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過去と未来を繋ぐ色(『黒の英雄』番外編)  作者: 坂野真夢
第二章 真夜中に咲く花
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ディアナの手紙・2

「解決しそうなら良かったね。サラ、お茶飲めば、冷めちゃうよ」


 ロックはアイクから許可を得て見せてもらった手紙を眺めながら、サラを見る。


「ロック君のとこには手紙は来てないの?」

「うん。僕のところには来てないよ。あ、でもこの間デルタさんのところには来たって」


 デルタとはディアナの父親だ。ディアナは大人しく筆を握って書き進められるタイプではない。双方の家族に手紙をだすだけでも、かなりの労力を使っただろう。


「しばらくはどこかの町にいるって話だよ。そのうち僕やサラにも手紙が来るかも知れないね」

「そうね。……でも、ディアナはきっと、一通書くだけで一日終わっちゃう気がするから。大分先じゃないかしら」

「確かに」


 ははは、とロックが懐かしそうに笑う。社交辞令とは違うほほ笑みは、いつもディアナ絡みでしか見せないように思う。そんな姿を見るたびに、サラは黙りこむことしかできなくなる。それ以外に、何ができるだろう。思い出を奪うことなんて誰にもできない。


「なぁ。サラちゃん」


 大きな太い声に呼ばれて、サラは顔をあげる。バレットが身を乗り出すようにしてサラを見ていた。


「帰りどうすんの? 一緒に帰ろうよ。俺んち、西のカカラ町なんだ。サラちゃんは城下町だろ?」


 城下町はここから北の方向だ。西のカカラ街とは方向が違う。


「え? 城下町を回ったら遠回りだわ。それぞれ乗合馬車で帰りましょうよ」

「サラは僕が送って行くよ」


 二人の会話に、さらりとロックが混じってくる。


 現在地であるニニカ村から馬車で移動したとすると、カカラ町は北西方向に15分、城下町は北方向へ1時間、ロックの住むガルデアは東方向へ10分だ。ここから一番近いロックに、城下町にまで戻ってもらうんでは申し訳ない。


「大丈夫よ、二人とも。まだ乗合馬車はあるし、一人でも平気」

「いやでも、女の子一人じゃ危ないよ。サラちゃん可愛いし」

「だから、僕が送って行くよ。自前の馬車だから乗合のものより早く着くし。バレットも乗合馬車を乗りついで帰るんじゃ大変だろ」

「いや、大丈夫だけど?」


 バレットが、サラの座っている椅子の背に手を乗せた。自分の方がより親密であるとでも言うように。そこには威圧的な空気が漂っていて、サラは何故かぎくりとする。ロックは、困ったように笑うとサラに向かって問いかけた。


「……サラはどうしたい?」


 ロックに覗きこまれるように見られて、サラの頬が赤くなる。


『ロック君が良い』

 そんな本心をここで言うのははばかられる。


「私は一人で大丈夫だってば」


 ロックはその答えを聞くと一つ溜息をついてほほ笑んで身を引いた。


「分かった」

「……ロック君」

「じゃあ、俺が送ってっていいんだな」


 逆にノリノリになって身を乗り出してくるのがバレットだ。


「バレットくん、本当にいいの。大丈夫」


 バレットのその申し出を断るのに、サラが何度も断らなければならなかった。押し問答をしているうちに時間も遅くなり、セリカが笑って軽食を出してくれた。


「もてるのも困ったもんね、サラちゃん。みんな、もう早めの夕食になるけど軽く食べてからお帰りなさい」

「おっ、いい匂い」


 すぐに飛びついたのがバレットだ。調子がいいけれども、気の優しいいい人ではある。


 皆で和やかに食事をしていると、先に食べ終えたアイクが、書斎から一冊の本を持ってきてくれた。


「サラちゃんが、ディアナちゃんの後を継いで薬草治療をしているんだろう。私も何度か調査にいくから、これからもよろしく頼むよ。……で、これ、薬草について色々書いてあるから、参考にどうだい?」

「わあ、ありがとうございます」


 パラパラと中を確認すると、調べたかった薬草の情報がいくつもある。サラは何度もお礼を言って、その本を抱きしめた。


「ごちそうさまでした」


 ウェルドック夫妻にお礼をいい、三人はロックの馬車に乗り込んだ。このニニカ村には、乗合馬車の乗り場がないのだ。一番近い乗り場がガルデア町になるため、まずはガルデアまで向かう。

先に、西方向の乗合馬車の乗り場に到着し、バレットが下りた。


「じゃあ、サラちゃん。今度一緒に薬草の見張り頼むよ」

「あ、うん。……夜なんだよね。許可が下りるといいけど」

「何とかする。じゃあ、気をつけて」


 バレットは笑って、ロックとサラに手を振った。彼の見送る視線を背中に感じながら、馬車は再び走りだした。

 今までバレットが中心に話していたからか、急に二人きりなると会話が盛り上がらない。辺りは真っ暗とまではいかないが、染め上がった朱色にも随分影が指している。日が完全に暮れる前にと思うと少し焦る。荷台に座っていたサラは、心細くなり御者席の方を見た。


「寒いかも知れないけどこっちに来る?」

「うん。いい?」


 ロックの提案に飛びついた。一人で乗る荷台は広すぎて寂しい。一度馬車を停めてもらい、御者席を詰めてもらって並んで座る。座席は一人には広いが二人では狭い大きさだ。思わぬ形で密着することになり、サラの胸は激しく鳴る。


「サラ、……夜の見張りは危ないんじゃないの?」


 闇が迫る中で聞くロックの声は不思議と暖かかった。


「うん。でも私にとっても仕事だから。それにバレット君がいるから大丈夫よ、きっと」

「だから言ってんだけどな」


 その時、車輪が道のくぼみにはまり、一瞬傾いて戻る。その音が大きく過ぎて、ロックの返事はサラに届かなかった。


「危なかったね」

「うん。そうだね」


その後しばらく会話が途切れて、サラは先ほどアイクにもらった本をぎゅっと抱きしめる。

ロックと話したいのに、いざ二人きりになると何を話したらいいのか分からなくなる。共通の話題と云えばディアナのことになるのだが、今は彼女の話はしたくなかった。


もっと何か、自分とロックだけの何かが欲しい。


切に願いながら、サラは自分の指先を見つめる。そして、いつの間にか景色が変わっていたのに気がついて顔をあげた。


「ロック君。もしかして、乗り場を過ぎてない?」

「やっと気付いた? やっぱりもう暗いから送ってくよ。散歩みたいなもんだから、気にしないで」

「でも……」


 反論しようとして、やめた。それが友情からだろうがなんだろうか、彼が自分の為に労力をさいてくれるのだ。素直に喜ばなくては勿体無い。


「……ありがとう」

「どういたしまして」


 ロックが笑う。サラは嬉しさを抑えきれなくて、隠すように空を見上げた。


「ね、ロック君、一番星」

「ああ、本当だね」


――今は友達でもいつか。


きらめく一番星に、サラは心から願った。


――いつか私を好きになって。



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