入った。
「彼は私の知り合いです。怪しい人ではありませんから」
サラは自分の身分証を見せ、もう帰宅するところで彼も一緒に帰ります、と告げると衛兵はようやく安心したようにロックを離した。
「はあ、助かったよ」
ロックが心底参ったというふうに溜息をつき、バレットはそんなロックを見て溜息をついた。
「お前、なんでここにいるわけ?」
「え? サラが遅くなるって聞いたから送ろうかと思って」
「余計なお世話じゃねぇ? それ」
バレットが、ニヤリと笑ってサラの肩に手を伸ばしてきた。サラはぎょっとして離れようとする。さっきまで「告白すれば?」なんて応援していてくれたのに、なぜ急に邪魔に入るのか分からない。
ロックは表情を変えないまま、サラの顔を覗き込む。
「余計だった? サラ」
「そ、そんなこと無い。あのっ」
嬉しい。そう言おうとして、バレットも衛兵も聞いているのを思い出し黙った。
「邪魔だよねぇ。サラちゃん?」
「ちょっと、バレットくんやめて……」
ロックに誤解されると思うと眼の前が真っ暗になる。サラは嫌悪感を顕にしてバレットを睨んだ。すると思いもかけない方向から、腕を引っ張られる。ポスリ、よろけたサラが落ち着いた先は、ロックの左腕だ。
「僕には嫌がっているように見えるんだけど」
サラを後ろに隠すように、ロックが前に出てくる。バレットはそれを見て苦笑すると、ロックの肩を叩いた。
「全く。そういう態度をもっと先から出せよなぁ、お前も。そんなんだからお前は貧乏くじばっかり引くんだよ。……俺、戻るわ。またな」
「え? ああ、うん」
わけが分からないといった調子でロックが頷くと、バレットはニヤリと笑う。
「今度一発なぐらせろな」
「えぇ?」
慌てるロックの頬に軽く拳を当て、バレットは城内へと戻っていった。残されたロックは腑に落ちないといった様子で何度も首をひねる。
「なんだよ? ……サラ、今のなに?」
「さあ?」
サラは微笑んだままロックの隣に立った。さっきの行動は、守ってもらったと思っていいのだろうか。少しだけ自信を持って、サラはロックに尋ねた。
「帰りの時間なんて教えてないのに、待っててくれたの?」
「そのうち来るかなって思って。僕、結構夜の散歩って好きなんだよね。星も見えるし」
「星?」
「そう。小さくて見えづらいけど、綺麗じゃない?」
言われてサラも空を見上げる。確かに小さな幾つもの点が煌めいている。その瞬きを見ながら、サラは決意を固めなきゃと口元をひきしめた。
「それでどうだったの? マカラ草は」
「え? あ、そうね」
意気込んだ途端にあっさりと普通の話をされて、サラからは裏返ったような声が出る。
「大丈夫だった。多分元気になると思うわ」
「そう。良かったね」
「それで」
「あのさ」
最後の言葉は二人同時にでて、同時に押し黙った。
「……ロック君先にいいよ」
「いや、サラこそ。何?」
いつもなら再びロックに話をふるところだけれど、今日はバレットと約束している。怖くても逃げないと誓ったのだから、とサラは唾を飲み込んだ。
「ちょっとゆっくり話せる? ロック君に伝えたいことがあるんだけど」
「いいよ。僕もあるんだ。そこの城門前広場でいい? 今の時間なら、人も殆どいないし」
「うん」
ロックは馬車を広場の入口のところへ移動し、馬の綱を木に引っかけた。サラはランプに明かりをつけて、少し離れたところで彼を待つ。




