夜の光・1
その晩はよく眠れなかった。閉じた瞼越しに朝の光を感じ、ベッドの上で体の向きを変える。寝ては起きての繰り返しだったので、時間にすれば六時間はベッドにいるはずだがちっとも疲れが取れていない。
今日は夜に薬草調査をするので、十五時からの出勤になる。慌てて起きることもないので、ベッドの中で思考をめぐらした。
バレットからの告白に、どう返事をすればいいだろう。悩む必要が無い程、サラは彼に対して恋愛感情は持っていない。それでも揺れてしまうのは、一人の期間が長すぎたからだろうか。
「ダメダメ、こんなんじゃ」
喝をいれるつもりで呟く。
もうひと眠りしたほうがいいかもしれない。疲れの取れない体では、考えがいい方向に向く筈もないだろう。
サラは柔らかいシーツに頬を押しつけて、再び目をつぶった。
*
再び目を覚ました時、時計は昼を回っていた。両親はとっくに仕事にでていて、朝食がキッチンに置かれていた。サラは、それをかっこむように食べ、急いで身支度を整え走りだした。
こんなにぐっすり寝れるのなら、なぜ夜は眠れなかったのか。二度寝の魔力を身をもって体験する。
「いけない、遅れそう」
サラは足を速めた。実際、時間的には十分前には到着できるほどの余裕があるが、新米が遅れて嫌味を言われるのはどこの世界でも一緒だ。
城の門が見えるところまで来て、サラの足が止まる。城門に見慣れた人物を見つけたからだ。
「……ロック君」
柔らかそうな茶色の髪、穏やかそうな瞳。いつもと変わらぬロックを見て、サラの胸がきゅっと詰まる。
「やあ、サラ」
「どうしたの? こんなところで」
「ちょっと用事があってね。サラに逢えてよかった。これ」
そう言って、ロックはランプを取り出した。昨日返してもらいそびれたものだ。
「これを、……わざわざ?」
「今日、夜仕事なんだろ? 帰り、暗いと危ないし、丁度いいかと思って」
「ありがとう」
ロックの手からそれを受け取ると、なんだか、温かい光をもらったような気分になりふっと頬が緩んだ。ロックの方は、顎をさすりながら覗きこむようにサラを見る。
「サラ、大丈夫?」
「え? 何が?」
「なんだか心細そうだから」
サラは返す言葉を失った。そんな風に気にかけてくれていたことが嬉しかった。それと同時に、自分が心細そうに見えている事自体が意外だった。
「大丈夫。私元気よ? そんな……心配してくれるなんて思わなかった」
嬉しさで泣きたくなる。彼をじっと見つめると、ロックが意外な行動に出た。一歩前に出ると、サラの肩をぐっと掴んだのだ。
「今日の夜も大丈夫なの? バレットと二人なんだろ? サラは表情に出ないから分からない」
「ロック君」
「色んな事、言ってくれないと分からない」
彼の行動にいつもと違う熱があるような気がして、サラは期待で胸が高鳴った。見つめ返せば顔が熱くなってくる。恥ずかしさでロックに普通に接することができなくなりそうで、サラはすぐに視線をそらした。
するとロックからは溜息が漏れた。
「……ごめん。余計な心配か」
「ち、違うの」
焦って取り繕っても遅い。一瞬だけ近づいた距離は、再びいつもの距離に戻ってしまった。
――なぜ目をそらしてしまったんだろう。とても、嬉しかったのに。
「ロック君」
「何?」
ロックの瞳は、いつもどおりの穏やかさに戻ってしまっている。サラの勇気は条件反射で萎んだ。
「私ね」
言ってしまえばいい。好きなのだと、いつまでも友人でいるのは辛いのだと。だけど、友人でも居られなくなることがそれ以上に辛い。彼との接点を失う勇気が持てない。
「……バレットくんに告白されたの」
口を衝いて出たのは、言わなくても良いことばかりだ。
ロックは戸惑った表情で、サラを見つめる。
「どうしたら、……いいかな」
口を出せば出すほど、泥沼にはまっていくようで、サラはもう泣きたくなる。ロックの方は困ったように笑うと、お決まりのセリフを口にした。
「サラはどうしたい?」
――それがわからないから聞いてるのに。
サラは泣きたいような気持ちで、それでも表情だけは取り繕って言った。
「……わからないの」
ロックは返事をくれなかった。沈黙が場を支配して、サラはいたたまれなくなる。
「ごめん、遅れるからもう行かなくちゃ」
耐え切れず先に沈黙を破ったのはサラの方で、足早に彼の脇を通り過ぎて、振り向くことなく城内へ入った。




