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過去と未来を繋ぐ色(『黒の英雄』番外編)  作者: 坂野真夢
第一章 栗色の髪の乙女
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迷い・1

 そして水曜日、デルタは城門前でリリアを待った。しかし待てども待てども彼女は現れない。

こんな日に限って懐中時計も忘れてきている。門番に時間を聞くと憐れむような眼差しで「一時半だよ」と告げられる。約束の時間はもう三十分も過ぎていた。


 デルタは顎をさすると城壁に寄りかかった。

 おそらく何かがあったのだろう。返事をする、と言った以上約束を破るような娘ではない。その辺りは父親に似たのか彼女は武人基質だ。


 やがて二頭立ての大きな馬車が城門を抜けて行くと、治療師の恰好をした女性がひょっこりと顔を出した。リリアか? と期待して顔をあげてみるも別人だった。思わず溜息を漏らしてしまい、失礼さに気付き頭を下げる。



「あなたがデルタさんですよね。 私、治療師のカタリナと言います。リリアから伝言を預かっています」

「リリアから? 何かあったのか?」

「いえ、リリアではないんですが。担当している患者さんの方で色々あって緊急に出掛けなくてはならなくなって。今日は会えないとのことです」

「そうか。……仕方ないな。わざわざありがとう」

「いえ」


 カタリナという治療師は頭を下げてまた城内に戻っていく。


 もしかしたら、先ほどの二頭立ての馬車にリリアが乗っていたのかもしれない。いつもこの曜日に往診するクラスター家のご令嬢は、王子殿下の想い人だというし。体調でも悪化したら急ぎで呼ばれることもある。いくら気の強いリリアだって、王子殿下の命令には逆らえないだろう。

 自分に言い聞かせるように頭の中で思いつく理由を考える。そしてふと、自分がいじけていることに気づく。

他の要件を優先されたことに、若干の悔しさを感じているのだ。


「違う、俺はただ、返事が後回しになって気が抜けてしまっただけだ」


 呟きが余計それを強調させていることにデルタは気づいていない。




 それから数日。リリアから音沙汰は無かった。夜もよく眠れなくなってきたデルタは城気付でリリアに手紙を出した。次に会える日を教えてほしいという内容のものだ。


 すると更に数日後、返事が届いた。真っ白な封筒で送ったデルタに対し、リリアからの手紙にはポプリが添えられていて、香りが胸の奥ときゅっとつまらせた。


【クラスター家のご令嬢が体調不良で、現在城で集中治療を行っています。

担当治療師として、今は城から出られません。

落ち着き次第連絡します。】


 内容はデルタが先日予想した通りだったが、落胆は隠せなかった。


 待つということは予想以上に辛い。まして告白の返事待ちをしている身としては尚更だ。


 リリアのように情報通ならいいのだろうが、デルタはその真逆をいく。その後も、リリアの手紙からもらえる以上の情報を入手することが出来ず、一体リリアがいつ頃落ち着くのか予想さえも出来なかった。


 それでも一週間は黙って待った。しかし、ついに耐えられなくなったデルタは馬を走らせた。目的地は、ガルデア町だ。


 城に入場するための権利が無いデルタにとって、すがれる人物がバジルしか居なかった。まだ恋人でも無いのに、勝手に彼女の父親に会うのはおかしい。分かってはいたがじっとしていられなかった。



 ガルデア町に着きバジルを訪ねると、抜き身の剣を持ったままドアを開けられたので、デルタは思わず後ずさった。


「うおぁ。すみません」

「……若造。なんだ、お前一人か」


バジルは驚いたように、デルタの周りを見回す。


「驚かせて悪かったな。剣の手入れをしておった。リリアなら、しばらく城から出られないんじゃなかったのか? わしのところにはそういう手紙が来たが」

「ええ。俺のところにもです」

「じゃあ何故ここにいる」

「バジルさんに会いに来たんです」

「……なんかあったのか?」


 バジルはようやく剣を下ろし、デルタに家に入るように指示した。部屋に入り勧められるままに椅子に座る。剣を手入れする砥石を片付けているバジルを見ながら、何を話したらいいのやら、と頭を抱えた。



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